※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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傍にいろ─実弥─

※実弥視点

 

 

 

 

伊黒から文が来た翌日。

 

文には斗和が稽古をしたがっていると書いてあったが、本当に来るのだろうか。

本気でこれからもずっと刀を振るうつもりなのだろうか。

 

少しでも頭を掠めれば、あれもこれもと考える。

 

体の状態はどうなっている?

まだ刀を振るうつもりなのか?

命を削る行為を、俺が黙ってさせるとでも思っているのか?

 

考えれば考える程、怒りさえ湧いてくる。

俺が斗和の余命を知っていることは、彼女は知らないはずだ。

きっと俺が何も知らないと信じて来るのだろう。

 

俺がどんな思いでいるのかを、斗和は知らない。

 

どうしたら彼女は分かるのか。

気付くのか。

 

ぶつけられない怒りを刀に込めれば、鍛錬用具はあっという間に真っ二つになった。

次々破壊されていく用具に、舌打ちしながら刀を振るっていた時だった。

 

「風柱、稽古、稽古!」

 

庭に鴉が飛んできて叫ぶ。

斗和の鴉・令和だった。

 

それと同時に背後に気配がした。

振り返った先にいたのは、俺を見て息を呑む斗和の姿だ。

 

いつも背負っていた特殊形状の刀が見えない。

代わりなのか、腰には自分同様の刀をさしている。

 

刀を替えたのか?

 

「…柱稽古に来ました。よろしくお願いします」

 

相変わらず丁寧に頭を下げる。

柱稽古に来たとそう言った。

あくまで稽古をしたいわけか。

 

近くにあった木刀を、斗和の目の前まで投げる。

 

「俺が終わりだと言うまで打ち込んで来い」

 

斗和は、すぐに木刀を掴み打ち込んできた。

 

木刀がぶつかり合う音がやけに耳に響く。

 

斗和…今何を考えている?

必死に刀を振るって何を思う?

俺達はたくさん手合わせした。

お前に吹っ飛ばされたこともある俺が、どれだけ手加減しているのか気付いているんだよな?

 

気付いてるのに、それでもまだ続けるのか?

 

俺はもう、こんなにも力が弱くなったお前に刀を向けるなんて、できやしない。

 

斗和が大きく踏み込んだ瞬間、切り返した。

瞬く間に防戦一方になる斗和。

その肩や腕や足に、俺の打ち込みが次々入る。

 

もうやめろ…もういい。

 

がむしゃらに、必死に刀を振るう斗和を見るのはつらい。

 

もういい、やめてくれ…!

 

「…蓬萊、本気でやってんのかァ?弱すぎて反吐が出る。終わ…「まだ終わっていません!まだできます!」

 

斗和は俺の言葉を大声で遮り、再び木刀を構えた。

 

まさかと思えば技を繰り出してきた。

 

土の呼吸…斗和が岩から派生させた唯一の呼吸だ。

本来なら威力の大きいそれは、以前目にした時より落ちていた。

 

木刀で受け躱せばひびが入るも、やはりその威力はおそらく全盛期の七割程だろう。

驚きに目を見開いた斗和は、踏み込んで更に技を撃とうとした。

だが顔を歪め、ぐらりと片膝を着いて荒く呼吸を繰り返す。

 

咄嗟に足が出たが踏み留まる。

駆け寄り支えたかった。

 

もうやめろ、斗和!

頼む…!

 

なんとか立ち上がり俺を見つめた斗和の顔は青白く、下唇を噛み締めている。

 

「…稽古は終わりだァ」

 

「待って下さい!私はまだやれます!」

 

「木刀返せェ」

 

「不死川様!!私はまだ…」

 

「弱すぎんだよォ!」

 

「!!」

 

斗和、もういい。

もう充分だ。

 

「弱すぎて使いものにならねェ。蓬萊、てめェは足手纏いだァ。さっさと鬼殺隊辞めろォ!」

 

「…!!」

 

おそらく俺が知っていることに気付いたんだろう。

斗和は悲痛に顔を歪め、俯き黙り込んだ。

 

「黙りこくってんじゃねェ!聞こえただろォが、二度と刀振るうんじゃねェぞォ!」

 

俺は斗和に、刀を置いて貰いたかった。

苦しい思いをしてまで鬼殺隊にいなくていい。

お前の分まで俺が鬼を殲滅する。

頼むからもう静かに生きてくれ…!

 

俺はぶっきらぼうな言葉に想いを籠めた。

 

「嫌です」

 

「てめェ!」

 

「私は何を言われようが、私は最後まで戦います。鬼殺隊の一員として刀を振るいたいんです。鬼を殲滅して…平和な世にしたいんです!」

 

必死で訴える斗和は、俺の目にあまりに儚く映る。

 

どうしてそこまでやる?

どうして刀を置かない?

どうして自分を犠牲にする?

もう頑張らなくていい!

お前は今まで充分やったんだ。

 

もう、もう…!

 

「…私の存在は目障りでしょうが、どうかもう少しだけ辛抱して下さい…。我が儘で申し訳ございません」

 

ああ目障りだ。

お前が必死に辛い思いして刀を振るってる姿なんて見たくねェ。

 

俺はお前の笑顔が見てェんだよォ…!

 

下を向いていた斗和は顔を上げ、俺に消えそうな笑顔を向けた。

 

「実弥さん…今までたくさん迷惑をかけました。そして、たくさんの思い出をありがとうございます。感謝しています。本当にありがとうございました…っ…」

 

「!」

 

そこからは、全ての動きが至極ゆっくりに見えた。

 

涙を流し微笑んで深く頭を下げた斗和は、木刀をその場に置き俺に背を向け歩き出す。

 

考えてなどいられなかった。

初めて口付けした時に手を放し、あれだけ後悔した。

三週間も眠り続ける斗和を見て、このまま二度と目を覚まさなかったらと、どれだけ苦悩したか…!

 

もう絶対にお前を放さないと誓ったんだよ…!

 

「行くなァ…!傍にいろォ!」

 

去る姿を後ろから抱きすくめた。

 

「…離して下さい。どうか私のことなど忘れて下さい」

 

何を言おうが離さない。

 

腕を取り口付ければ、斗和は離れようと藻掻く。

どんなに身を捩ろうが逃がすわけない。

二度と、絶対に離してやらない。

 

「惚れた女を忘れられるわけねェだろうがァ!お前を手放すなんてできねェ…!愛してる斗和…俺の傍にいろォ!!」

 

細くなった斗和の身体。

強く包み込むように抱き締めれば、抵抗する力はみるみる弱まる。

 

「っ…私はもうすぐあなたの前からいなくなる…!そんな私が傍にいたらあなたに迷惑がかかる!あなたの傍にいたら私はっ…私は…っ、本当に、本当にいいの?私っ、あなたの傍にいていいの…?」

 

「ごちゃごちゃ言ってねェで俺の傍にいろォ!」

 

更に強く掻き抱けば、聞きたかった言葉が聞けた。

 

「…私…私…最期まで実弥さんと一緒にいたいっ…!!」

 

 

 

その時、撫でるように風が舞った。

 

 

何度つらい思いをしようと、俺は斗和の傍にいる。

失う事に慣れはしない。

それでも今を大切に生きるなら、乗り越えられると思った。

 

その時が来るまで、俺は決してこの手を離さない。

 

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