※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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実弥の元で

それから斗和は、実弥の胸で泣いた。

 

涙は止めどなく溢れ出る。

斗和が風柱邸の庭で泣くのは二度目だった。

前回は継子・佳成の死を報告した時だ。

実弥は前回と同じく何も言わず、斗和の頭を撫で背中を擦る。

まるで小さな子をあやすように、それは斗和にとって安心できるものだった。

 

 

 

 

そのうちに斗和は泣き止み、落ち着きを取り戻す。

 

「…痛むとこはねェかァ…?」

 

実弥は遠慮気味に尋ねる。

斗和は無言で首を横に振った。

手足にはいくらか打ち込まれた青痣はあった。

だがそれは、今までに比べたら無傷に等しい。

実弥が手加減しなければ、今の斗和は炭治郎のように顔が腫れ傷だらけになる。

 

そしたらいよいよひょっとこの面が必要だと、斗和は思った。

 

「手ェ擦りむいてるぞォ。こことここも切れて血ィ出てるってのに…来い」

 

実弥は斗和の右手を掲げ、くまなく見る。

そして手を取り、玄関へ歩き出す。

確かに数ヶ所から血は出ていた。

だがもう止まっている上、小さな傷は隊士ならば日常茶飯事だ。

 

斗和は促されるまま居間へ行くと、実弥は手当てをする箱を持ち出してきた。

慌てて手を引っ込めた斗和は、背後に隠す。

 

「いいですよ!血はもう止まっているし、こんなの傷にも入りません」

 

「お前がよくても俺が嫌なんだよォ!」

 

「……」

 

実弥はそう言うと、斗和の手を取り手当てをしていく。

斗和はぼんやりとそれを見ながら、無言のまま時が過ぎる。

そこに会話は無かった。

 

(あんなことがあった後だし、やっぱり気まずい…)

 

手当てを終えた実弥は、風呂を沸かすと言う。

斗和は帰るべく立ち上がろうとした。

 

「オイ、まさか帰ろうとしてるわけじゃねェよなァ?」

 

それを見た実弥は、ギロリと睨む。

斗和は、何かまずかったのだろうかと思った。

 

「え、そうですけど…。だってお風呂に入るなら私は帰った方が…」

 

「あのなァ、傍にいろっつっただろォがァ!鈍感なのかてめェは!」

 

(えっ?傍にいろってずっと風柱邸にいろってことだったの…!?)

 

斗和が「え、あ、」と言葉にならずにいると、実弥はいいから黙って待っていろと告げる。

そして風呂を支度しに行ってしまった。

 

斗和は居間に一人残され、さあどうしようと考える。

下穿きとサラシと足袋は、風呂で洗って干しておけばいい。

だが寝間着も無く、替えの隊服も無い。

泊まるにしても、やはり一度は帰り必要な物を取りに行かねばならない。

 

しかし、今また実弥に何か言えば怒られる可能性がある。

斗和は困惑していた。

本当にこの屋敷に居ていいものか、迷惑になるのではと心配だった。

 

(どうしよう…本当にどうしよう…)

 

しばらくすると、手持ち無沙汰になる。

ソワソワと辺りを見回した斗和は、思いついた。

夕餉を作ることにしたのだ。 

 

 

早速、風呂の支度をしている実弥に声を掛ける。

 

「…実弥さん…あの、その…ご飯、作ってもいいですか?」

 

「あァ、台所のもんは適当に使っとけェ」

 

「はい、分かりました」

 

風柱邸には、毎日隠が来て家事をしている。

食材を切らすこともなければ、埃が溜まることもない。

常に綺麗な状態だった。

 

斗和は台所にある食材を見て、天ぷらを作ることにした。

基本的に料理の苦手な斗和だが、ある物でそれなりには作れる。

 

(牛蒡を細く切るのは難しいな…ちょっと太い気がする。人参もこれに合わせて切るから…あれ?何か短いかも…)

 

斗和は真剣な表情で野菜を切っていく。

伊之助の好物である、天ぷらを作ろうとしているのだ。

実弥が好きかは分からないが、嫌いな物は無いはずだ。

 

衣は小麦粉よりも、米粉の方がカラッと揚がる。

米粉は小麦粉よりも油分を吸わず、健康にもいい。

だが米粉が無いので、普段通り小麦粉を使った。

 

上手くできればいいなと思いながら、斗和は次々揚げていく。

おかわりもするかもしれないので、少し多めに作った。

 

あれこれしているうちに、どうにか夕餉が出来上がる。

人参と牛蒡のかき揚げ、椎茸の天ぷら、大根おろし、冷や奴、すまし汁だ。

味見するのははすまし汁と天つゆだけでいい。

斗和はそれもあり天ぷらにした。

 

飯も炊き一通り出来上がる頃、実弥が台所に来た。

 

「飯、できたのかァ?天ぷらの匂いがする」

 

「はい。天ぷらにしました。やっぱり天ぷらを作ると油くさくなりますよね」

 

屋敷中が油くさくなっていなきゃいいがと、斗和はここに来て心配になる。

我が家ならばいいが、ここは実弥の屋敷だ。

不快にさせてしまっただろうかと窺う。

 

「あの、屋敷中に充満していたらすいません。私、あまり考えずに天ぷらにしちゃいました…」

 

斗和は気まずそうに下を向いた。

実弥は、斗和が気を遣っていることに気付く。

まるで他人行儀というのか、一線を引いているように感じた。

それが面白くない。

斗和には、自然体でいて欲しいと思った。

恋仲になる前ならまだしも、今更気を遣われるなど苦しかった。

 

だが斗和がそうなる理由は、実弥自身の行いにあると分かっている。

あの一件で、斗和を酷く怯えさせてしまったのだと思った。

実弥は、後悔してもし足りなかった。

 

「んなこと気にするなァ。台所以外に匂うはずねェだろォ。それより風呂が熱いから先に飯にする」

 

「はい」

 

天ぷらは時間が経てば美味しくなくなる。

斗和はちょうどいいなと、ほっとした。

 

 

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