※実弥視点
気を失った斗和から自身を引き抜き、我に返った。
俺は何をした?
力無く横たわる斗和の体。
裸体のあちこちに散らせた、花のような赤い鬱血痕。
この女は俺だけのものだと印を刻んだ。
昨夜は虫の居所が悪かった。
警備中、母親が鬼となり家族を襲っていたのに遭遇したが、一足遅く誰も救えなかった。
自らの過去と被った。
すぐに伝令を受け行けば、隊士四人のうち一人が鬼にされ、残った三人を襲っていた。
隊士を鬼にしたと思われる最初にいた鬼は既に消え、事切れた三人の前で元・隊士の頸を斬り終わった。
階級が上だったのかそいつはなかなかに強く、一太刀浴びてしまった。
胸糞悪い夜だった。
醜い鬼共はいつまでたっても消えない。
皆殺しにしてやりたいのに次々沸いて出る。
鬼にされ仲間を襲う隊士。
仲間に襲われる隊士。
何もかも一瞬で全てが崩れ去る。
これが鬼を狩るという現実だった。
こんなところに、たった一人遺った弟を居させたくない。
なのにあいつは居続ける。
何もかもにむしゃくしゃし、怒りと興奮が収まらず帰宅早々に斗和を呼び出した。
"実弥さん"と呼ぶ、彼女の穏やかな顔を見れば、この怒りも落ち着くんじゃないかと思った。
俺は柄にもなく癒しを求めた。
だが、やってきた斗和の顔に表情は無かった。
それどころか言葉一つ無い。
落胆は怒りに変わり、血が猛り性急なまでに斗和を求めた。
まさか彼女が、他の男に抱かれていたなど思いもしなかった。
全身に散りばめられた鬱血痕。
それは、確実に裸にならなければ付けられない際どい場所にいくつもあった。
問いただすも何も答えず口を噤む姿に、ブチンと何かが切れる音がした。
そこから我を忘れ、怒りのまま乱暴に斗和を抱いた。
痛みに顔を歪めた姿が視界に入れば、どうしようもなく苛立った。
俺の腕の中で快感に酔いしれる斗和の姿が浮かび、この顔で他の男を誘惑したのかと罵り更に貫いた。
相手は誰だ?
誰が一体…!
どこの野郎が俺の斗和を…!
何をされても悲鳴一つ上げない斗和を見れば見る程、どうしようもなくドス黒い怒りが湧き上がる。
俺はこの女に裏切られたのか?
散りばめられた痕を見た瞬間から、気が狂いそうだった。
なぜ何も言わない?
なぜ黙っている?
斗和が一体何を考えているのか、分からなかった。
もうどうにでもなれと揺さぶられる斗和に目を向ければ、愛おしそうに俺を見ていた。
なぜそんな目を向ける…?
俺を裏切り他の男に抱かれたお前が、なぜそんな目で俺を見る?
そうしてるうち、斗和の両目から涙がこぼれた。
そして、掠れた小さな声でさよならと…
確かに聞こえた。
その言葉でやっと気付いた。
ゆっくり閉じられようとする瞼、彼女の名を何度も呼んだ。
冷静であれば分かることだった。
斗和は理由も無しにこんなことはしない。
どこまでも遠慮し、泣いて俺を好きだと何度も告げた女だ。
そんな斗和が、俺を裏切るような行為をするわけがない。
蓬萊斗和という女のこれまでを見ていれば、すぐに分かることだった。
だが俺はその場の感情のまま、怒りに任せ斗和をめちゃくちゃにした。
何があった?
何を隠している?
なぜそんなにも俺から離れようとする?
込み上げる後悔の念に頭を抱える。
横たわる斗和に俺の寝間着を掛け、その顔を見れば酷く青白い。
一瞬彼女が死んでいるんじゃないかと思い、慌てて胸に耳を当てた。
鼓動が聞こえ安堵する。
だがそれは、聞いていればおかしいことに気付く。
心拍が一定ではない。
酷く乱れている。
まさかと思った。
───────
──────
眠っている斗和をそのままに、蝶屋敷へ駆け込み胡蝶を探した。
俺の大声に、部屋から出てきた黄色い頭の男が寝惚けながら目を擦る。
「ちょっとー誰だよ…うるさいな…!?」
「胡蝶はどこだァ!?」
「ギャァァァァ鬼ぃぃぃ!!鬼が出たああああ!!」
俺を見て騒ぎ立てる黄色い頭を押さえつける。
「死にたくねェならさっさと言え!!」
「し、しのぶさんなら裏手にある山に…」
言い終わる前に飛び出し、蝶屋敷の裏手の山へ走る。
そこには、胡蝶と二つ結びの女がいた。
「不死川さん…?血相抱えてどうしたんですか。怪我の治療なら…」
「話しがある!」
胡蝶は何かに気付いたのか眉を顰め、二つ結びの女に先に戻るよう告げる。
二人きりになった山は、やけに静かだった。
「不死川さん、寝てないでしょう?酷い顔してますよ」
胡蝶は呆れた目で俺を見ている。
「斗和の、蓬萊斗和の体はどうなってる…?」
「………」
胡蝶は何も言わない。
「知ってんだろォ!?言え!」
「彼女から口止めされています」
胡蝶は俺を見据えきっぱり言い放った。
「胡蝶…!」
しばらく黙っていた胡蝶は、大きなため息を吐き口を開いた。
「…まったく、損な役回りですよ。…蓬萊さんは心臓疾患です。おそらく、生まれつき弱かったんだと思われます。私が気付いたのは彼女が煉獄さんとの任務に赴いた後、何度も確認しました。紛れもない事実です。彼女自身はもっと前から気付いていたと思われます」
心臓疾患…あの乱れた心拍はそのせいなのか。
「治るのか…?」
絞り出した声は、予想以上に小さく震えていた。
すぐに首を左右に振る胡蝶の姿に、気が遠くなる。
「…日増しに悪化しています。弱った心臓に、全集中の呼吸は命取りです。あまりにも負担が大きすぎるんです。蓬萊さんには既に伝えています。酷ですが…もって半年かと…」
目の前が真っ暗になった。
見開いたままの目が胡蝶を映し、姿がなくなってもその場に立ち尽くしていた。
もって半年…?
「カァッ!」
「!」
鴉の声に我に返ると、一目散に自宅に帰る。
斗和が寝ているはずの部屋を開けると、彼女の姿は既に消えていた。
綺麗にたたまれた布団と寝間着だけが残されていた。
斗和…