※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

183 / 190
実弥現る

鍬のように先が曲がっている特殊日輪刀は、刃先は鋭利なのである。

それが喉仏にしっかりと刺さっていた。

背後で刀を引き寄せているのは斗和だ。

真っ二つにしたと思われた体は無事である。

ググッと頸を回した虎狼は、斗和の姿を見て奥歯を噛んだ。

 

「なぜだ?確かに今斬ったはずだ…!」

 

「ハァハァハァ…あれは、残像だ」

 

斗和が撃ったのは奥義ではなく、肆ノ型 泥濘ノ徘徊(ぬかるみのはいかい)の応用技である。

斗和は風柱邸での稽古で、基本の型を応用できるよう鍛錬していたのだ。

弱った体では、奥義を撃てはしなかった。

一矢でも報いるように、全ての型を改良し即座に撃てるようにした。

 

斗和は渾身の力で刀を引き寄せ、虎狼に尻餅を着かせた。

 

「ぐうっ!肋が折れているはずなのに何て力だ…本当に女か?」

 

斗和は、腰に差していた日本刀形状の日輪刀に手を掛け抜刀する。

右腕には特殊日輪刀、左腕には通常日輪刀を持ち虎狼の頸目掛けて振り下ろす。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

斗和の雄叫びが響き渡る。

通常日輪刀は虎狼の左頸に喰い込み、頸を斬り離さんと力を籠める。

本来、利き腕でない方では力が存分に出ない。

だが斗和は、数年前から左腕も利き腕同様に強化してきた。

故に両腕は同じ様に力があるのだ。

 

かつて猗窩座との戦いで杏寿郎がしたように、斗和も全身全霊を籠め頸を斬ろうとしている。

 

「ぐぅぅっ!」

 

しかし相手は上弦ノ伍だ。

全盛期より遥かに動けず、病を抱える斗和が押し切ることは不可能であった。

 

 

─血鬼術 散弾・亜空粉砕(あくうふんさい)

 

 

 

振り返った虎狼が右拳をバッと開いた瞬間、斗和は後方に飛ばされ、同時に全身を弾かれた。

右太腿と腹は大きく半分抉れ、左手首は切断。

そして左肩は鎖骨付近まで抉られ、壁に叩き付けられ落下した。

 

「う…」

 

団子に結んでいた髪は既に解け、至る箇所から血が溢れ出ている。

斗和はぐったりしたまま動かない。

喉仏から特殊日輪刀を抜いた虎狼は、再生される頸に触れながら冷ややかに笑う。

 

「力のみで頸を斬ろうとは、気概だけはあるようだ。だが…実力の伴わない元柱など知れている。…終わりだ」

 

虎狼は巨大な薙刀を一振りした。

 

 

─土の呼吸 壱ノ型 土龍…

 

 

─風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風(そうそう・しなとかぜ)

 

突如として虎狼の後方、中央の階段から勢いよく技が撃たれた。

獣の爪痕のような四つの大きな斬撃は、虎狼に襲いかかる。

防御出来ず飛び上がり避けるも、その威力は凄まじく、虎狼は下半身をズタズタに斬り裂かれた。

 

「塵鬼がァ!」

 

現れたのは実弥であった。

先程斗和の咆哮を聞き付け、声の方へ向かったのだ。

 

斗和の声だとは気付いていないが、女の声であるのは分かっていた。

女の隊士は数少ない。

柱の胡蝶しのぶ、甘露寺蜜璃。

一般隊士の栗花落カナヲ、他数人と斗和だけだ。

誰であろうと、付近にいれば駆けつけなくてはならない。

 

実弥は虎狼が反撃できないうちに、更にたたみかけるつもりだった。

一瞬だけ見えた鬼の両眼には"上弦 伍"の字があった。

再生が早いであろうことも分かっている。

暇など与えてはならない。

 

新たな技を撃とうとした時だ。

ふと血の付いた手拭いが視界に入り、思わず駆け寄り掴む。

見覚えのあるそれは、斗和がしていた物だった。

まさかと右に目を向けると、壁の下に倒れている斗和を発見した。

 

「斗和!!」

 

実弥はすぐさま傍に寄り、血まみれの斗和を抱え上げる。

 

「斗和!あああっ!だめだ斗和っ!」

 

揺さぶると、斗和はかろうじて目を開けた。

だがそれも半分だけで、実弥の顔を認識するのが精一杯だった。

 

ドクドクと流れ出る血は止められず、実弥の隊服を赤く染め上げていく。

斗和はどうにか声を出そうと腹に力を入れる。

だが、口から鮮血が飛び散っただけだった。

 

「ゴフッ」

 

「だめだァ!喋るな…」

 

実弥は悲痛に顔を歪め、幾度も斗和の顔を撫でる。

 

斗和は息も絶え絶えに、必死で言葉を紡いだ。

 

「お…に、よ、佳成…」

 

実弥はその言葉にバッと鬼を見た。

 

「!?まさかあいつ、館坂かァッ!?」

 

無表情で近付いて来る上弦ノ伍・虎狼を見て、実弥は驚愕した。

長身で筋骨隆々、黒髪短髪。

両眼に"上弦 伍"と書かれたその鬼は、斗和のかつての継子・館坂佳成だった。

 

佳成は約二年前に、黒死牟と遭遇し殺されたはずである。

血痕は残されていたがその遺体は無かった。

鴉は助けを呼びに行くも、時既に遅し。

状況から殺され、そのまま喰われたのだと隠は判断した。

 

だが実は、殺されていなかったのである。

佳成の根性を気に入った黒死牟は、死なない程度に斬りつけ無限城に連れ帰った。

そして無惨に会わせ、この者はいずれ役に立つと言い鬼に変えたのだ。

黒死牟の元で二年間鍛錬し、上弦の実力を着けた佳成は、ついに玉壺に代わる上弦ノ伍となった。

 

斗和は柱稽古前日に、隊士・山崎から佳成に似た鬼を見た事を聞いていた。

まさかと思い、信じようとしなかった。

だが心の片隅で、ずっと引っ掛かっていたのだ。

 

信じたくない、あまりに惨い現実だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。