※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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柱稽古④

翌日。

斗和は、鴉の令和の案内で恋柱邸へ向かう。

 

ここまでほぼ稽古らしいことをしていなかった。

さすがに今日こそはと思っている。

稽古内容を思い出す斗和だが、いまいちはっきりと分からなかった。

柔軟をして巣蜜のパンケーキを食べるのかと思った。

斗和は、巣蜜が何なのか分からない。

蜂蜜しか知らないので、実際聞いてみようと思っている。

 

恋柱邸へ向かう最中、低空飛行をする鴉の令和に話し掛けた。

 

「ねえ令和、巣蜜って知ってる?す、み、つ」

 

「………」

 

「令和も分からないよね。蜂蜜は蜜蜂が集める蜜でしょ。巣蜜は巣の蜜だから…結局は蜂蜜と同じなのかなー?でもどうして名前が違うの?すごい気になる…」

 

令和は、任務伝令以外は全く喋らない鴉である。

だが斗和は、返答しなくともこうして聞き一方的に喋る癖があった。

返答しないので、自分で言い納得するのである。

 

何年もこれを聞いている令和は慣れているが、傍から見ると斗和は鴉に話し掛ける変人だ。

 

 

 

 

────────

───────

それなりに遠かった恋柱邸に着き、斗和は大声で蜜璃を呼んだ。

すると、バタバタと音がし玄関が開く。

 

「蓬萊さん!町で会って以来ねっ!元気にしてたかしらあ?」

 

「はい」

 

「よく来てくれたわっ!私のところにはまだ誰も来ていないから、ゆっくりして行ってちょうだいね!いろんなお話しもしたいわあ」

 

どうぞどうぞと屋敷の中に案内される。

柱稽古はゆっくりするようなものではない。

だがそこは蜜璃らしいと、斗和は自然と笑顔になる。

 

「私、甘露寺さんみたいに体を柔らかくしたいので、よろしくお願いします」

 

「あらそう?じゃあ一緒に体を解しましょう!」

 

道場へ行くと、斗和は蜜璃からある物を渡される。

 

「まずはこれに着替えましょう」

 

「あのー、これは?」

 

斗和が広げてかざすと、蜜璃は満面の笑みだ。

 

「これは優れものなのよ!柔軟には動きやすい格好でないとね!もしサラシを巻いていたら外してね。じゃあ私も着替えるわ」

 

斗和は言われるがまま、"それ"に着替えることにした。

サラシも巻いているので外す。

 

(これ…何?)

 

着替えた斗和は、己の姿を見て恥ずかしくてしょうがない。

肌にぴったりと吸着するような素材の布は、見事なまでに体の線を浮かび上がらせている。

 

この布の名称は何だったかと、斗和は考えるも思い出せない。

手足は丸出しで腰に布を巻き付けている。

 

(すごい恥ずかしいんだけど…)

 

もじもじとしていると、着替えた蜜璃がやって来た。

 

「早速始めるわよーっ!」

 

蜜璃も同じ格好なのだが、胸の大きさが違うので斗和は自分が貧相に思えた。

そして二人は道場で音楽をかけ、甘露寺式の様々な柔軟をした。

 

「蓬萊さーん、もっと軽やかに!次は三回ぐるっと回って…」

 

「痛い!痛い痛い痛い!」

 

「あらこれは硬いわ。もっとこう、床に全て着けられるようにならないとね。じゃあもう一度、それっ!」

 

「いた────い!!」

 

 

 

 

 

────────

───────

数時間後。

 

斗和は道場の床で大の字で倒れていた。

全身を解され、大分柔らかくなった気がした。

かなりきつく、確かに地獄のような柔軟体操であった。

妙な服からも解放され、斗和は達成感も感じていた。

 

柱稽古は、刀を振る以外もたくさんあり、内容も充実している。

踊ったり柔軟している姿は見られたくないが、いい稽古法だと思った。

蜜璃の動きが異常なまでに柔らかくしなやかで、斗和は全くついていけなかった。

だが楽しくできた。

 

そしてこの稽古、小芭内がやれば面白いと思うのであった。

 

一通り終わったので、斗和は次へ行こうとした。

すると、今からパンケーキを焼くから一緒にと言われる。

 

