斗和は降りしきる雨の中帰宅し、風呂を沸かし入る。
風呂で泣けば、何もかも全てを流してくれるような気がした。
「うっ…ふっ、あぁ…」
それが単なる錯覚だとしても、斗和は縋った。
ただただ無心で泣いた。
明日からは涙一つ流してはいけないのだ。
斗和は自分を罪深い人間だと思った。
被害者は実弥だ。
斗和は風呂から上がり、鏡台で体を確認する。
槇寿郎から付けて貰った痕は、くっきりと浮き上がっている。
痕が消える前に会う必要がある。
もって数日だ。
その間に実弥からから連絡がなければ、斗和から訪ねなければならない。
だが、これまで斗和から先に赴いたことはない。
必ず実弥から連絡が来てから行っていた。
自然に見せかけなければ成功しない。
斗和は、明後日までに鴉が飛んでくるよう祈った。
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翌日は鴉が来なかった。
今までの会わない期間から、そろそろだと思っていた。
見誤っただろうかと、斗和は一気に不安が押し寄せる。
連絡もなく斗和から行けば、確実に怪しまれる。
"平気で実弥を裏切る酷い女"
こう思わせなければならない。
(お願い、明日には来て…)
焦りばかりが斗和を支配していた。
更に翌日、斗和は警備を終え帰宅した。
昨日は連絡が来なかった。
(今日は、今日こそ来てもらわないと…!)
斗和は昨日から焦燥感が酷く、任務上がりでも眠れずにいた。
昨日は眠っておらず、体がだるかった。
風呂に入り少しでも仮眠をとろうとしていた時だ。
待っていた鴉が来た。
だが鴉の様子は焦っているのか落ち着きがなく、羽根をばためかせる。
「斗和!屋敷ニ来イッ!屋敷ニ来イッ!」
それまで斗和に対し、鴉・爽籟は穏やかに伝令していた。
いきなり様子がおかしくなったので、実弥に何かあったのではないかと思った。
(まさか大きな怪我をした!?)
斗和は急いで髪を乾かし、風柱邸へ向かった。
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祈りが通じ、鴉は斗和の元へ来た。
だがいざとなると、怖気づいてしまう。
門を潜れば後戻りはできない。
元から戻る気もないが、やはり不安が押し寄せる。
それでも斗和は、先に進むしかなかった。
玄関を二、三度叩くと、勢いよく開き実弥が現れた。
「……!」
斗和は思わず息を呑む。
目は吊り上がり、全身から怒気を放っていた。
実弥のこのような姿は、久しく見ていなかった。
数年前に初めて手合わせをした時でさえ、ここまでではなかった。
斗和は気付いた。
今まで実弥の一部しか知らなかったことを。
目の前の男は、鬼を滅する為に鬼殺隊にいる。
厳しい姿は当たり前なのだ。
想いが通じ合う前から、実弥が斗和に向ける目は穏やかだった。
本来は厳しい表情ばかりの男である。
それは分かっていたことだ。
だが、優しい姿ばかりが斗和の目に焼きついている。
実弥は、いつまでも中に入らない斗和に舌打ちする。
腕を引っ張られた斗和は、強引に玄関へと入った。
「突っ立ってんじゃねェ!さっさと草履を脱げェ」
「………」
斗和は無言で従い草履を脱いだ。
すると実弥は腕を取り、居間に連れて行く。
斗和に治療用の箱を渡し、腕を差し出す。
見れば血が流れており、斗和は頭の手拭いを取り血を拭いた。
そのまま無言で手当てをし終わると同時、実弥は斗和の腕を掴んだ。
それは痛いくらいで、抵抗できず連れて行かれる。
向かった先は実弥の私室だった。
虫の居所が悪いのか、嫌なことでもあったのか。
今の実弥は感情が高ぶっており、相当に苛ついていた。
まるで無数の棘のようで、斗和は声を掛けることができなかった。
同時に、好都合だと思った。
こんなにも怒っているならば、体を見たら益々怒りが湧き上がると予想した。
斗和はぐっと拳を握りしめる。
だが同時に、言い知れぬ不安も込み上げてくる。
実弥が醸し出す気は、尋常でない程に禍々しい。
同じ隊士だからこそ分かる、柱の威圧感だ。
(任務で何があったの…?)
