柱稽古が開始され四日目の朝。
空が白んできた頃、斗和は目覚めた。
障子からの光で朝だと気付く。
頭を上げれば、うつ伏せで寝ていたのか首が痛い。
ゆっくり反対側を向くと更に痛いが、同時に白銀髪が見え驚く。
起き上がると裸であることに気付いた。
斗和は、散らばっていた寝間着を素早く着て帯を締める。
すやすやと気持ちよさそうに眠る実弥に布団を掛け、そっと部屋を出た。
まずは台所に行き湯をたっぷり沸かす。
桶に移し、それを持って風呂場へ向かい体を清める。
腰に残る鈍痛が、昨夜の情事を思い出させた。
斗和は恥ずかしさが込み上げるが、同時に幸せも感じ口元が緩んだ。
胸元や太股の内側を見るといくつかの鬱血痕があり、実弥が付けていたことを思い出す。
昨夜の実弥は、斗和への想いを全身で現していた。
触れる手付きはどこまでも優しく、斗和の肌全てに口唇を寄せていた。
そこかしこにある鬱血痕は、実弥からの溢れ出た想いを感じ取ることができる。
(実弥さん…)
斗和は愛される喜びを実感し、しばし胸に手を当て浸った。
朝から思い出すのは恥ずかしいが、この上なく幸せであった。
一通り清めた体に、再び寝間着を纏い部屋に戻った。
◇
柱ともなれば、物音や気配には敏感になる。
五感は常に研ぎ澄まされているからだ。
斗和はなるべく音を立てずに襖を開閉し、中へ入る。
せっかくなので実弥の寝顔を拝見しようと、そっと反対側に廻り顔を覗き込んだ。
やや丸い小さな顔、右側に走る何本もの傷跡、閉じられた瞳と長い四本の睫毛。
起きている時とは大違いだなと、斗和は率直に思った。
穏やかな表情で眠る姿に、自然と斗和も笑顔になる。
目を開けると恐ろしい顔だと感じるも、寝顔はまるで赤子のようであった。
(きっとお母さんに似たんだろうな)
斗和はそう思った。
実弥の母は若く、小柄で可愛らしい女である。
実弥の子供時代の笑った顔は、母親に似ていた。
それにしても美形だと、斗和は改めて思う。
柱は皆、見目麗しい者ばかりで羨ましかった。
(この睫毛、ちょっと触ってみようかな…)
斗和がそっと指を伸ばし触れる瞬間、目が開いた。
「きゃ!」
驚き仰け反る斗和は、起き上がった実弥に右手を掴まれた。
「人が寝てる間にいたずらしようなんざいい度胸だなァ…」
「お、おはようございます…。いたずらしようとしたわけじゃなくて、睫毛を触りたかったんです」
「却下!…それよりまだ明け方だァ、寝てろォ」
斗和はそのまま腕を引っ張られ、布団に転がる。
「ちょっと!もう体を拭いてきたから起きます。実弥さんはまだ寝ていて下さい。ご飯が出来たら呼びますから」
そう言い起き上がろうとした斗和だが、実弥が上に跨がり首筋に顔を埋める。
「だ、だめっ!もう朝…あっ…」
実弥は斗和の帯を解き、あっという間に裸にした。
そして胸の辺りををじっくり眺める。
その視線から逃れるように、斗和は素早く起き上がり後ろを向いた。
「もうっ、こんなに明るいのに!」
斗和が振り返り抗議しようとすると、実弥はケッと短く舌を出す。
「今更なこと言うんじゃねェ。前から明るいうちにまぐわってきただろォが」
「まぐ…っ!?ちょっと何てことを…」
斗和は顔を赤くし、慌てて実弥の口を塞ごうとした。
だがそれより早く、実弥の両手が伸び胸を捕まえ揉み始める。
「やっ、ん…あんっ」
実弥はすぐに先端を摘み、捏ねくり回す。
弾かれ擦られ、斗和は力が抜けていく。
股からじわりと昨夜の名残が溢れた。
「あっ…」
斗和の肩口に顔を埋めた実弥は、うなじを舐める。
既に抑えられない欲は下半身に現れ、しっかりと勃ち上がっていた。
斗和は実弥の手が乳房から離れたので、振り返り睨んだ。
すると実弥の顔は赤くなっており、朝からこんなことをするからと抗議しようとした。
とたん体が反転し、再び布団に押し倒される。
実弥の目は昨夜同様、情欲にぎらついていた。
斗和の左足を持ち上げ、実弥は自らの肩に掛けた。
そして素早く昂りを宛てがい、そのまま貫く。
「あっ!」
斗和は初めての体勢で、実弥の中心が奥まで当たるのが分かった。
「んっはぁっ、あぁ、…奥まで…くる…あっ」
昨夜、斗和の中に出した実弥の体液が残っている。
