※実弥視点
昨夜は互いの想いを伝え、心ゆくまで愛し合った。
斗和は終始涙目で、俺の愛撫に甲高い声で鳴いた。
その姿はあまりに儚く美しく、そして官能的だった。
溜めていた欲と斗和への想いが溢れ、止まらなかった。
絶頂を迎える度に斗和の体は感度が増し、人一倍弱い乳房への刺激だけで身悶えていた。
紅潮する斗和を放す気になれず、大して間を置かずに何度も交わった。
昨夜の彼女は積極的で、俺の男根を自らの乳房で挟もうとした。
一体どこでそんな知識を入れてくるのか、俺を喜ばせようとあらゆることを試そうとしていた。
銜えられるのも乳で挟まれるのもいいとは思うが、斗和の中に勝るものはなかった。
とにかく俺は一晩中斗和を求めた。
彼女も俺に応えるように腰を振り、その姿を見てまた欲情するといった具合だった。
そして朝。
目覚めた直後に見た斗和の姿は、色香に溢れていた。
昨夜あれ程したにも関わらず瞬く間に欲情してしまい、朝から二度も激しく交わった。
早朝の情事もなかなかにくるものがあり、斗和が喘ぐ姿はこれまでで一番官能的だった。
俺はもう虜になっていた。
終わった後は少し怒っていた斗和だったが、それすらも可愛いと思う俺も大概だ。
俺が朝餉を支度するから、そのうちに身支度を整えろと言えば大人しく従った。
その方が効率がいいのでそう提案したまでだ。
おそらく斗和は、内心ほっとしているのではないかと思っている。
彼女の料理は何度か食べたが、どうも味付けがいまいちだ。
天ぷらは美味かったが、基本的にどこか足りない。
以前も味噌汁の出汁をとらなかったようだし、苦手なのは間違いないだろう。
しかし彼女は、焼いた握り飯と鰤大根は相当美味く作る。
随分と差があるので、不思議なものだと思った。
とはいえ、惚れた女が作ったものは何でも美味い。
握り飯と言えば、ここしばらく食べていない。
昼にでも作って貰うかなと、味噌汁用のじゃがいもを切りながら思っていた。
「実弥さん、前掛けは台所にあります?」
廊下から声がし顔を上げると、思わず固まってしまう。
そこには美女が佇んでいたからだ。
くっきりとした目を縁取る睫毛。
筋の通った綺麗な鼻。
薄く控えめに引かれた上品な紅。
結わえられた黒髪に挿した緑の簪。
椿と白の艶やかな着物。
目を見張る程に美しかった。
包丁を握る手も止まり、呼吸すら忘れ見惚れてしまう。
「…あの、実弥さん?前掛け…あ、あった」
女が台所の隅にあった前掛けを取り、隣に来るまで目を逸らせなかった。
「どこまでできました?」
手元を覗かれ、ふわりと白粉の香りがしドキリと胸が高鳴る。
柄にもなく照れながら切ったばかりの馬鈴薯を渡し、味噌汁を頼む。
出汁は取ったからと伝えるのも忘れ、彼女の姿をこっそり目で追っていた。
◇
出来上がった朝餉を前に手を合わせると、向かいの斗和も箸を持つ。
彼女が気になりちらちらと前を見れば、どの料理も美味しそうに食べている。
すると斗和と目が合う。
「あの…私、何か変ですか?もしかして簪が曲がってます?」
「違う…何でもねェから気にすんなァ」
頭に手を掛けようとしたのをやめさせた。
言えるわけがない。
斗和が綺麗すぎてその姿に緊張し、飯の味がよく分からないなどと。
食べ終わり後片付けをすると言う斗和を台所に残し、俺は洗濯をした。
洗っていても考えるのは彼女の姿だ。
斗和の着物姿を見るのは今日で三度目で、どれも違う柄だった。
最初に見た時は別人のようだと衝撃を受けたが、今回はそれを遥かに上回る。
渡した着物がよく似合っているせいもあるが、彼女が醸し出すあの艶めいた雰囲気は何だ?
下を見る度に伏せられる睫毛、上品に開く小さめの口。
色香が立ち込めた居間で、呑気に飯など食べていられない状態だった。
先ほど食事をする彼女の姿を思い出しただけで、下半身に熱が集まる。
あの口が自分のモノを…とそこまで考え、慌てて首を左右に振った。
それにしても、あれは自分の知っている女と本当に同一人物か?