斗和は声を掛け、話しを聞いてあげたかった。
たができないのが苦しかった。
実弥は部屋に入るなり布団を乱暴に敷くと、斗和をその上に押し倒した。
「っ!」
まだ早朝と呼べる時間だ。
斗和もだが、実弥も昨晩の任務から帰宅したばかりである。
寝ていないにも関わらず、実弥は疲れている素振りは全くない。
むしろ血が猛り、斗和を見下ろす顔は恐ろしかった。
目は血走り、飢えた獣のようで欲を灯している。
性急で噛みつくような口付けに必死で耐える斗和だが、歯が当たり実弥の口唇を切ってしまう。
「チッ!」
舌打ちと共に睨まれたが、斗和は目を逸らし謝らなかった。
早く怒鳴り散らせばいい。
お前などいらないと、消えろと告げればいい。
そう願い顔を逸らした。
実弥は斗和の首筋に顔を埋め、乱暴な手付きで野良着隊服の帯を解く。
合わせに手を掛け、左右に一気に開いた。
「!?」
斗和は風呂上がりだったので、サラシを身に着けず来ていた。
槇寿郎から付けられた痕は丸見えになり、忙しなかった実弥の動きが、大袈裟なまでにぴたりと止まる。
数秒後また動き出し、斗和が身に纏っていたものを全て取り払った。
そして隅々まで確認するように凝視し始める。
実弥は無心状態だった。
なぜ恋人の素肌に、口付けの痕が点在しているのか分からない。
その手つきは酷く乱暴だった。
股を左右に大きく開き、持ち上げる。
うつ伏せにし、普段は見えない箇所までくまなく見た。
検分さながらのその時間は、羞恥心だけが支配する。
これが実弥に付けられたものなら、どれだけ嬉しかったか。
実弥のものだという証だったら、どんなによかったか。
斗和は何度もそう思った。
早く怒鳴り、罵倒し、出て行けと言って欲しい。
お前とは終わりだと、二度と顔を見せるなと。
そうすればつらい時間は終わりだ。
実弥は自由になれる。
何もかも元に戻るのだ。
斗和が顔を逸らしていると、実弥から頰を掴まれ強引に向き合わされた。
「!!」
「逸らしてんじゃねェ!」
ぞわりと鳥肌が立ち、ほとばしる強烈な怒気が斗和を射抜く。
怖くて目が逸らせず、体が震えるのが分かった。
「…斗和、この体の痕は何だァ…?」
「………」
「何だと聞いてんだァ!さっさと答えろォ!!」
ドンッ!!
