※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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柱稽古・前夜

甘味屋で村田と会ってから二週間経ったあたりだ。

 

柱より、全隊士に鴉を使い伝令があった。

 

それは隊士が柱を順番にまわり、実力向上の為の稽古をするという内容だった。

 

刀鍛冶の里が襲撃されてからというもの、鬼の出没は極端に減っていた。

隊士は殆ど任務に赴くことがなかった。

いくつかある共同鍛錬場は、隊士で溢れかえっている状態だ。

元柱である斗和の元にも、稽古をつけてくれと毎日数人が訪れていた。

 

斗和は、耀哉に願い出て少し前から警備だけしかしていない。

時間には余裕があった。

だが体がついていかない。

訪ねて来る全ての隊士に対応するのは、相当きつくなっていた。

 

斗和は全盛期より体力は落ち、力も弱くなった。

刀を特殊形状の物から、日本刀形状の物に取り替えているくらいだ。

軽いので振るのはいくらか速くなったが、技の威力も落ちており厳しい状態だった。

 

元から土の呼吸は、日本刀形状の物だと技の威力が七割程度になってしまう。

それに輪を掛けて斗和の心臓だ。

今の力は全盛期の八割か、それ以下にまで落ちている。

心臓の症状は出ているが、斗和はどうにか誤魔化し稽古を続けていた。

 

そんな中もたらされた伝令に、斗和の元に稽古に来る隊士達の反応は様々だった。   

 

休憩中、水や茶を飲みながら談笑していた最中だ。

誰が最強なのか、その次はと隊士らは斗和に聞いてくる。

最強なのは行冥であるのは間違いない。

しかし、他は斗和も分からなかった。

 

「岩柱が最強だと言われています。他はそれぞれ呼吸も違うし戦い方も違うので…何とも言えないです」

 

斗和の返答に、隊士らは納得しない。

 

「じゃあ蓬萊さんから見て、かなり強いと思う人はいますか?」

 

斗和が今まで手合わせをしたのは実弥、杏寿郎、義勇の3人だけだ。

皆、相当に強い。

斗和は、何度も手合わせをした実弥だと思っている。

だが口には出さなかった。

 

「えっと…すいません、分からないです」

 

そう言うと、今度はしのぶ、蜜璃、斗和の誰が一番強いかという話題に切り替わる。

 

「え、私も?私はもう柱ではないですよ」

 

「柱でなくとも、蓬萊さんに憧れてる女隊士はたくさんいるんです。それに武勇伝がたくさんあるし有名ですからね」

 

斗和は、もしかして昨年のあれかと話題を振る。

 

「ひょっとこの面を着けて任務に出た話しなら…」

 

「それじゃないですよ!」

 

「じゃあ芋柱って言われてたことですか?」

 

芋娘の方が有名だったか?と、斗和は考える。

すると女隊士は、呆れて否定した。

 

「違いますって!それ武勇伝じゃないですからね。もう、蓬萊さんて本当に面白い…」

 

クスクスと笑う女隊士につられ、周囲も笑いの渦に引き込まれる。

ひとしきり笑ったあと、一人の隊士が手を挙げた。

 

「俺は蓬萊さんに一票。この目で下弦ノ陸を倒したのを見たから、やっぱり実際見ると違う。強いって分かる」

 

右手の小指が欠けたその隊士は、真剣な表情だ。

この隊士・山崎は、数年前に漁師町での共同任務で一緒だった。

血鬼術により小指が溶けてしまい、斗和は不甲斐ない自分を責めた。

当時の階級は丙で、風の呼吸の使い手だった。

今は乙に上がっていた。

 

「あっ…数年前に…。すいません、気付かなくて。隊士を続けていたのも知らずにいました。あの時は本当に申し訳なかったです」

 

謝罪する斗和を見て、山崎は首を横に振る。

周りが稽古を再開していく中、山崎は斗和に終わった後で話しがあると告げた。

 

斗和は何だろうと首を傾げ、稽古を再開した。

 

 

 

───────

──────

「ここまでにしましょう。明日からは柱稽古ですから、皆さん頑張って下さい!」

 

斗和は皆を励まし、隊士らは帰って行った。

一人残っていた山崎は、言い難そうに口を開いた。

 

「…蓬萊さん、あの任務後に館坂を継子にしたんですよね?俺は大分経ってからそれを知りました。その後、訃報を聞いて本当に残念です…」

 

「…もう二年前になります。佳成が甲に昇格し、私の威力を上回ったので継子を解消しました。後継者に変わりありませんが、近いうちに私に代わる土柱になると信じていた矢先でした…」

 

斗和は佳成との思い出が蘇り、言葉に詰まる。

亡くなり二年以上経ったが、昨日のことのように感じていた。

 

「それで実は…蓬萊さんと炎柱が重傷で入院してるあたりのことなんですけど…」

 

山崎の語る内容に、斗和は戸惑い衝撃を受けた。

 

遠方任務に赴いていた山崎は、帰りに渓谷の脇を通った。

ほぼ新月で暗闇が支配していたが、射抜くような視線を感じ渓谷を見上げた。

するとそこに光る双眸が見えた。

 

「よく見えなかったんです。鬼だというのは分かって、刀を抜こうとしたらすぐにいなくなった。…ただ、目が…似てたんです」

 

山崎が目撃した鬼は、斗和の継子・館坂佳成に似ていた。

佳成は既に死んだはずだ。

ただ、遺体は無かった。

遺体が無いのは鬼に喰われたことを示しており、斗和もそう思っていた。

 

(まさか佳成が…?違う!)

 

「佳成の遺体はその場に残されていたから、あなたの見間違いですよ」

 

斗和は嘘を吐いた。

山崎は、ならばいいと安堵し帰って行った。

 

確証も無いのだ。

佳成は上弦ノ壱と戦い死んだ。

これが真実だと、斗和は自らに言い聞かせた。

 

 

 

 

その日の夜。

斗和は縁側で星を眺めていた。

 

これまではゆっくりと星空を眺めたことなどなかった。

田舎にいた時も、育手の元で修行をした一年間も、鬼殺隊に入ってからの九年間も、斗和はがむしゃらの毎日だった。

 

以前の記憶を戻してから十年近く経った。

杏寿郎を救うという目的を果たしたのが半年前だ。

 

振り返ればあっという間だった。

 

明日からいよいよ柱稽古が開始する。

そして間もなく宿敵・鬼舞辻無惨が倒される。

柱稽古がどのくらいかかり、いつ産屋敷邸が襲撃されるかは分からない。

斗和は、半年以内だと予想している。

 

しのぶから告げられた余命半年という現実は、五ヶ月弱になっていた。

 

果たして無限城まで斗和の心臓はもつのか。

もったとしても、弱った体では雑魚鬼を倒すくらいしかできない。

それが現実である。

 

斗和は、とにかく明日からの柱稽古が心配だった。

稽古自体はどうにかできるかもしれない。

だが、手合わせとなれば別だ。

万が一、稽古とは別に手合わせをしていけとなれば、逃れられない。

何せ相手は柱だ。

 

全盛期の八割以下にまで落ちている斗和では、まともな手合わせにはならない。

 

そして弱くなったことを悟られてしまう。

それだけは避けたかった。

斗和はなるべく目立たぬよう、柱稽古をこなすことにした。

 

そして斗和のもう一つの懸念事項、それは実弥だ。

柱稽古は順に回らなければならない。

実弥の稽古は最後の一つ前だ。

 

 

斗和は胸に手を当て、夜空を見上げた。

 

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