最後に玄弥と会い風柱邸に戻ると、既に隊士達の姿は無かった。
屋敷は静寂に包まれており、先程までの喧騒が嘘のようであった。
庭では隠が片付けをしていた。
斗和に気付くと、近寄って来た。
「蓬萊様!どこへ行ってたんですか!?不死川様が探していましたよ。さっき乱闘があって、稽古が中断されたんですよ」
「ちょっと私の鴉の姿が見えなくて探しに外へ…」
斗和が気まずそうに頭を下げると、隠は耳元でこっそり教えた。
「不死川様の機嫌が大層悪いんです。気を付けて下さい」
はいと頷くと、斗和は実弥が壊した納戸に目を向けた。
納戸がそのままなのを見て、直せないかと駆け寄る。
するとドカドカと足音がし、廊下から実弥が現れた。
「斗和!探したぞォ!どこ行ってたァ!?」
明らかに機嫌の悪い実弥は、斗和を見て舌打ちする。
乱闘が起こり、今日の稽古は終了となった。
本部に報告に向かった実弥の鴉・爽籟は、先程戻り文を携えていた。
内容は、実弥と一部隊士の接近禁止命令である。
行動が早い己の鴉にも怒りが湧き、実弥は非常に苛立っていた。
加えて斗和がどこにもおらず、焦り心配だった。
探しに行こうとしたのを、斗和の鴉・令和に止められた。
すぐに戻ると、強い口調で言われたのだ。
令和が実弥に対し、強く出るのは二度目だった。
一度目は、数年前に斗和が下弦を二体同時に倒した時だ。
そして令和の言う通り、斗和は本当に間もなく戻った。
「ごめんなさい。鴉が、令和の姿が見えなくてちょっと探しに出たの」
「アァ?令和ならずっと庭にいたぞォ。ったく、勝手にいなくなるんじゃねェ!焦るだろォが…」
「っ、ん」
実弥は斗和の腕を引き、口付けした。
貪るようなそれは、舌が絡まりなかなか離れない。
やっと離れると、実弥は情欲を含んだ目で斗和を見つめる。
斗和は思わず心臓が跳ねた。
「いいかァ、二度と勝手に屋敷を出るんじゃねェ。どんなに近くでもだめだァ。行く時は俺の鴉も付ける。何かあってからじゃ遅ェ、分かったかァ?」
「はい」
斗和は真剣な実弥を見て、罪悪感が込み上げる。
実弥の知らない所で玄弥と何度か接触した。
知られたくないであろう実弥の過去も、斗和は知っている。
今になり斗和は、それを申し訳なく思った。
誤魔化すように、納戸の話題を振る。
「ところでこれ、盛大に壊したようだけど…」
「いい、放っとけェ。後で隠に直させる」
実弥はそう言うと、再び斗和を抱き寄せ腕に囲った。
そして貪るように口付けをする。
「ふ…んっ、」
それを、庭を片付けていた隠が目撃してしまう。
あまりに濃厚に口を吸い合う二人に、隠は慌ててその場から去った。
(分かってたけど、不死川様と蓬萊様はやっぱり恋仲だったか。それにしても不死川様、すごい剣幕だったな…殺されるかと思った。蓬萊様にべた惚れなんだなあ)
実弥は風呂を沸かせと斗和に告げ、私室へと行ってしまった。
斗和は、実弥の気持ちも考えるといたたまれない。
表向き何も知らないので、何も声を掛けることはできなかった。
◇
実弥はその晩、性急なまでに斗和を求めた。
思うようにならない玄弥への気持ちが、苛立ちと不安になっていた。
斗和も先を見据え、今は実弥を受け止めることをしようとした。
誰にも吐露できない思いをぶつけるかのように、二人は幾度も体を重ねた。
運命は変わらないのだろうか。
誰一人失わず、鬼を倒すことはできないのか。
斗和は実弥に抱かれながら、空を見つめ問う。
返ってこない答えは、変わらない運命を示唆していた。
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その後も隊士は風柱邸へ来て柱稽古は続いた。
徐々に人数が減っていくのと同じように、斗和は自らの命も残り僅かだと感じ取った。
余命半年ではないかと言われていた。
月日は流れ間もなく五ヶ月になろうとしている。
全集中の呼吸は心臓へ負担をかけるものだ。
加えて刀を振るい技を撃つ激しい動きは、斗和の心臓を悪化させていた。
斗和は数日前、実弥に手合わせを頼んだ。
柱稽古に余裕ができた実弥は、引き受けるも心配であった。
しばらく斗和が稽古をする姿は見ていない。
毎日午前中だけ、裏庭で一人稽古をしているのは知っていた。
体の具合を聞けば、斗和は常に大丈夫だと答える。
実弥はそれが堪らなく不安だった。
実弥は毎晩情事を終え、先に眠る斗和を見つめた。
胸に耳を近付けると、不規則な鼓動が聞こえるのだ。
それは月日が経つにつれ、明らかに悪くなっていた。
斗和は時折顔色が悪くなり、胸を押さえ蹲る。
実弥は何度もその姿を目にしてきた。
斗和が、心配をさせないようにと隠しているのも知っている。
余命を告げられた時点で、大丈夫という言葉は存在しないのだ。
案の定斗和は思うように動けず、技を撃っては片膝を着き肩で息をするまでになっていた。
既に戦える状態ではなかった。
それでも心臓が止まるまではと、斗和は強い意志を持ち続けた。
実弥は堪らなくつらかった。
失うことの悲しみとつらさを、実弥はこれまで幾度も味わった。
更に斗和を失わなければならない。
覚悟はしても、やはり目を背けたくなる。
実弥は払拭するように、毎晩斗和を求め抱いた。