※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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実弥との稽古

縁側へ行くと、実弥が庭で鍛錬しているのが見えた。

 

思わず足を止めた斗和は、食い入るように実弥を見つめた。

風の呼吸の技は鋭く、一瞬の判断で大怪我にも繋がる。

斗和は、これまで幾度となく実弥と手合わせをしてきた。

本気でやり合って来たが、この先はどうなるのかと考える。

既に全盛期の力は無く、どこまで体力が持つかも分からない。

柱稽古が始まってからは警備も無くなり、しばらく鬼を斬っていない。

斗和は不安だった。

 

無限城で戦うには、実弥の稽古に必死で喰らいつかねばならない。

稽古は炭治郎をボコボコにし、善逸も泣き叫ぶ程に厳しいものだ。

 

(どこまでできるか…)

 

昼餉の後は稽古だ。

それまで斗和は、実弥の鍛錬を見て過ごすことにした。

 

実弥は、木刀ではなく日輪刀を使用していた。

迂闊に庭に出るのは危険なので、斗和は縁側に座り黙って眺める。

鍛錬用具はどんどん斬り倒され、あっという間に地面に散らばる。

 

(速い…跳躍力が前より上がってる気がする)

 

斗和は午後からの稽古に備え、脳内で幾度も動きを確かめた。

 

 

 

 

「そろそろ休憩して下さーい!」

 

しばらく後、実弥に休憩して貰おうと斗和は声を掛ける。

茶を淹れ差し出すと、実弥は「あァ」と呟き飲んだ。

 

「そうだ!お昼は何を食べたいですか?」

 

斗和は思い立って尋ねる。

実弥はちょうど言おうとしていたので、これ幸いと口を開いた。

 

「焼いた握り飯」

 

「分かりました。焼きお握りですね。他にはありますか?何でも言って下さい!」

 

やけに自信があるような斗和だが、実弥は訝しんだ。

本当に何でも作れるのか。

そしてそれは美味いのかが気になる。

 

「そうだなァ…晩飯は鮭の南蛮漬けか鯖の味噌煮が食いてェ」

 

「…分かりました!作りましょう!」

 

斗和は一瞬固まるも、作ると公言した。

実弥はそれを見て笑う。

 

「ククッお前、今言ったの作れんのかァ?」

 

「う…いや作れないかも…。さっき通いの隠に、いくつか教えて欲しいとは言ったんですよ。実弥さんが好きなおかずは何ですか?私、頑張って作ります!」

 

両の拳を握り、意気込む。

斗和は実弥の好きなものは、何でも作りたいと思った。

喜んで欲しい、その思いだけである。

 

「俺は鰤大根と卵焼きと糠漬けがありゃァいい」

 

実弥は気恥ずかしいのか、そっぽを向いた。

挙げたそれらは、斗和の得意料理である。

 

斗和は、実弥の優しさに感激し、笑った。

 

 

 

──────

─────

そして昼過ぎになり、斗和の稽古が始まった。

 

斗和はこれまで、鍛錬には木刀ではなく鍬を使用していた。

斗和の持つ日輪刀が、鍬の形に似ている為である。

 

土の呼吸は、木刀や一般的な日輪刀では本来の力が最大限発揮できないのだ。

そのような経緯から、斗和は鬼殺隊に入り特殊日輪刀を造って貰った。

何年もそれを使ってきたが、数ヶ月前から一般的なものに替えた。

体力と筋力低下により特殊日輪刀は重く感じ、振るのが大変になったからだ。

 

今は他隊士と同じく刀を腰に差し、使用している。

鍛錬も木刀で行っており、技自体の威力は落ちたが振るのは楽だった。

 

昨日同様、まずは打ち込みからだ。

一見単純にも見えるが、実弥は隙が無く動きが速い。

斗和は必死で喰らいついている状態だ。

実弥の身体に木刀が当たるまでは、技は撃つなと言われている。

打ち合いで押し切らなければ、技を撃っても大抵躱される。

 

技の連発は心臓に負担を掛けるので、好機を狙い撃つのが効率がいい。

実弥は斗和に、短時間で戦う術を教えた。

斗和もこれまでの経験から、効率よく倒すことは勿論してきた。

それらを更に練り上げ、いかに早く鬼の頸を斬るかだけを考えた。

 

「ハァハァハァ…っ」

 

バシッと実弥の足に斗和の木刀が当たってすぐだ。

 

 

─土の呼吸 伍ノ型 土砂崩れ

 

 

斗和は頭上高く跳び上がり、木刀を真上から振り下ろす。

空気を揺さぶる振動と共に、広範囲の圧が上から落とされた。

同時に実弥も跳び上がり、技を撃った。

 

 

─風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪(おろし)

 

 

上空から広範囲の突風が、斗和に襲いかかる。

互いに跳び上がったことにより、上空では二つの技がぶつかり合い広範囲の風圧が発生した。

 

二人は逆方向に回避する。

斗和は即座に突進し、再び打ち込んで行く。

本来ならばすぐに肆ノ型 泥濘ノ徘徊(ぬかるみのはいかい)を撃つと効果的である。

 

だが今の斗和は、心臓にかかる負担から技の連投ができない。

よって、一撃必殺で挑まなければ後がないのだ。

打ち合いができるのも対人間だからであり、焦りが出る。

 

「斗和!落ち着けェ、打ち込みが単調になってるぞォ」

 

「!」

 

斗和は実弥の指摘に、木刀を左手に持ち替え新たな技を撃った。

 

