斗和は、隣で握る千寿郎を盗み見る。
指示も的確で、なんでもそつなくこなしていた。
握り飯は均等に三角形に手際よく作り、気も利く。
家事に関しては、斗和より千寿郎が明らかに上だった。
斗和は千寿郎のこれまでを考える。
千寿郎は、鍛錬しても日輪刀が色変わりしなかったので、剣以外の道へ進むことにした。
本人は悔しかっただろうが、斗和は理由があるのだと思っていた。
伝える機会はないと思っていたが、今なら二人きりだ。
言ってもいいだろうか。
しかし余計なことかもしれない、と迷う。
(…いや!槇寿郎さんも私に悔いなく生きろって言ってくれたし、伝えよう)
斗和は、言わない方が悔いが残ると思った。
「…千寿郎君、私の話を聞いてくれますか?」
握り飯を作り終えた斗和は、手を止め千寿郎を見つめる。
千寿郎は何だろう?と斗和を見ている。
「私、この前すごい夢をみたんです。鬼が殲滅されて平和な世の中になるという、正夢になって欲しい夢です。その夢をみたのは、刀鍛冶の里で恋柱様たちが上弦を二体倒したあたりのことでした。もしかしたら、本当に近いうちに鬼は殲滅されるんじゃないかって思うんです。…そしたらもう千寿郎君は刀を握らなくていいですよね…?」
「蓬萊さん…?」
「千寿郎君の日輪刀が色変わりしなかったのは、"あなたが戦うより前に鬼はいなくなる。もう戦う必要はない"…そういう意味なんじゃないかと思うんです」
斗和は笑った。
「それは…」
手を止め斗和を見つめる千寿郎は、言葉が出てこない。
驚きなのか不思議なのか訝しんでいるのか、多様に入り交じった表情だった。
「…きっと近いうちに正夢になります。だから千寿郎君は胸を張って生きて下さいね。さて次は焼きますか!」
斗和は勝手口を出て行く。
残された千寿郎は、白米を握っていた両の手を見て穏やかに笑った。
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斗和は準備が整うと、庭の隅に茣蓙(ござ)を広げた。
大量の握り飯、たくさんのおしぼり、継ぎ足した薬缶、湯飲み、手拭いを置き声を掛ける。
「みなさーん!お昼ですから休んで下さい。お握りがあるのでご自由にどうぞ!茶色いのは焼きお握りです」
するとバテていた隊士達は、我先にと握り飯に群がる。
「あー!あの焼きお握り、めちゃくちゃ美味いって村田が言ってたやつだ!」
「俺も食いたい!」
「俺も!」
斗和の焼きお握りは、いつの間にか有名になっていた。
共同任務で振る舞うこともよくあり、人気を博していたのである。
握り飯に群がる隊士らを見て、杏寿郎も縁側に腰掛けた。
殆ど休憩せずに稽古をしていたので、勢いよく水を飲んだ。
斗和は、別に用意した握り飯を持って行く。
「お疲れ様です!」
「斗和殿、来ていたのは知っていたが挨拶もできずすまない。手伝いありがとう!」
杏寿郎は汗を拭い、笑い掛ける。
「いえいえ。休みなく相手をするのはどうですか?」
「うむ。最初は単調だったが、隊士たちも考え刀を振るうようになっている。隻眼になりどうしても死角ができてしまってな。それを克服するにはこちらもいい鍛錬になっているぞ!」
杏寿郎は庭で休んでいる隊士に目を向け、溌剌と話す。
「私も昼からは参加しますね。杏寿郎さんに二人で向かっていくなんてどうなるんでしょう?」
「それなんだが、君は一般隊士というより柱に等しい。この稽古でなく手合わせでいいと思うぞ」
やはりそう来たかと、斗和は身構えた。
「だが、この通り俺も父上も手合わせする余裕がない。この際、まだ隊士が行っていない甘露寺や小芭内の所に手合わせに行ってはどうだ?」
(やっぱりそうくるか…)
斗和としては、他の隊士同様に柱稽古をしたいと思っている。
なんと言っても一般隊士なのだ。
他の隊士がちきちんとこなしているのに、自分だけが特例というのは気が引けた。
そして、柱との手合わせだけは避けなければならないからだ。
しかしここは杏寿郎の手前、頷いておくことにした。
「それもそうですね!ではお言葉に甘えて午後からはそうします」
「君には朝から手伝いばかりさせた。本当に助かった、ありがとう!」
杏寿郎から礼を言われ、斗和は感激だった。
「お役に立ててよかったです。焼きお握り、食べて下さいね。千寿郎君が、杏寿郎さんは焼きお握りがいいんじゃないかって言うので、作りました。久しぶりに作ったので形が少しいびつです」
皿に十個載せた握り飯を差し出せば、杏寿郎は「いただこう」と言って食べ始める。
「うまい!」
(出た!声が大きい!)
大きすぎて隊士達が一斉に二人を見ている。
「やはり斗和殿の握り飯はうまい!」
「それはよかったですけど…あの、隊士達から見られているので少し恥ずかしいのですが…」
斗和は、隊士達からの視線が痛くて俯いた。
「何も恥ずかしいことはあるまい!斗和殿も食べた方がいいぞ。少し痩せたんじゃないのか?」
「そうですか?私は筋肉しっかり付いてますから重いですけどね」
斗和は僅かに胸が跳ねる。
しのぶや村田にも指摘されたことだ。
そんなにも前と違うのかと焦る。
握り飯を食べた後、斗和は天元の屋敷へ向かった。