上弦の鬼達が、肆である鳴女を除き集結している。
上弦の壱、弐、参、伍、陸。
元・肆の半天狗、元・伍の玉壺、元・陸の妓夫太郎と堕姫は既に鬼殺隊により葬られている。
この場にいる新・伍と新・陸は別の鬼だ。
「新たな伍と陸が黒死牟殿の秘蔵っ子達とはねえ。俺は全然知らなかった。教えてくれてもいいじゃないか。なあ猗窩座殿?」
上弦の弐・童磨は、黒死牟の両脇に佇む鬼達を見て笑う。
上弦の参・猗窩座に同意を得ようとするも、煩わしそうに一瞥されただけだった。
「黒死牟殿は羨ましい限りだ。陸の君、最近鬼になったばかりと聞いたぜ。少しは慣れたかい?」
童磨は誰一人言葉を発しない部屋で、一人楽しんでいる。
陸の君と呼ばれた鬼は、些か緊張気味に頷いた。
「…それなりに」
「うーん、話しが弾まないねえ。そっちの君も寡黙そうだし、大人しいねえ。それにしても、空いた三つをすぐに穴埋めできたのは何より」
うんうんと頷く童磨に、猗窩座の怒りが爆発する。
「相変わらず口数の減らない奴だ。ベラベラと…!」
「猗窩座…」
いきり立つ猗窩座だが、黒死牟の圧が増したことで静かになった。
「これより無惨様の命を伝える…。間もなく鳴女により捕らえられた鬼狩りがここ、無限城へと集結する。各々抜かりなく対処するよう…」
「「御意」」
黒死牟の両脇にいる鬼は無表情で返事をした。
勾玉を首に巻いた鬼は、僅かに口端を持ち上げる。
「長く生きてるとこんなこともあるんだねえ。俺は嬉しいぜ」
「遊びじゃないんだぞ」
楽しみな様子の童磨を、猗窩座が一刀両断する。
「今宵は鬼狩り全ての命日となろう…」
黒死牟は六つ目を一度全て閉じると、再びゆっくりと開けた。
間もなく、鬼殺隊と鬼との最終決戦が始まろうとしていた。
数時間後。
日が暮れ、闇が訪れる。
(来る…!)
斗和は腰には一般的な日輪刀を差し、背中には特殊日輪刀を背負い畑から出ようとした。
その時だ。
背後に潜んでいた目玉が飛び上がり、斗和が振り返った瞬間。
「!!」
地面に異空間・無限城の扉が現れ、斗和は真っ逆さまに落下して行く。
(ああ、ついに…!ここが無惨の根城…)
空中で体勢を整え、辺りを見回す。
すると斜め前に村田らしき人物が、ジタバタ藻掻きながら落下していた。
「村田さんっ!」
「蓬萊さんー!」
手を伸ばした矢先だ。
扉が出現し、斗和は掴まった。
更に落下していく村田をどうにもできない。
斗和は宙吊りだったが、勢いを付け扉の中に入り込んだ。
(広い…静かだ)
静まり返ったそこは、畳が敷き詰められた広大な部屋であった。
中央には途中までの階段があるだけの、閑散とした空間である。
トン…トン…トン…
「!?」
突如、階段から足音が聞こえてきた。
誰が現れるのかと、斗和は固唾を呑み見ている。
白い足袋、白い袴、白い
手に持つ巨大な薙刀は、血肉のように赤黒い。
現れたのは黒髪短髪の男だ。
背が高く、筋骨隆々とした青年に思えた。
だがその目は赤く、黒い眼球には銀色で字が書かれていた。
"上弦 伍"
上弦の伍・玉壺は、刀鍛冶の里にて霞柱・時透無一郎が倒した。
当然この"上弦 伍"は玉壺ではない。
元鬼殺隊士の獪岳が新・上弦の陸となっていたように、空席となった上弦には新たな鬼が据えられていたのだ。
新・上弦の肆は琵琶鬼の鳴女。
そして新・上弦の伍は──
「静寂だったこの城が騒がしくなった…」
斗和は全身白に包まれたその鬼を見て、絶句した。
「
斗和は息をするのも忘れ、その鬼を見つめる。
目の色以外、外見も声も見知った男だった。
鬼殺隊士であり斗和の継子・館坂佳成。
似ているだけならいい。
斗和は、ドクンドクンと嫌な動悸がし始める。
ただでさえ心臓が悪いのに拍車をかけ、目眩がしてきた。
声に出したいのに、出ない。
(違う…違う…佳成じゃない…佳成はあの時死んだ…だからあれは…)
上弦の伍は真っ直ぐに斗和を見ている。
その顔は無表情で、瞬きすらしない。
「俺の名は虎狼。…女の鬼狩りとは珍しい。獪岳から聞いていた屈強な男はいないのか?岩柱だったか…?」
虎狼と名乗った鬼と、佳成の顔がだぶる。
斗和は震える体をどうにか支えた。