 

─土の呼吸 玖ノ型 蚯蚓破裂(みみずばれ)

 

 

バシュッ!という音と共に、斗和の木刀が実弥の右頬を掠める。

そして盾にした木刀を真っ二つに折った。

 

「ハァハァハァハァ…!」

 

斗和は呼吸が荒い。

実弥は察知し、斗和を支える。

 

「お前は昔から不安になると悪い癖が出る。稽古で焦ってたら身にならねェ。一旦引いて見極めろォ」

 

何度も深呼吸し、斗和は胸を落ち着ける。

実弥は苦しい時の変化もすぐに察し、目を配っている。

何度も手合わせをし、斗和の癖も見切っているので分かるのだ。

 

「はい…。どうしても連撃ができなくて、そこで焦るから…あと技の威力が減ったでしょう?だから…」

 

「刀が代わってもお前の技は威力がある。これまでが異常なぐらいだったんだァ。とにかく焦ると上手くいかねェ。落ち着いて確実にだァ」

 

実弥は諭す。

人間、焦れば誰しも平常通りにはいかない。

本来の力を発揮できないのだ。

斗和は技の連撃こそできないが、その威力は十分に通用する。

確実に少ない刀の振りで倒す。

それが今後の課題である。

 

実弥とは、共闘の為の連携も行った。

総力戦になれば、個々の力だけでは無理だ。

二人以上での連携も効果を成す。

 

「そういえば、柱稽古の初日は岩柱邸に行ったそうですね?伊黒さんから聞きましたよ」

 

岩柱邸には実弥の弟・玄弥がいるが、柱稽古が始まり不在だったはずである。

 

「あァ。柱同士は手合わせもだが、共闘の為に動きを確認しろって。この柱稽古は悲鳴嶼さんの提案だからなァ。それぞれに合わせた訓練を提示したのもだ。お前は伊黒んとこでも稽古したのかァ?」

 

問う実弥に、斗和は首を横に振った。

 

「いえ。本当はしたかったんですけど、伊黒さんが甘露寺さんの稽古内容を詳しく話せって…。それで話し終わって稽古をお願いしたら、なぜ元柱のお前に?って言われて。そこから冨岡さんが稽古に参加しない愚痴が始まったんです」

 

斗和はその時を思い出し、顔を引き攣らせた。

実弥は、呆れてため息を漏らす。

 

「冨岡の野郎、俺はお前達とは違うって言ってよォ。何をほざいてやがんだか」

 

チッと舌打ちをする姿に、斗和は何も言えなくなる。

義勇がそう言ったのには、ちゃんとした理由がある。

決してお高くとまっているわけではない。

むしろ、自らは何もせずに最終選別を突破したと思っている。

それが許せず、長年葛藤しているのだ。

 

勿論これは実弥が知ることはない。

それでも柱稽古後半には、義勇は炭治郎に諭され稽古に参加する。

それを待つしかなかった。

 

 

 

 

───────

──────

稽古が終われば、各々自分の鍛錬をして過ごす。

斗和は昔からの鍛錬で、両利きのように左腕にも力を付けていた。

それにより、攻撃の幅は広がっている。

全盛期のような力は無くとも、鋭い切り返しや速さは健在である。

 

一人では悩み焦り何もできなかった。

だが実弥がいることで、斗和は支えを得て必死で努力していた。

 

しばらくして、厠へ行ったついでに斗和は水と茶を用意する。

実弥に休憩するよう声を掛け、二人並んで縁側に腰掛けた。

 

風柱邸の縁側は、斗和の屋敷の縁側より広い。

二人並んで座ってもかなり余裕がある。

ここで実弥に鴉の令和に話し掛けて貰ったこともあり、懐かしいと思った。

 

「そういえば、鴉…令和なんですけどね。近頃気が利くと言うか、いくらか会話もしてくれるんですよ!どういう風の吹き回しなんでしょうね?」

 

「さぁなァ?まァよかったじゃねェか、芋娘!」

 

実弥はクックックと笑う。

斗和は一気に当時の記憶が蘇る。

令和はそれまで、任務伝令以外は殆ど喋らない鴉だった。

だが実弥が聞いたとたん、スラスラと口を開いたのだ。

 

"蓬萊斗和、芋娘ッ!"

 

あの時は非常に恥ずかしく、斗和は顔が真っ赤になった。

宇髄天元が長年そう呼んでいたせいだと思っている。

斗和は不服であった。

この先、この話題でからかわれるのではと。

さすがに実弥から芋娘と呼ばれるのは嫌だった。

 

(よし、思いつきだけど試してみよう)

 

斗和は団子に結わえていた髪を解く。

実弥にそっと寄ると、上目遣いで口唇を僅かに尖らせた。

 

 

「…ねえ、これでも芋娘って呼ぶの…?」

 

「!」

 

着物姿ではないが、化粧はしたままだ。

普段と違う斗和の姿に、実弥は心臓が跳ね上がる。

たちまち欲情してしまい、斗和の腰を引き寄せた。

そして顎を掴み、口付けした。

 

「んっ!」

 

「俺を誘惑するとはやるじゃねェかァ…。夜は覚悟しとけよォ!」

 

実弥はそう言い鍛錬に戻っていった。

 

斗和は誘惑したわけではない。

ただ"もう芋娘じゃないよなァ"と軽く笑ってくれるだろうと、そう思っただけだった。

 

(夜は覚悟って…)

 

 

斗和は一人、顔を赤らめるのであった。

 

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