斗和が無言を貫いていると、顔の横に拳が振り下ろされた。
ビリビリと全身に伝わる実弥の放つ怒気に、体が震えて止まらない。
心臓は早鐘を打ち、動いていないのに呼吸が荒くなる。
「誰に股開いたァ!?アァッ!?」
「………」
実弥の強烈な怒声に、斗和はガタガタと震えが止まらない。
それでも絶対に口を開かなかった。
「…斗和、俺の女に手ェ出した塵は誰だァ…?」
「………」
「理解できねェのかァ?…お前が股を開いた相手は誰だって聞いてんだよォ」
どんなに実弥が問おうと、斗和は喋らなかった。
その姿に、実弥はブチンと堪忍袋の緒が切れた。
「てめェは誰のもんか分かっていないようだなァ?…もういい、この口が吐かねェなら体に聞いてやる」
酷く冷たい声色で発せられたその言葉を最後に、実弥は狂ったように斗和を抱いた。
優しさなど皆無の酷く手荒な愛撫だった。
「っ…」
大して潤っていない秘部を無理矢理貫かれ、斗和は痛みに小さな悲鳴が出た。
声を出さないよう、泣かないよう口を押さえ必死で耐える。
ほんの少し盗み見た実弥の表情はつらそうに見えた。
今にも泣き出してしまうのではと。
斗和は、実弥を苦しめていることがつらかった。
だが、避けては通れない。
実弥は訳が分からなかった。
昨日の任務は精神的にきつかった。
ぶつけようのない感情が収まらず、斗和に会いたくて呼び出した。
実弥は、いつしか斗和に癒しを求めるようになっていた。
独りだった頃はそれ程感じなかった感情が、斗和と恋仲になってからは強く湧き上がる。
ただ傍にいて欲しかった。
だが、普段と違い一言も話さない斗和に怒りが込み上げた。
なぜ全く喋らないのか、目線すら交差しないのか。
それは避けられているように感じ、実弥は酷く落ち込み怒りが込み上げる
とにかく、どうにか落ち着かせたくて抱こうとした。
だが斗和は、その体に赤い花をいくつも咲かせていた。
明らかな情事の痕跡を、全身で現していた。
愛する女が他の男に抱かれた。
ブチンと何かが切れる音がした。
目が合うと、実弥は斗和に蔑視を向ける。
「その顔で、その目で男を誘惑したのかァ!?…ハッ!目ェ離した隙に男を咥え込んでるとは…大した女だなァてめェはよォ…!」
実弥は怒りのまま、乱暴に斗和を揺さぶる。
斗和は、どんなに罵声を浴びせられても構わなかった。
どんなに乱暴に扱われようと、そんなことはどうでもよかった。
今つらいのは実弥なのだ。
斗和は声を出すことも悲しむことも泣くことも、絶対に許されないと思った。
実弥は一度精を放つと、一旦自身を引き抜き斗和を見下ろす。
「…相手は誰だァ?」
「…………」
斗和は決して口を開かなかった。
「ハッそーかよォ…まだ吐く気はねェのかァ…」
実弥は呆れ、続けて斗和の乳房を強く乱暴に揉みしだいた。
乳房の先端は更に乱暴に弄られ、斗和は痛みに顔を歪める。
実弥の呼吸は荒く、怒気と性欲が入り乱れていた。
恐いはずなのに、寂しそうに見えた。
実弥は斗和を四つん這いにさせ、後ろから一気に貫く。
「んっ…っ」
先程よりも激しい動きに、斗和は懸命に耐える。
力が入らず突っ伏すが、それでも実弥は容赦なく突き立てる。
斗和はなすがまま揺さぶられながら、ぼんやりと思う。
(実弥さんはまだ私を求めてくれるの…?こんな最低で酷いことをしている私を…)
布団に突っ伏した顔からボロボロと涙が溢れた。
なぜ実弥は突き放さないのか。
自分を裏切った酷い女である斗和を、なぜ見限らないのか。
実弥はやはり優しいのだと、斗和は心底思った。
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貫かれて何度目になるのか。
斗和は朦朧としていた。
揺さぶられているのだけは、辛うじて分かった。
昨日から眠っていないせいもあり、痛みが少しずつ遠のいているように思えた。
槇寿郎が付けた痕を上塗りするように、至る箇所を強く吸われた。
更にたくさんの赤い花を散らした斗和の体。
既に手にも足にも力が入らない状態だった。
斗和は意識が霞んでいく中、気付かれないようほんの小さな声で呟いた。
「…さよなら…」
言うつもりなど微塵もなかった。
だが、勝手に口から出ていた。
重くなった瞼が閉じられる前に一瞬見えたのは、実弥の悲痛な顔だ。
そして"斗和"と名を呼ぶ、必死な声だった。
(実弥さん…ごめんね…こんな弱い女で…。彼の手を取ってしまった私の罪は重いのかな…)