風柱邸の襖を体当たりして倒した斗和は、いたたまれない。
実弥が直した襖の横に縮こまり、正座していた。
「あの…本当にすいません。わざとじゃないんです…」
実弥は当たり前だと思った。
わざと屋敷の襖を倒す女などいるわけがない。
「どうやったら襖を倒すんだかなァ?」
笑うしかない。
風呂から上がり部屋に行けば、斗和が襖と格闘しているのだ。
斗和の行動は、予測不能なところがあるなと改めて思う。
実弥は布団の横で胡座を掻くと、頭を手拭いでがしがしと拭いた。
「布団を隣の部屋に運ぼうと思って…」
斗和は、再び布団を運ぼうと立ち上がろうとした。
すると実弥はその腕を取り、引き寄せる。
そのまま実弥の前に正座すると、行灯がぼんやり二人の影を浮かび上がらせた。
しばらく視線を合わせないまま、二人は俯いていた。
実弥は胡座から正座へと足を直す。
「…斗和、酷いことをして悪かった!」
頭を下げた実弥に、斗和は黙って首を振る。
(謝らなくていい、謝るのは私!)
「謝らないで!あなたは何も悪くない。お願い、頭を上げて…」
斗和は実弥の両腕を掴み、顔を上げさせる。
「全て私が悪いの!…こんな体になって…先を知って実弥さんから離れようと決めた。それが最善だと思ったの。あなたを深く傷つけた…。あんな方法しか思いつかなくて、本当にごめんなさい!」
実弥は俯きがちに、ぽつりぽつりと話し始める。
「…あの時、お前の体の痕を見て…他の男に抱かれたんだと怒りで我を忘れちまったァ。お前に裏切られたと…そんなことするはずないのになァ。俺は怒りに任せて斗和を傷つけた。酷いことを言って乱暴にして…痛かったよなァ…?本当にすまない」
悲痛に顔を歪める実弥の姿は、この前よりも遥かにつらそうに見えた。
斗和は罪悪感ばかりが込み上げる。
実弥を傷つけ、苦しめたことが悔やまれてならなかった。
「痛くない!あんなのは大したことないの!私の身体の痛みなんかより、実弥さんの心の方がずっとずっと痛かったでしょ!?お願い、もう謝らないで…そうさせたのは私なんだから!」
斗和は涙が溢れる。
実弥を苦しめ悩ませたことに、後悔しても足りなかった。
実弥は、斗和が他の男と交わったと思っている。
言い訳にしかならなくとも、真実を話そうと思った。
「…確かに痕は付けて貰った。だけど私は、誓ってあなた以外の誰にも抱かれていない…!私には実弥さんだけしかいないの…!ごめんなさいっ!」
斗和はそのまま実弥の胸に抱き着いた。
実弥は包み込むように抱き返す。
互いに、どんなに詫びても足りないくらいであった。
だが、それは互いに望まないことだった。
一度は離れてしまった二人だが、こうしてまた戻った。
それは覚悟の上でのことだ。
待ち受ける運命も、何もかも全て理解し二人はここにいる。
実弥は斗和をゆっくり布団に横たえ、髪と頰を撫でそっと口付けした。
啄むような口付けは徐々に深くなり、実弥は舌を絡め取り斗和はそれに応える。
「んっ、ぁ…」
名残惜しむかのようにゆっくりと離れると、見つめ合う。
斗和は実弥の大きな目を見て、自分の何倍あるのかと思った。
長い睫毛に触れてみたい衝動に駆られる。
そっと人差し指を伸ばした斗和は、寸前でその指を掴まれた。
「いたずらすんじゃねェ。集中しろォ」
実弥の声は穏やかで、そして色気を含んでいた。
斗和は、熱く情欲を灯す両眼から目が離せない。
「好き…大好き」
斗和の口から出た言葉に、実弥は嬉しそうに目を細める。
そして首筋に口唇を寄せていく。
実弥は器用に片手で斗和の寝間着の帯を解き、合わせ目を広げていく。
首を這っていた口唇は下に降り、鎖骨を掠めその下の双丘へ向かう。
そのまま胸の谷間に舌が這えば、斗和はピクリと体が動いた。
「んっ…」
実弥の両手が乳房を優しく包み込む。
ゆっくりと揉まれていくうち、斗和はハッとした。
(痩せたから胸も絶対小さくなったよね…。ただでさえ甘露寺さんのように豊満じゃないのに…)
「あの、胸…その…小さくなっ、あんっ!やっ、ん…」
斗和は"胸が小さくなってすいません"と言おうとするも、先端を刺激され言葉が続かない。
「んなことで詫びてんじゃねェ。こんだけありゃァ充分だァ」
「やっ、そのまま喋らないで…」
先端を口に含んだまま喋る実弥は、久しぶりの斗和の乳房に夢中になる。
左右を存分に味わった。
快感にくすぐったさも加わり、斗和はあっという間に力が抜けていく。
片方ずつ先端を指で丹念に刺激され、子宮が疼き足を擦り合わせる。
「あぁっんっ、あっ…」
人一倍胸が弱い斗和は、四肢を投げ出して久しぶりの実弥からの愛撫に酔いしれた。
