膳を居間に持って行き、二人は向かい合わせで食べた。
「天つゆは少し濃い目にしたので、大根おろしを多く入れた方がいいかもしれません。あとこれはおかわりの天ぷらです。よかったら…」
斗和は遠慮がちにそう言うと、実弥の様子を覗う。
黙々と食べるので、果たして美味いのかどうなのか分からずにいる。
それでもおかわりの天ぷらにも手を付けたので、斗和は自然と顔がほころんだ。
「…ごちそうさん、美味かった」
「良かったです…」
食べ終わり片付けをしようとすると、実弥が腕に何かを抱え居間に持って来た。
それはたとう紙に包まれた着物のようだ。
実弥に開けてみろと言われ、斗和はそっと見てみる。
「わぁ…!」
そこにあったのは椿と白の上品な着物と、藤の花柄の寝間着だった。
一緒に渡された箱を開けて見れば、手鏡と化粧品、そして緑色の簪が入っている。
手鏡は裏面が彫刻刀で彫られており、見事であった。
簪は装飾品に疎い斗和が見ても分かる程に、高級な物である。
「どれもすごく綺麗…!あの、これらは…?」
「渡そうと思っていた物だァ…。それ、嫌じゃなければ明日から着てくれねェか…?」
実弥は照れて頰が赤く、言い難そうに告げる。
「嫌なわけないじゃないですか!…嬉しいです、とっても嬉しいです!こんなに綺麗な着物…。寝間着も簪も化粧品も手鏡もこんなにたくさん…。実弥さん、本当にありがとうございます!」
(嬉しい、本当に嬉しい…!)
斗和は、たくさんの贈り物をされたのは生まれて初めてだった。
それが実弥からというのは、本当に嬉しかった。
あまりにも嬉しくて、涙腺が緩み目に涙を溜める。
実弥はそんな斗和を見て、こんなに喜ぶならもっと早くに贈ればと思った。
気恥ずかしくて押入れに仕舞い込んだままで、やっと日の目を見ることができた。
「片付けは俺がしとくからよォ。お前は先に湯浴みして来い」
「はい、じゃあお言葉に甘えます」
斗和は早速、藤の花柄の寝間着を持ち風呂場へ向かった。
風柱邸の風呂に入るのも初めてだった。
これまで実弥とは幾度も肌を重ねて来たが、情事後は必ず自宅で湯浴みをしていた。
何もかもが初めてのことで、斗和は先程から心臓が慌ただしい。
(お風呂はうちと変わりない広さだな)
湯加減は丁度良く、ゆっくり浸かれば全身が温まる。
このところ落ち着かなかった斗和は、しばらくぶりに長風呂をした。
風呂から上がり寝間着を身に着けた斗和は、洗った下着を以前干した場所へ持って行き吊した。
思いの外長く入ってしまい、一言詫びなければと思った。
居間に戻ると実弥の姿は無く、行灯が間もなく消えそうになっている。
すると実弥が戻って来た。
「布団は敷いてある。場所、分かんだろォ?」
「はい、あのでも…」
「着物も置いてある。あとは好きに使えェ」
実弥はそう言うと、風呂へと向かった。
斗和は、本当に部屋に行っていいものか不安になる。
泊まるのも初めてだが、あまりに突然で予測がつかないことばかりの連続だった。
部屋とは実弥の私室のことなのだろうか。
斗和は暗がりを記憶を頼りに廊下を進む。
すると、灯りの点いた場所があった。
そこはやはり実弥の私室だった。
他に灯りのついた部屋は見当たらない。
「お、お邪魔します…」
誰もいないのにも関わらず、斗和は律儀にも一言言ってから入る。
行灯が照らし出す部屋には、文机や箪笥が置いてあった。
斗和がこの部屋に入るのは、実弥から手酷く抱かれたあの日以来だ。
思い出し、斗和は俯いた。
ふと見た文机の上には化粧品の箱、その横にはたとう紙に包まれた着物が置いてある。
化粧品の箱には、化粧水らしき物が入っていたので、手に取り顔に付けた。
それは香りが良く、斗和は自然と口端が上がる。
そして着物を見つめた。
本当に貰ってもいいのだろうかと、そっと生地を撫でる。
(高そうな着物…こんなに綺麗なの初めて。そうだ、布団…)
斗和は、二組並べて敷かれてある布団を見て立ち上がる。
やはり同じ部屋で寝るのは気が引けた。
隣の部屋に引っ張って運ぼうと、しゃがんで布団を掴む。
そのまま勢いよく立ち上がろうとしたのが悪かった。
踵で寝間着の裾を思いきり踏んづけてしまい、斗和は盛大に後方に転んだ。
「わぁっ!」
ドシーン!
バターン!
部屋中に盛大な音が響き渡る。
半分しか開けていない襖に、斗和は体当たりしてしまう。
襖は見事に外れ、隣の部屋に倒れた。
(あー!!)
斗和は慌てて倒れた襖を戻そうとするも、うまく嵌まらない。
早くしないと実弥が風呂から上がってきてしまうので、必死で直そうとする。
(もー!私の馬鹿!いつぞやは煉獄家の庭木の枝は折るし、今日は風柱邸の襖を体当たりして倒すし…)
ガタガタと襖と格闘するが、やはり嵌らなかった。
「…何やってんだァ?」
「!?」
斗和が咄嗟に横を向くと、頭に手拭いを被った実弥がいた。