やはりパンケーキを食べるのかと、予想が当たり斗和は内心で笑う。

以前の斗和の記憶にもある食べ物だ。

世間で流行ったが、斗和は特に興味も無かったのか食べた記憶はない。

作り方も当然知らなかった。

 

斗和は、台所で言われるがまま掻き混ぜる。

そのうちに良い香りがし、食欲が湧いてきた。

この時代では洋風の食べ物は存在するが、まだ一般的ではなかった。

少しずつ広まっている段階である。

 

焼き上がったそれは、まさしくパンケーキであった。

焼き色も綺麗で、斗和は目を輝かせる。

 

「わあ…すごく綺麗に焼けましたね!私、パンケーキは初めてなんです」

 

「この焼きたてに巣蜜をたぁっぷりかけると、それはもうすごく美味しいのよ!」

 

ウフフと、蜜璃は小ぶりな壺から匙で巣蜜を掬いたっぷり掛ける。

そんなに掛けるのかと斗和が聞けば、少しだと美味しさが引き立たないと蜜璃は言う。

 

結局巣蜜とは蜂蜜なのか違うのか、斗和は分からないままだった。

味は蜂蜜なので同じということにした。

味わって食べていると、蜜璃は何かを思い出したのか、斗和を見た。

 

「そう言えばね、前に煉獄さんのお父さんにいい人がいるって話しをしたじゃない?」

 

「あ、はい…そうでしたね」

 

斗和は内心ドキッと心臓が跳ね上がる。

忘れていた話題が浮上し、一気に緊張が走る。

 

「あのあとまた煉獄さんに会ったのよ。それについて聞いたらね、結局は誤解だったの。私の早とちりだったわあ…」

 

蜜璃は心做しか残念そうだ。

 

「やっぱりそうですか!煉獄さんのお父さんは、奥さんを一途に愛しているんですよ!良かったです、はい!」

 

斗和がやけに嬉しそうに締め括るので、蜜璃は変だなと思った。

だが、まあいいかと再びパンケーキに口を付けた。

 

「ところで、一人三枚は多くないですか?なんだか太りそうです」

 

斗和は一枚は食べたが、大きい上に厚いので腹がいっぱいになった。

 

「あらあ、そんなことないわ。蓬萊さん、最近ちゃんと食べているの?痩せたように見えるわ。体力もなくなるし、よくないわよ…」

 

ずっとにこにこしていた蜜璃は、心配そうに斗和の顔を覗き込んだ。

蜜璃は、斗和が着物で化粧をし町医者に行った時もすぐに声を掛けて来た。

小芭内が全く気付かなかったことを考えると、やはり女はよく見ている。

 

斗和は心配する蜜璃に曖昧な笑顔を向け、残りのパンケーキを口に詰め込んだ。

 

「甘露寺さんは菓子なら何でも作れますか?」

 

斗和はふと聞いてみた。

 

「ええ、何でも作れるわ。最近はパンケーキばかりだけどね」

 

斗和は、ならばとある物の作り方を聞いた。

勿論知っているから教えると言われ、再び台所に戻り教えられながらそれを作る。

 

それは、今まで一度たりとも作ろうと思ったことはない。

少し前に斗和が初めて口にしたそれは、思いの外美味だった。

もし作ることができたら、いつでも食べられるのではと思ったからだ。

 

ただそれだけのことだ。

 

 

 

◇

「では私はこれで失礼します。今日はたくさんありがとうございました」

 

「私も楽しかったわー!是非また来てちょうだいねっ」

 

斗和は丁寧に頭を下げ、恋柱邸を後にした。

 

 

 

恋柱邸では思った以上に長居してしまい、蛇柱邸に行くのが遅くなってしまった。

何せ相手はあの蛇柱・伊黒小芭内だ。

遅くなったことだけでネチネチ言われるに違いない。

斗和は、何度かこのネチネチ攻撃を受けたことがある。

よって、それだけは避けたいと思った。

 

一度始まると終わるまでが長いのだ。

うんざりしてしまう。

 

斗和は歩きながら次の稽古内容を考える。

さすがに次こそは稽古になるはずだ。

隊士が括り付けられ、そこの間を縫って小芭内を斬りつける稽古だ。

 

斗和は、凄まじい稽古を思いつくものだと感心した。

隊士を利用するなどよく考えたものである。

斗和は、自分なら申し訳なくて絶対にできないと思うのであった。

 

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