斗和が天元の屋敷に着くと、煉獄家以上に隊士が大勢いた。
皆ひたすらに走り込みや、腕立て伏せをしている。
斗和は、さり気なく大群の一番後ろに混ざり走る。
突如混じって来た斗和に、気付いた隊士らはざわめく。
「えっ!土柱?」
「何でいるの!?」
「あの!私、昨年既に柱は退いてますよ」
「そうなんですか?」
「それよりこの走り込みはいつまで続くんですか?」
斗和は走りながら隣の隊士に聞く。
「音柱が止めと言うまでです。一周したら腕立て伏せなどを100回ずつやり、また走ってを繰り返すんです」
一周と言うが、宇髄邸の裏山を越えるだけで相当な距離だ。
山道を走るのは斗和の得意分野だが、心臓を考えると不安があった。
目立たぬよう最後尾を走り続けるしかない。
見る限り他の隊士は男ばかりで、皆上半身裸だ。
斗和は、天元の柱稽古はどうだったかを思い出そうとする。
この走り込みは記憶にある。
そういえばと、他隊士のことが気になった。
全隊士に参加義務がある。
しのぶの継子・カナヲは先程は煉獄家にいなかった。
ということは、ここにいるはずだ。
斗和は前方を見るも、それらしき人影が見えない。
そして炭治郎、善逸、伊之助、そして玄弥もいなかった。
あの四人も外見で目立つので、煉獄家に居ればすぐ分かる。
道場と庭と見たがいなかった。
果たして参加しているのだろうかと考える。
斗和は、このあたりの記憶も曖昧だった。
炭治郎は遅れて参加する気もしたが、分からない。
善逸と伊之助はもう参加しているはずだが、姿が見えない。
(おかしいな?)
そして天元はどこにいるのか。
斗和はどこを走っているか分かっていないが、とりあえず前の集団に着いて走った。
走りながら考えていると、心臓がぎゅうっと締め付けられるように苦しくなる。
心臓がかなり早鐘を打っていた。
近頃よく出る症状だった。
少し休めばよくなるが、稽古中の走っている最中にそれはできない。
難儀なものだと、斗和は顔を顰める。
本来の斗和ならば、誰よりも先に走り抜ける自信があった。
だが今ではそれすらもできず、息切れもしている。
「フーッ、ハーッ…」
深呼吸を繰り返し、どうにか足を止めず走る。
すると、少し先に天元が竹刀を持っているのが見えた。
どこにいるのかと思いきや、目立つ大木の上だった。
(あの人、またあんなところに…高い所が好きだなあ)
天元は柱合会議で、門の上から登場していたのを思い出す。
「蓬萊!お前何やってんだよ?」
天元の前を通り過ぎようとするも、呼び止められたので立ち止まり答える。
「何って、柱稽古ですよ。午前中は煉獄さんのところに行って来たんです」
斗和は正直助かった。
心臓が苦しかったのだ。
天元は木の上から飛び降りると、斗和を見て呆れた顔をする。
「お前、煉獄んとこでも稽古したわけ?」
「いえ。弟さんが隊士の世話に忙しそうだったから、手伝ってきただけです。煉獄さんからは、まだ隊士が行っていない伊黒さんや甘露寺さんのところで手合わせしたらどうだって言われました。でも他の隊士の手前それをするのは気が引けたので、とりあえず宇髄さんのところに来たんですよ」
「真面目な奴だなあ。元柱のお前にどうこう言う奴はいねえだろ。俺もこの通り忙しいし煉獄の言うように、さっさと甘露寺のとこにでも行けよ」
天元は、はあーあ!とため息を吐いた。
「じゃあ行きますよ?あ、ところで胡蝶さんの継子のカナヲさんは来ましたか?煉獄さんの所にはいなかったんです」
「栗花落カナヲなら、午前中で合格して煉獄んとこ行ったぞ」
そこで斗和は、あっと気付いた。
午前中で合格してしまう早さに驚くしかない。
玄弥達も、もしかしたらそうなのかもしれないと思った。
結局斗和は、天元の所で屋敷の周囲を大きく一週して終わった。
次は霞柱・時透無一郎の所である。
斗和は霞柱邸は初めて行くので、鴉の令和に案内させた。
こうしてみると、柱の屋敷は様々な場所にある。
足での移動はそれなりに時間もかかる。
走れば早く着くが、今の斗和は走り込みでさえ胸が苦しくなってしまう。
既に全速力で走ることが難しくなっていた。
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霞柱邸に着くと、既に夕方にさしかかっていた。
出てきた無一郎は怪訝な顔をした。
「もう夕方だよ?来るならもっと早くに来てよね」
「すいません…」
「蓬萊さんて柱の力があるんだから、稽古はいらないでしょ」
無一郎はバッサリと切り捨てる。
「今煉獄さんと宇髄さんから連絡が来たんだ。どちらも合格した隊士が明日から来るんだよ。だから僕は忙しいから、甘露寺さんに手合わせして貰ってよ。じゃあね」
「えっ、待っ…」
有無を言わさない対応だった。
斗和は、僅か数分で帰路に着くはめになった。
この無一郎だが、上弦ノ伍を一人で倒した実績がある。
その時、忘れていた記憶を取り戻した。
炭治郎には和やかな対応だったが、斗和には以前と何ら変わりがない。
柱になった時と見舞いに来て貰って以来、無一郎とは疎遠だった。
この対応も仕方がないなと、斗和は思うのであった。