実弥は斗和を横たえ、鬼と化した佳成と対峙する。
「くそがァ!」
「鬼狩りはこの城で一網打尽にせよ…無惨様の命だ」
虎狼は巨大な薙刀を構えた瞬間。
無数の突き技を展開する。
─土の呼吸 玖ノ型
本来の蚯蚓破裂は、縦に亀裂が走るように斬り裂く技だ。
その速さは雷の呼吸に近く、避ける事は至難の業である。
それを間髪入れず幾度も繰り出した。
乱斬りは、虎狼が編み出した応用技だ。
─風の呼吸 肆ノ型
実弥は、低姿勢から砂塵を巻き上げるように嵐を起こす。
防御にもなる技だが、乱斬りの威力はすさまじくそれを破り刃が実弥に迫る。
「チッ!」
後退した実弥の左手甲から血が流れた。
横たわったままの斗和は、それを見て顔を顰めた。
この後実弥は、黒死牟と対峙する事になる。
それまでに余計な傷を負うのは、絶対に避けなければならない。
無惨との戦いに於いて、一人でも負傷が増えていれば動きが変わる可能性があるからだ。
ここで実弥に、本来戦わなかったはずの動きが入ってしまった。
余計な傷と疲労を増やしてはならないのだ。
(役に立たなきゃ…)
斗和は実弥との共闘の為の稽古を思い出す。
本来であれば、技を合わせたり攻撃の連携の訓練をする。
だが斗和は、自身の動きが追い付かないのを分かっており別の提案をした。
『もし私と共闘となった場合、私は敵の動きを封じます。それを見て頸を斬って下さい』
『封じるってどうやってだァ?』
『土の呼吸には、敵を地面に埋め込む技があります。土砂崩れ…高く跳び上がり、頭上から全体重をかけて大きく刀を振り下ろすんです。一撃ですが威力が非常に強く、まともに喰らうと体は半分地面にめり込み、頭は完全に潰されます』
斗和の提案に、実弥は難色を示した。
自らを犠牲にしようとする斗和に、分かったと頷くなどできはしなかった。
『躱されたらおしまいですから、敢えて足の甲を狙います。私の特殊日輪刀は刃先が鋭角に曲がってるから、深く突き刺せば絶対に動けません。敵が私に一瞬でも気を取られれば隙ができます。だから何があろうと、躊躇なく頸を斬って下さい』
斗和は真剣に実弥を見据えた。
実弥は終ぞ首を縦に振らなかったが、斗和のどんな事をしても役に立とうとする想いは痛い程理解していた。
眼の前で繰り広げられる戦いに、斗和は最後の力を振り絞り立ち上がった。
「ハァハァ…ハァ…」
左手は切断されてしまい、右腕しか使えない。
大量失血と乱れた心臓で、生きているのが不思議なくらいであった。
(刀に全体重を乗せる…)
斗和は大きく息を吸い込み止めた。
そして虎狼に向かって走る。
全身から血が飛び散り、床を赤く染めていく。
「斗和!」
実弥が叫んだ瞬間、斗和は一瞬だけそちらを見て微笑んだ。
それは合図だった。
実弥は目を見開く。
ダンッ!
斗和は高く跳び上がり、右腕で特殊日輪刀を振り下ろす。
体を刀の上に乗せるようにして、虎狼の頭上に迫る。
(まだ動けるのか!)
「死に損ないめ…」
虎狼は薙刀を振りかざすが、斗和はおかまいなしだ。
─土の呼吸 伍ノ型 土砂崩れ!!
ドウン!と音がし、土の呼吸の粒子が辺りを覆う。
(足が!)
虎狼は自らの足が全く動かず、何だ!?と下を見る。
斗和は、自らの日輪刀に覆い被さったまま動かない。
鋭角に曲がった切っ先は、虎狼の左足甲にしっかりと深く突き刺さっており、右足甲も押し潰され足首まで床にめり込んでいた。
(抜けない!何だこれは!?)
虎狼がハッと気付き前を見ると、実弥が眼前に迫る。
─風の呼吸 捌ノ型
まさに烈風だった。
すれ違いざまに大きく斬りつけると、虎狼の頸は胴体から離れた。
その上半身も斬られドサッと床に落ちる。
舞い上がった頸は転がり、自らの足元に目を向ける。
だがそれを塞ぐように、実弥は頸の前にしゃがんだ。
「不死川さん…?何で…俺…ああ…」
虎狼は鬼殺隊士・館坂佳成だった記憶を戻した。
同時に自らが何をされ、何をしてきたのかも思い出す。
実弥が血塗れで横たわる斗和の姿を見せなかったのは、気遣いであった。
虎狼は涙を流し目を閉じる。
ボロボロと消えゆく体と頭を見た実弥は、ゆっくり振り返った。
日輪刀の上にうつ伏せになったまま動かない斗和。
床は一面が血だらけだった。
実弥は立ち上がり、斗和の体をそっと仰向けにする。
「斗和…っ、斗和…うあああっ…」
軽くなったその体を抱き寄せ、実弥は泣いた。
漏れる嗚咽が静かになった空間に響き、実弥の涙は斗和の顔にいくつも落ちる。
実弥は虎狼との戦いで微々たる怪我ですんだ。
斗和は自らの役目を果たした。
前世の記憶を戻してから斗和の人生は、まさに波乱万丈であった。
それでも斗和は何一つ後悔はない。
その顔は穏やかだった。
最期まで強い精神力を持ち、鬼殺隊士として戦った蓬萊斗和。
享年二十一歳。
実弥は斗和に口付けをし、再び戦いへと身を投じて行った。
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