結合部からは絶えず卑猥な水音がし、実弥は更に性欲が湧き上がる。
斗和とて同じで、感度が増している体は再び花開こうとしていた。
「すげェ音だなァ」
「やぁっ…言わっないでっ…」
激しくなる動きと共に音も大きくなる。
朝の静寂と不釣り合いな情事に、二人は背徳感が込み上げた。
(だけど気持ちいい…とても気持ちいいの…)
斗和は実弥と繋がっていることが嬉しく、幸せで涙が出る。
「斗和、中…っ、ハッ、締め付けすぎんじゃ、ねェッ!」
「あぁんっ…そんな、のっ分からなっ、んんっ、あ、あ、あぁっ…実弥さん、の…おく、当たるのぉっ…」
二人は止まることを知らず、夢中で愛し合った。
「あっ…!たくさん出て…」
情事が終わり斗和が起き上がると、秘部からジワジワと精液が流れ出る。
それを見た実弥は、斗和を引き寄せ腕に囲った。
そして乳房に顔を埋める。
「んっ、実弥さん、それ以上は…っだ、め…」
身を捩り逃れようとする斗和だが、昨夜からの情事で体はかなり感度を増している。
愛撫されてしまえば、あっという間に感じてしまう。
「だめじゃねェだろォ…乳は感じてこんなに硬くなってんのによォ」
実弥は執拗に乳房をいじりながら、斗和の秘部へと手を伸ばす。
「あんっ、もう…」
クチュッと音がし、二本の指はすんなりと中へ侵入した。
欲を放ち一度で終わるはずが、実弥の中心は萎える気配がなかった。
「斗和…悪ィがもういっぺん付き合って貰うからなァ?」
「ええっ!?」
実弥は斗和の背後に回り、両腕を取った。
同時に昂りが斗和の秘部を貫く。
「きゃぁっ!」
衝撃に仰け反るも、実弥はおかまいなしに斗和を突き始める。
パンッパンッと肌がぶつかり合う音が響き、瞬く間に濃厚な情事の空気に変化する。
実弥の猛る杭は斗和を絶え間なく貫く。
奥を幾度も突かれ、斗和は息も絶え絶えになり力が抜けていく。
「あ、あぁっ、いやぁっ…」
盛大に喘ぐ斗和は、両目から生理的な涙を流し体を揺らしている。
乳房はゆさゆさと揺れ動き、あまりに官能的な姿であった。
実弥は、正面から見られないことに悔しさを募らせる。
それでも想像してしまえば、堪らずに再び精を吐き出した。
斗和の内部は幾度も収縮し、まるで実弥の精子をごくんごくんと呑み込んでいるように思えた。
保てず突っ伏した斗和を見て、実弥は満足し己を引き抜いた。
結局朝から二度も激しく交わった二人は、再度湯を沸かし互いの体を清めたのだった。
───────
──────
斗和は朝から二度も激しく抱かれ、全身が怠かった。
特に下半身は重たく、腰に違和感がある。
体を清める際は白濁が何筋も股を伝い、実弥からのたくさんの愛を感じた。
「飯は俺がやるから、お前は支度しろォ」
「いいんですか?じゃあお願いします」
実弥の申し出に、斗和は素直に従った。
文机に座り、昨夜貰った手鏡を立て顔に化粧を施していく。
(この化粧品と着物って、実弥さんが買ったのかな?)
斗和は顔にあれこれ塗りながら、疑問が湧く。
実弥のあの強面で、基本は女しかいない店内に入る姿が想像できないのだ。
(いや意外と度胸で入ったりして…)
斗和はその姿を想像し、ふふっと笑みが零れた。
化粧が終わり、次は髪を結い上げ緑の簪を挿す。
普段斗和は、肩よりも長い髪をうなじの上で団子結びにしている。
今日はそれよりも高い位置で結い上げた。
鮮やかな新緑のような簪は、斗和の黒髪に映える。
気分も新しいものになり、斗和はふーっと息を吐いた。
昨夜洗い干していた下穿きを履き、たとう紙に一式入っている襦袢や足袋を身に着けていく。
いよいよ椿と白の着物に袖を通し、帯を巻いた。
風柱邸には姿見が無いので、手鏡を覗き遠ざける。
「………」
斗和は、自分ではない知らない女が写っているように思えた。
もう二度とすることがないと思っていた化粧。
着ることもないと思った着物。
それらを身に着け、斗和は愛する男の元にいる。
息絶えるその日までこの姿ならば、幸せだろう。
年頃の娘のように過ごせたら、どんなに幸せだろう。
斗和は鏡の中の自分を見つめた。
柱稽古の期間は不明だ。
実弥が義勇の屋敷に手合わせに行った直後、産屋敷邸が襲撃される。
二人が共に過ごせるのはそれまでなのだ。
斗和は手鏡をそっと伏せた。