※斗和視点
私は今、どんな顔をしているだろう?
彼に、死ぬまで隠しておきたかったことを知られていたなんて。
情けない醜態を晒して、鬼殺隊を辞めろとまで言われた。
私を心配してくれたのだと、そう都合のいい解釈をする自惚れた自分もいる。
馬鹿じゃないのか私は。
何も言わない私に、実弥さんは苛立ち舌打ちをした。
「黙りこくってんじゃねェ!聞こえただろォが、二度と刀振るうんじゃねェぞォ!」
「嫌です」
「てめェ!」
「何を言われようが、私は最後まで戦います。鬼殺隊の一員として刀を振るいたいんです。鬼を殲滅して…平和な世にしたいんです!」
分かってくれなくてもいい。
例えもう鬼の頸を斬ることができなくても、誰かを助けることができなくても、私は鬼殺隊にいたい。
私の居場所はここしかない。
私の存在理由はここにしかないから。
「…私の存在は目障りでしょうが、どうかもう少しだけ辛抱して下さい…。我が儘で申し訳ございません」
しっかりと頭を下げた。
下ばかり向いていると涙が出そうだった。
実弥さんはどんな顔をしているのかなと思っても、到底頭を上げられない。
それでもこれで本当に最後なのだから、前を見よう。
笑顔で別れよう。
「実弥さん…今までたくさん迷惑をかけました。そして、たくさんの思い出をありがとうございます。感謝しています。本当にありがとうございました…っ…」
私は精一杯微笑んで、深く頭を下げた。
堪えきれず、両目から涙が溢れる。
やっぱり私はだめだな…
最後くらい凛として別れたかったのに…
木刀をその場に置き、去ろうと歩き出す。
ぼろぼろ落ちる涙を無視して、私は彼から遠ざかった。
その時だった。
「!」
後ろから抱きすくめられ、足が止まる。
背後から実弥さんの香りがした。
「行くなァ…!傍にいろォ!」
耳元で、聞いたことのない彼の悲痛な声がした。
とても苦しかった。
だけど…私達はもう終わったのだ。
「…離して下さい。どうか私のことなど忘れて下さい」
彼の方を見ず腕を解き、再び足を踏み出そうとした。
だが腕を取られ口付けられる。
「っ、…!」
離れようと藻掻くも、実弥さんの腕が腰に回されびくともしない。
強い力だった。
それでも必死に逃げようとすれば、更に強く抱き締められる。
「心底惚れた女を忘れられるわけねェだろうがァ!お前を手離すなんてできねェ…!愛してる斗和…俺の傍にいろォ!」
どうして…?
あなたを裏切ることをしたのに、どうしてそんなに優しいの…?
どうしてこんな私をまだ好きでいてくれるの?
私はもうすぐいなくなるのに…
そんなこと言われたら、私…私は…!
「っ…私はもうすぐあなたの前からいなくなる…!そんな私が傍にいたら、あなたに迷惑がかかる!あなたの傍にいたら私はっ…私は…っ、本当に、本当にいいの?私っ、あなたの傍にいていいの…?」
「ごちゃごちゃ言ってねェで俺の傍にいろォ!」
強く抱き締める実弥さんの温もりが、身体中に伝わる。
私はどうしようもない馬鹿だ。
自分から突き放したはずの彼の胸に、こうしてまた飛び込むんだから。
「…私…私…最期まで実弥さんと一緒にいたいっ…!!」
泣きながら叫んだその時、ふわりと優しい風が舞った。