触れる手つきは的確で優しさに溢れ、斗和は刺激を受けるうちに感度が上がっていく。
いつの間にか寝間着は完全に脱げ、生まれたままの姿になっていた。
実弥はやっと乳房から口唇を離すと、満足そうに口端を持ち上げる。
「乳、美味かったぜェ」
「なっ!…さ、実弥さんたら…」
斗和は恥ずかしくて、瞬く間に顔が赤くなった。
何てことを言うのかと思った。
実弥は斗和の膝を持ち、左右に大きく開いた。
「あ…」
そしてじっくりと眺めた後、秘部へと指を侵入させる。
しっかりと濡れているのは、見ただけで分かっていた。
「あっ…!」
一本はすんなりと入り、実弥はすぐに二本目を挿れ中を探るように動かす。
「んんっ、」
同時に、親指で上の陰核を刺激し始めた。
「きゃっ…」
股を開いた格好も相まって、斗和はその行為を受けるのがどうしようもなく恥ずかしい。
「やぁっ…あぁっ…っんっ、」
斗和は喘ぎながらも実弥を見れば、満足顔で秘部を見ている。
指を出し入れする卑猥な音が室内に響き、斗和は羞恥に悶えた。
一方で実弥は、感じてビクビクと動く斗和に性欲が湧き上がる。
始めは一本の指でさえ入らなかった場所だが、今では二本以上入りそうな程解れていた。
実際斗和は、指以上の太さの実弥の昂りを何度も受け入れている。
そして今からまたここに自らが侵入するかと思うと、実弥はゴクリと喉を鳴らす。
しかしまずは、斗和にしっかりと快感を与えてやりたいのだ。
「ひゃっ!や、んっ…」
陰核への刺激がぬるりとしたものに変わり、斗和は思わず腰を上げた。
見れば実弥が股に顔を寄せている。
斗和は膣の中も陰核も刺激を受け、押し寄せる快感に甲高い声で喘いだ。
あっと思った瞬間、斗和は気を遣り小刻みに震えた。
「あぁんっ、…ハァ…」
あまりにも恥ずかしく、手で顔を覆う。
「ハハッ、いつまでたっても慣れねえなァ?まあそんなとこも可愛いけどよォ」
「!」
実弥は斗和に覆い被さり、にんまりと笑う。
(か、可愛いって…可愛いって、私…ええっ!?)
初めて言われたその言葉に、斗和は顔に熱が集まる。
嬉しすぎて涙が出そうだった。
「私、とっても嬉しい…。実弥さんありがとう…本当にありがとう。愛してる…」
斗和は涙目で実弥の顔をそっと包む。
すると目を細め穏やかな表情になった実弥は、斗和の額に掠めるような口付けをした。
「俺もだァ…斗和。もう絶対放さねェ!」
斗和の手を取り、実弥は自らの頰に寄せる。
手のひらに温もりが伝わり、互いに微笑んだ。
すぐに吐息が重なり、深い口付けに変わる。
「んっ、」
「っ、ハァ…」
実弥は口付けを止めると、半分はだけた自らの寝間着を脱ぎ捨てた。
斗和の足に手を掛け、その入口に実弥は自身を宛てがう。
そしてぐんっと貫いた。
「あぁっ!」
斗和は、覆い被さる実弥の頭に腕を回す。
「斗和ん中はあったけェなァ…」
耳元で囁かれ、斗和はどうしようもなく実弥が愛おしくなる。
ふわふわの頭を何度も撫で、そっと笑う。
「実弥さんも、あったかいよ…。あっ、ぁ、あんっ…はぁ、ああ、」
動く実弥の姿を目に焼きつけようと、斗和は快感に耐える。
「っあぁっ…ん…、ね、私の中…気持ちいい…?」
「…っ、当たり前だァっ、余裕ありそうだなァ…!」
実弥は律動しながら答える。
斗和の内部は、本当に蕩けそうな程であった。
中の襞は実弥の男根にしっかりと絡み付き、動く度に一斉に扱く。
「クッ…」
すぐにでも熱が飛び出そうなのを、実弥は耐える。
だがその動きは激しさを増していく。
「あっ…あ、あぁんっ、やぁっ!いきなり激しくしちゃ…っ…だめっ…」
斗和は快感が支配する中、思う。
この人の傍にいたい
できるならずっといたい
ずっとこうして愛し合えたら、どんなに幸せなのか
決して叶わぬ願いでも、どうかと祈る。
斗和は後悔などしていなかった。
この世界に生まれ、記憶を戻し目的を成し遂げた。
何より実弥に出会えたことは幸せだった。
外側から見ているだけだった実弥を、再び好きになれた。
想いが通じ合えたのだ。
幸せすぎて涙が止まらなかった。
(本当にありがとう…実弥さん…)
斗和の頬を、幾筋も零れ落ちる涙が布団を濡らす。
実弥の激しくなる動きに、斗和は求められる幸せを感じた。
耐える表情の実弥の腕を引き寄せ、耳元で囁く。
「これからは…中に出して…?」
「斗和!」
「お願い…あなたが欲しいの…」
斗和は精一杯微笑んだ。
実弥はもう止まらなかった。
一層激しくなった後、実弥は斗和の中で精を放った。
その後は行灯が完全に消えるまで、二人は幾度も睦み合い眠りについた。