善逸が稽古に来てから数日が経った。
斗和は、変わらず午前中は一人で鍛錬していた。
しばらく実弥とも打ち合いをしておらず、そろそろ一度本気で手合わせをしたいと思っている。
今の力量と、どれだけ戦えるのかを把握する必要があった。
しかし、薄っすら分かっていた。
技の威力が日増しに落ちていること、心臓が苦しくなる時が増えたこと。
実弥の前ではどうにか隠しているが、刀を振り技を撃つのも限界を感じていた。
連撃は勿論のこと、一つ撃った後は呼吸を整えなければ、次の攻撃はできなかった。
斗和は無限城に行っても、倒せるのは雑魚鬼だけだと思った。
それすらもどうなのか危ういくらいである。
隊士でいる限り、否応なしに無限城に取り込まれる。
そうすれば実弥とはもう会えない。
斗和が無限城で生き抜くことは不可能だった。
胡蝶しのぶより伝えられていた余命は、間もなく期限を迎えようとしていた。
◇
その日の午後も、斗和は通いの隠と共に握り飯を作っている。
朝、昼、と来る隊士には目を配っていた。
今のところは炭治郎も玄弥もまだ来ていない。
善逸は毎日逃げ出すことばかり考えており、脱走の常習犯として実弥は目を光らせていた。
斗和は合間にこっそり励ましたりしているが、それも効果はない。
その都度実弥にバレ、結局二人共怒られるのだ。
今までは実弥が席を外した際に出たり、面を着けて一般隊士に紛れ出て行ったりしていた。
だがことごとく発見されるので、もう絶対に出てくるなと実弥からきつく言われてしまった。
着物姿でもなんでも、とにかく絶対にだめだと実弥は譲らない。
それは可愛い独占欲なのかもしれないが、斗和はこれから来る玄弥にはどうしても会う必要がある。
どうにかしなければと考えていた。
玄弥は、実弥の稽古はしないように思えた。
するのかもしれないが、その描写が無かったので分からない。
分かっているのは、玄弥が実弥を探し家に入り、廊下で話しをするということだけだ。
炭治郎が目撃するのもここで、目潰しをしようとした実弥を阻止する。
話し掛ける想像をするも、斗和は顔を顰めた。
もし実弥に、玄弥と話しをしているのを見られては言い訳の仕様がない。
なぜ無関係で何も知らないはずの斗和が、玄弥と顔見知りなのか。
実弥は不信感を抱くはずだ。
やはり、ここで話し掛けることはできないと判断した。
炭治郎も家に入って来るので、そこから実弥が納戸を壊して外で乱闘する。
その後に接近禁止命令が出る。
(となれば乱闘騒ぎの後しかない…)
───────
──────
その翌日のことだった。
斗和が寝室の掃除をしていると、何やら大声で話し声が聞こえてくる。
まさかと思いこっそり行ってみれば、炭治郎の後ろ姿があった。
(あっ!)
慌てて廊下の影に隠れた斗和は、耳を澄ませる。
不穏なやりとりが聞こえ、突然大きな音がして納戸が壊された。
廊下が明るくなり、喧騒は遠ざかる。
皆が外に出たのを見計らい、斗和は壊れた納戸の横から覗き見る。
そこには、文字通り乱闘になっている実弥や炭治郎、玄弥の姿があった。
斗和は玄弥が帰る時に声を掛けるべく、素早く風柱邸を出た。
塀の角で待っていれば通るだろうと、ひたすらに待った。
他の隊士との稽古はすぐ再開される。
だが乱闘のせいで、炭治郎と善逸と玄弥は今日で終わりなのだ。
(岩柱邸での稽古は何日間…?)
斗和は考えても分からなかった。
それが終われば、本部・産屋敷邸が襲撃される。
(終わりが近い…お願い、もう少しだけ頑張って…!)
胸に手を当て、斗和は祈る。
斗和はしゃがみ込み、ぼんやりと考え込んでいると、脇を通る人影に気付く。
咄嗟に顔を上げると、玄弥の姿があった。
俯いており、その足取りは重い。
「…玄弥君!」
斗和が呼ぶと玄弥は振り返った。
じっと斗和を見ている。
「あ、この格好じゃ分からないですよね。私、蓬萊斗和です」
玄弥は目を見開き、驚愕している。
その顔は実弥によく似ていた。
「え…ここで柱稽古?…さっきまでいなかったよな?ここは兄ちゃんの…」
玄弥は不思議だった。
兄である風柱の屋敷で、これまで何度か会った斗和と会った。
なぜ彼女は着物姿で兄の屋敷にいるのか。
なぜわざわざ声を掛けたのか。
「玄弥君、なんだか一回り成長しましたね。玄弥君がお兄さんを守りたい気持ち、きっとお兄さんも分かっています。だけどお兄さんはそれ以上にあなたを守りたいんだと思います」
「………」
「玄弥君もお兄さんも、お互いを思いやる気持ちが強いんです。それだけ優しすぎるんですね…」
斗和は滲んだ涙を拭いた。
玄弥は何も言わず、ただ斗和を見つめている。
「いきなりすいませんでした!最後にもう一つだけいいですか?」
「!」
斗和は玄弥の返事を聞かず、その大きな体を抱きしめた。
「ありがとう」
一礼し、斗和は去って行った。
玄弥はそこで何を思い感じたのか。
変えられない未来を思い、斗和は瞼を伏せるしかなかった。