※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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柱稽古⑤

蛇柱邸は斗和の家からは一番遠い。

しかし恋柱邸からは割と近かった。

 

昨日のように夕刻になったらと心配だったが、その前に着いたので、安堵する。

斗和は玄関で大声を出して呼ぶと、音も立てず扉が開いて驚いた。

 

「こんにちは。柱稽古に来ました。よろしくお願いします」

 

そう告げると、小芭内は上がれと言いさっさと中に入って行く。

斗和は客間と思われる場所に通され、座った。

隠が茶を持って来たので、遠慮なく飲んだ。

 

「さて話しを聞こう」

 

座卓を挟み、向かいに座った小芭内が口を開いた。

 

(話し?話しとは?)

 

斗和は茶を置き、あちこち視線を彷徨わせる。

話しとは何なのか。

 

「…あの、話しとは何ですか?」

 

すると小芭内は斗和を睨み、ビシッと指を差す。

 

「鈍い女だな!さっきまで甘露寺の所にいたんだろう?何をしたのか詳しく話せと言っているんだ」

 

なぜそんなことを?と斗和は思ったが、小芭内は蜜璃が何をして過ごしたのかを知りたいのだ。

斗和は、なるほどと思った。

そして、なんて面倒くさい人なんだと重ねて思った。

 

「えっと、まず道場に通されて、薄い布の服に着替えました。体にピタッとした作りの、動きやすい格好です。服というか布を巻いたような…ちゃんとした名前があると思いますが分かりません」

 

小芭内はピクッと眉が動く。

 

「ほう…」

 

「そして音楽をかけて軽く踊って、その後に甘露寺さんの力技で柔軟体操を繰り返しやりました。あれはかなり痛かったです。蝶屋敷の訓練より遥かにきつかったですよ。あとは舞踊って言うんですか、妙な踊りをひたすらにこういう動きで…」

 

斗和は体を使い表現して見せる。

 

「それで一通りの稽古は終わりました。甘露寺さんの動きがしなやかで軽やかで、とても素晴らしかったです。私なんてドタバタしていただけでしたね」

 

斗和がアハハと笑うも、小芭内は無表情だ。

無言だが先を急かされている気がしたので、斗和は再び口を開く。

 

「その後はパンケーキというのを一緒に作って、巣蜜をたっぷりかけて食べました。甘くてとても美味しかったです。甘露寺さんは何でも作れるそうですよ」

 

すごいですよね、と斗和は頷き感心する。

小芭内はしばらく黙っていたが、納得したように頷いた。

 

「…当然だ。甘露寺は何でも美味く作るに決まっているだろう。女同士、随分楽しく過ごしたようだな」

 

なぜか得意気になっている小芭内は、腕を組み再度ひと頷きした。

斗和は、小芭内の蜜璃に対する想いを知っている。

 

(告げればいいのに…)

 

単純にいかないと分かっている。

しかし2人はとても似合いだと思っているのだ。

幸せになって貰いたい気持ちが強い。

 

「…そういえば甘露寺さんの靴下、伊黒さんが差し上げたそうですね。今日その話しになったんです。甘露寺さん、とても嬉しそうでしたよ。伊黒さんは優しいんですね」

 

先程の帰り際、斗和はその話しを蜜璃にした。

蜜璃はとても嬉しそうだった。

聞いている斗和も幸せな気持ちになり、だからこそ二人の未来を願うのだ。

 

小芭内は一瞬きょとんとしたが、恥ずかしいのか口元を袖で隠し横を向いた。

斗和は、しばし穏やかな気持ちになるのだった。

 

「ところで稽古をお願いしたいのですが、いいですか?」

 

返事を聞かず立ち上がろうとするも、小芭内から怪訝な顔を向けられる。

 

「なぜ元柱のお前に?甘露寺の所で楽しく稽古したのならそれでいいだろう?これからわんさか隊士が来るというのに、俺の手を煩わせるんじゃない」

 

今までの穏やかな雰囲気は消え失せ、小芭内はフンッ!と一喝した。

 

「でも…柱稽古をするようお達しが出たので、こうやって順繰りに回っているんですよ。稽古をして、合格と言われなければ次には進めませんから…」

 

