※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

181 / 190
それぞれ

「ただいま…」

 

誰もいない屋敷の玄関を開け、斗和は廊下の先を見つめる。

数ヶ月ぶりに自宅に戻ると、埃っぽさを感じた。

斗和は家中の襖を開け放つと、文机に座る。

 

「うっ、っく…」

 

筆を持つも、その手は震え字を書く事ができない。

涙は紙にいくつも落ち、染みを作り濡らしていく。

 

実弥に文を書くのは二度目だった。

一度目は、手合わせの文が間違って来たと勘違いし、それを教える為に書いた。

あれは謂わば、初めましての挨拶だった。

そして今度は、別れの挨拶だ。

 

【拝啓 不死川実弥様】

 

やっと書いた名前に、再び涙が溢れる。

 

斗和は、泣きながらもどうにか書いた文を折り畳む。

鴉の令和に頼み、隠の後藤に届けさせることにした。

 

「令和、最後の頼みを聞いてちょうだい。これを後藤さんに届けて、そしたら煉獄家に行って。…もう私の元には戻らないで」

 

令和は斗和の思いを汲み、頷く。

そして最後に寄り添った。

斗和は令和を撫で、涙を流す。

 

「鬼殺隊に入ってから十年近くになるね…?ずっと一緒にいてくれてありがとう。元気でね、令和!」

 

令和は何も言わず、ゆっくり飛び立って行った。

その目には涙が浮かんでいた。

 

 

 

斗和は、床の間に置いてある特殊日輪刀を手にする。

久しく握っていなかったそれは、ずしりと重く感じた。

鍬に似た形状から、鞘は無い。

刃を見て、一通りの手入れをすると庭に出た。

 

家の裏手にある畑へ向かうと、刀を構える。

 

 

─土の呼吸 壱ノ型 土龍爪(どりゅうそう)

 

 

渾身の力で一振りすると、荒れ放題の畑は亀裂が入り大きく抉られた。

 

「ハァハァ…」

 

やはり、土の呼吸に適した特殊日輪刀の威力は凄まじい。

一般的な日輪刀では出せない広範囲の技。

岩の派生呼吸なだけあった。

 

斗和は、無限城で戦う術を考えた。

一般的な日輪刀は軽く、振るうのは楽だ。

だが、本来の技の威力が出せないという欠点がある。

実弥の屋敷での鍛錬中、どうしても手に馴染まなかった。

やはり使い慣れた特殊日輪刀でなければ、まともに戦えないと思った。

 

重くとも、長年使用した刀でなければだめだと痛感したのだ。

しかしそれも万全の状態でいて一撃か二撃が限度だった。

 

(刀が重い…威力はあっても技を素早く撃てない…)

 

両手でも重く感じた愛刀に、斗和は悔しくて下唇を噛む。

この適度な重さが手に馴染んでいたはずだった。

それを負担に感じるなど、絶対にあり得ないと思っていた。

 

既に限界を超えている斗和の心臓では、疲弊が激しく長時間の戦いもできない。

もつかどうか、ぎりぎりの状態だった。

斗和は奥歯を噛み締め、畑の真ん中に立ち尽くしていた。

 

 

(鬼狩り…)

 

 

草が生い茂る畑の隅、一つの目玉が斗和の姿を捉えていた。

 

 

 

 

───────

──────

夕暮れ。

炭治郎を殴り共同鍛錬場を後にした実弥は、近くの林の中で一人鍛錬していた。

 

苛立ってしょうがない。

おはぎの件、そして斗和の件を二人に知られてしまった。

隠していたわけではない。

だが、ここにきて追及されると思わなかったのだ。

思い出されるのは、笑顔で手を振り別れた斗和の姿。

苦しそうに胸を押さえる姿。

切なげに振り返り、列車に乗る姿。

死を暗示するものばかりだ。

 

実弥は地面を蹴り上げ、爆風を纏い辺りの木を斬り付ける。

バキバキッと音を立て落下する木々を見ても、苛立ちは収まらない。

帰る事への不安も込み上げ、その場から動けなかった。

 

 

 

 

 

 

どれくらいそうしていたのか。

月が見え星が見える頃、実弥はやっと帰路に着いた。

長い石段を下るうち、やはり義勇と手合わせしなければよかったと思った。

 

「チッ」

 

(くそがァ…一体何なんだアイツはァ。調子の狂ったガキだぜ本当に)

 

カサッ

 

すると、草むらで僅かに音がした。

実弥は瞬時に移動し、"それ"を捕まえる。

グシャッと気持ち悪い感触に手を開くと、中から"肆"と書いた気色の悪い目玉が出てきた。

 

「なんだァァこれはァ…」

 

 

 

 

石段を降りきり、屋敷へと向かおうとしてすぐだ。

しばらく姿の見えなかった鴉・爽籟が全速力で飛んで来て叫ぶ。

 

 

「緊急招集──ッ!!緊急招集──ッ!!産屋敷邸襲撃ッ…産屋敷邸襲撃ィ!!」

 

 

実弥は瞬時に駆け出した。

 

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