野良着に手拭い、化粧っ気は皆無の斗和。
普段の彼女は今の姿よりかなり幼く見える。
斗和は、恐ろしいまでに化粧映えする顔ということは分かった。
以前から色香は滲み出ていた。
だが今では、身体全体からほとばしりむせ返る程だ。
あまりにも色香が濃い。
昨日はここまでではなかった。
今朝、寝間着姿を見た時からか?
一晩でいきなり変わるとは…
洗濯の手を止め台所の勝手口を見ていると、斗和が出てきた。
思わず心臓が跳ねる。
「洗い物が終わりましたよ。次は部屋の掃除をするので、雑巾はどこですか?」
「掃除なら俺の部屋だけでいいぞォ。あとは隠が…!」
そこで隠の存在を思い出す。
屋敷には毎日隠が来て、家事や鍛錬用具の入れ替えをしたりする。
来る時間はまちまちだが、来ない日はない。
このままでは斗和の存在を知られてしまう。
いや知られるのは別に構わないが、彼女を他の男の目に入れたくない。
普段の姿ならば問題ないが、今のこの化粧に着物姿は絶対にだめだ。
男は斗和の虜になる可能性が高い。
「分かりました。で、雑巾は?」
「ちょっと来い」
俺は玄関へと向かった。
斗和は言われるがまま着いて来る。
俺は屋敷の最奥の部屋前で止まり、襖を開けた。
唯一裏庭に面した部屋で、他の部屋よりもこじんまりとしている。
「俺が呼びに来るまでこの部屋にいろ。いいなァ?勝手に出てくるなよォ」
掃除用具を手渡しながらそう告げた。
「えっ?呼びに来るまでって、いつまでですか?何かあるんですか?」
案の定訝しむ斗和だが、こればかりは譲れない。
凄めばこいつも大人しく従うだろうと、安易に考える。
「いいから絶対に出てくるんじゃねェ」
「絶対って…嫌ですよ!今から布団も干したいし、鍛錬もしたいんです。今は柱稽古中なんですよ?私はまだ実弥さんから合格って言われていないから、稽古をつけて下さいよ!」
こいつ…!
今までなら俺に逆らうことはなかったのに、いつになく強気だ。
柱稽古自体は、合格を言い渡したところで次の悲鳴嶼さんの稽古はできないだろう。
いや待て、斗和のことだから…
「お前、まさか悲鳴嶼さんとこにも行くつもりかァ?」
「いいえ…本当は行きたいですが、聞いた内容が今の私ではできそうにないから行きません」
残念そうに睫毛を伏せる姿は憂いを帯びており、不覚にもドキリとした。
斗和は、最後まで戦いたいという思いが強い。
だからこそ、本当は避けたかったはずの俺の屋敷にも来た。
斗和の思いを汲めば、稽古はつけてやるべきだ。
だが、俺としてはもう刀を握って欲しくない。
全集中の呼吸だけでも命を縮める行為だ。
昨日の稽古で、斗和は胸を押さえ苦しがった。
それを見てしまった俺は、斗和と刀を交える気にはなれない。
俺の傍にいてくれればそれでいい。
この件については、昨夜とことん話した。
互いの想いをぶちまけた。
俺は結局、斗和の好きにさせることにした。
存在理由は鬼殺隊にしかないと断言している。
最後までやりたいようにと、そう思った。
了承した時の斗和の表情は、穏やかだった。
「稽古は他の奴等が来るまでならつけてやる。お前もその方がいいだろォ?」
「はい。隊士が来たら、裏庭で一人で鍛錬します」
「今日は午前中少し休めェ。昨日殆ど寝てねェだろォ?」
昨夜は何度睦み合ったか分からない程だ。
先程も二度交わり、さすがに疲れているだろうと思った。
すぐに稽古はさせられない。
「そうですね。誰かさんのせいで眠れませんでしたから。実弥さんは一度終わる度に、私の胸に吸い付いてきましたもんね。さすがにおっぱい吸われたままだと、ゆっくり眠れませんよ」
斗和はジト目で俺を見てくるではないか。
まさかそんなことを言ってくるとは思わず、小っ恥ずかしくて赤面した。
こいつまさか、さっき二回した仕返しなのか?
「斗和っ!」
ふふっと笑う斗和に、またもや見惚れてしまった。
しばらく会っていなかったこともあり、見慣れない着物に化粧姿だからと言うのもある。
だがそれはあくまで彼女を彩るだけのものだ。
内面から滲み出る心境の変化が、斗和の姿を変えている。
斗和は、本当に幸せそうだった。
俺はただただ、愛おしさが増していた。