斗和は切々と訴える。

ここまで木刀を使った稽古は一度もしていない。

さすがに今回こそはと思っているのだ。

すると小芭内は、頭に手を遣りため息を吐いた。

 

「全く、何も知らないのか?今回の柱稽古は、冨岡と胡蝶が不参加なんだ。引退した煉獄と宇髄が加わっているが、それでいいと思ったら大間違いだ。本来ならお前も柱側で参加すべきだったのだ」

 

「えっ!?何でですか!」

 

なぜいきなりそんなことになるのか。

斗和は思わず声を張り上げた。

同時に嫌な予感がした。

例のネチネチ説教が始まりそうなのである。

 

「そもそもお前は誰より早く合格するんだから、稽古にもならんだろうが。現にここにいち早く来ているだろう。こういう時は気を利かせて柱側で参加し、胡蝶と冨岡の穴埋めをすべきではないのか?お前は柱を退く時に、この先も役に立つよう精進すると言っていただろう。今こそその役に立つべき時だ。まあ本来ならば、あの2人が参加すれば丸く収まることだがな。胡蝶は事情があるようだから仕方ないにせよ、あの冨岡めがだめなのだ。俺はお前達とは違うだとかほざいて勝手気ままなことを…」

 

途中から義勇への愚痴になり、小芭内はどんどん機嫌が悪くなっていった。

斗和が途中で「稽古は…」と口を挟んだとたん、睨んだ。

 

小芭内は、斗和に稽古をつける気は毛頭なかった。

 

「言っておくが俺は明日、岩柱の元で共闘の為の稽古だ。今日は不死川が行っているはずだ」

 

斗和は"不死川"の名にドキッとするが、「ですから今から稽古を」と急かす。

すると小芭内はカッと目を見開いた。

 

「そんなに稽古したいなら不死川の所に行け!俺から言っておいてやる。蓬萊が稽古稽古と馬鹿の一つ覚えでうるさいから、延々と相手をしてやれとな!」

 

ぴしゃりと言い放つと、さっさと帰るように告げ小芭内はいなくなった。

 

(馬鹿の一つ覚え…そんなあ…)

 

斗和はがくりと肩を落とした。

 

斗和は、蛇柱邸から帰りながら困ったことになったと思った。

いち早くここまで来たのは、柱達が気を利かせたからである。

それは斗和が、柱の実力があると思っているからだ。

 

だが今の斗和は、甲以下の隊士の力しかない。

このまま何もせず最終決戦を迎えるのは、あまりに心許ない。

 

(どうしよう…)

 

立ち止まり、明日のことを考える。

次は風柱邸だ。

 

実弥には、あの日以来一度も会っていない。

姿さえ見ていなかった。

 

実弥の気持ちを考えれば、到底行けはしない。

 

 

自分を裏切り、他の男に股を開いた女。

 

 

実弥でなくとも、誰であれそう思う。

そんな最低極まりない女が、柱稽古とはいえ訪ねて来たら嫌に決まっているのだ。

 

(私の顔なんて見たら、反吐が出るだけだよ…)

 

斗和とて行きたくはない。

実弥とは、二度と会わないつもりで事を起こしたのだ。

柱稽古のことは頭をよぎったが、それよりもまずはと思ったのだ。

実際直面すると、どうすればいいか分からない。

 

この先起こる無限城での戦いは熾烈を極める。

強くなることはできなくても、もっと動けるように少しでも努力はしなければならない。

やはり今のままでは不安だ。

 

斗和は、最後の行冥の稽古は何もできない。

知る限り、あの稽古は女には到底無理だ。

栗花落カナヲが稽古をした描写もなかった。

 

皆が稽古で強くなっているのは確実だ。

柱同士も共闘の為の稽古をしている。

その中で斗和だけが劣化し、退化している事実。

 

少しでも鍛錬しなければ持続できない。

斗和は、これ以上弱くならない為に、やはり稽古はしなければと結論を出した。

 

(だけど…)

 

それでも迷いはある。

実弥とは恋仲になってから、一度も手合わせしていない。

弱くなり動けなくなった姿を見てどう思うか。

 

斗和は悩み、その晩はよく眠れなかった。

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