継子・館坂佳成と似ているだけならどんなに良かったか。
顔も背も声も、全てが記憶にある佳成だったのだ。
この世に神はいないのだと、斗和は思った。
「私は…蓬萊斗和。元・柱だ」
斗和はどうにかそれだけ絞り出した。
すると上弦の伍はフッと口端を持ち上げる。
「…元・柱?そんな弱々しい闘気でか。まあいい」
上弦の伍は、右手に持つ巨大な薙刀を構えた。
虎狼自身の血肉で作られた、刃が巨大な特殊薙刀だ。
─土の呼吸 弐ノ型 土石流・
「!(あの技は…)」
大きく振るわれた薙刀から、大量の土砂が形造られ斗和に襲いかかる。
相当に広い空間だが、正面全てが土砂で覆われた。
逃げ場はない。
本来の土石流を凌駕した威力であった。
斗和は放たれた技に言葉が出ない。
─土の呼吸 陸ノ型
斗和は特殊日輪刀を使い、幾度も上下に振り下ろした。
土の粒子を纏った斬撃が、撫でるように幾筋も舞う広範囲の技である。
だが土石流の威力は圧倒的で、斗和の技を越し呑み込もうと迫る。
「うあっ!!」
斗和は咄嗟に刀を横にし、次の技を放つ。
─土の呼吸 壱ノ型
土の粒子が龍を型取るように見え、その爪が斬り裂く技である。
どうにか相殺しようと撃ったものの、力が弱くなった斗和では本来の威力が出ない。
身体を縮めた斗和だったが、遥か後方に吹っ飛ばされると共に至る箇所から血が噴き出る。
「ハァハァハァハァハァハァ…!ぐっ…ハァハァハァ」
技の連投により斗和の心臓は負荷がかかり、起き上がることができない。
ギュウギュウ胸が締め付けられ、苦しさで意識がとびそうになった。
「その技…俺と同じだ。なぜお前も使う?」
虎狼は斗和に問いかける。
斗和は答えられないでいた。
逆に問いたいくらいであった。
"なぜお前が、二人しか会得していないはずの土の呼吸を使うのか。私と、佳成しか知らない土の呼吸を……"
だが言葉にならない。
言葉にすれば、全てが肯定されるようで嫌だったのだ。
「ハァハァハァ…」
一撃で既に追い込まれた斗和は、やはり長く戦えないと悟る。
技を撃てば撃つ程に疲弊し、体が動かなくなっていく。
最早一撃必殺の奥義しか勝ち目はなかった。
ぐっと真横に構えた特殊日輪刀。
撃てるかさえ不明な奥義の構えをした時だ。
虎狼が眉をひそめた。
「不思議な刀だ…。どこかで見覚えがある。どこだ…?」
「!」
斗和は思わず構えた日輪刀を降ろし、虎狼を見つめた。
虎狼は一心に刀を見ており、一歩ずつ斗和に近付いて来る。
間合いより離れなければと思う斗和だが、足が動かない。
「獪岳は俺を知っているようだが、俺は獪岳を知らない」
虎狼は歩きながら言葉を紡ぎ出す。
「俺は鬼狩りだったらしい。だが何も覚えていない。奴らは何人か喰ったが、皆呆気なかった」
「っ!」
迫り来る虎狼に、斗和は逃げることができずにいた。
そして斗和の刀の刃を掴んだ虎狼は、分捕りそれをまじまじと眺める。
「悪鬼滅殺…この形状…やはり過去に見たな」
斗和は虎狼が掴んだ刀を取り返そうとするも、その体がふわりと持ち上がる。
とたん脇を蹴り跳ばざれ、吹っ飛んだ。
ボギッと鈍い音がし、肋骨が折れる。
負傷が故に受け身も取れず、斗和は中央にある宙吊りの階段に叩き付けられた。
「ガッ!っハァハァハァ…ゴフッ!」
折れた肋骨は内臓に突き刺さり、斗和は盛大に吐血した。
どうにか立とうとするも、いつの間にか目の前に虎狼がいた。
「!」
「弱々しい鬼狩りだ。本当に元柱か?俺は嬲り殺すのは趣味ではない。このおかしな刀で俺に一撃入れてみろ」
虎狼は斗和の特殊日輪刀を転がした。
斗和は泣きたいのを堪え、血塗れの手で刀を握る。
そして瀕死の体で奥義を撃とうとした。
だが地鳴りと地響きは弱く、床から立ち昇るはずの土の粒子も薄い。
虎狼は巨大な薙刀を構える。
─土の呼吸 拾ノ型奥義
ブォン!と風を斬ると同時、虎狼の視界から斗和が消えた。
(上か?)
虎狼が見上げると、斗和が見えた。
特殊日輪刀が虎狼目掛けて振り下ろされた瞬間、巨大な薙刀は半月を描き斗和を真っ二つにした。
(フッ、呆気ない)
ガシュッ!!
「!?」
その時だ。
虎狼の喉仏に日輪刀の刃先が突き刺さる。