祭りの神、もとい宇髄天元との共同任務から早一ヶ月経過した。
斗和は、相変わらず鍛錬と任務に追われていた。
隊士不足は慢性的だが、最近は立て続けに任務が舞い込み休みがなかった。
任務は基本的に、夕方から深夜を越え夜明け前までだ。
休むのも鍛錬もすべて明るいうちに行う。
斗和には慣れた生活だったが、休みがない為に食材の買い出しや繕い物などができていなかった。
このところの食事が、大分貧相になっていた。
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その日は珍しく単独任務が空振りに終わり、斗和は何事もなく帰宅することができた。
長屋に戻り仮眠を取ると、普段着の野良着に着替えて家を出る。
当然のように手拭いを頭に巻くことも忘れない。
やはりこの格好は落ち着くなあ、と斗和は思った。
斗和は隊服も野良着だが、普段着も野良着だった。
年がら年中野良着で、年頃の娘が着る着物の類は一着も持っていない。
不便だと思ったこともなく過ごしてきた斗和だが、この日だけは野良着姿を悔いることになる。
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久しぶりに時間に余裕があったことで、斗和はいつもと違う商店街まで足を伸ばして買い物をした。
普段とは違う場所。
老若男女で賑わう街並みに、目を輝かせ歩く。
完全なお上りさん状態だったが、女性用の小物屋は物珍しく見ているだけで気分は高揚する。
斗和は食材を始め日用品などを粗方購入すると、腹が減ったのでどこかで甘味でも食べようと探す。
すると、目の前を着物姿の二人組の年頃の娘が横切った。見れば洋風の小洒落た喫茶店へ入って行く。
斗和は興味本位で入口の品書きを見て、わあっと心が躍る。
餡蜜、寒天、お汁粉、団子、ビスケット、カステラ、珈琲、紅茶など女子が好きそうなものばかりだ。
(入ってみようかな…)
斗和がそう思った矢先、後方から声がした。
「あら?あの方、まさか入る気かしら?」
「まあいやだ!あれは野良着じゃない?野良仕事の格好でお店に入ろうなんて汚らしいわ」
「あんなに荷物を抱えて…きっと田舎から出てきたのよ。着る物がないんだわ、ふふっ」
ひそひそと女子特有の陰口に、斗和は顔から火が出そうになった。
慌てて店から足早に離れる。
(そうか、この格好で綺麗な店に入るなんてだめだった。ちゃんと洗濯はしてるけど、他のお客さんにもお店にも迷惑がかかるよね…)
斗和は落ち込んだ。
いつも考え無しで動いてしまい、またやってしまうところだったと反省する。
買った食材がずっしりと重く感じ、ついため息が出る。
斗和は恥ずかしさと自己嫌悪に陥りぼんやり歩いていると、店の外に長椅子がいくつか出ている甘味屋があった。
(ここなら食べられるかな…)
外ならば店に迷惑はかけないだろうと思った。
しかし中に入って注文しなくてはならず、どうしようかと悩む。
斗和は店の入口脇で躊躇っていると、その脇から男が暖簾を分け店内に声を掛けた。
「あのー!みたらし団子二本、外で食べるからお願いしまーす」
その男は注文したあと斗和の方を向き、「注文しないの?」と聞く。
斗和が「え、あ…」ともたついていると、栗羊羹とみたらし団子が美味いと教えてくれる。
「じゃあ栗羊羹を…」と、遠慮がちに言うと注文してくれた。
斗和が礼を言うと、男は前髪をサラッと揺らし座ろうと促す。
長椅子に並んで腰掛けると、斗和は改めて礼をした。
「あー実はさ、さっき君が喫茶店の前にいたのを見かけたんだよね。声掛けようと思ったんだけど、走ってっちゃったから…。あ、いきなり知らない奴から話しかけられたら驚くよな。俺、村田。鬼殺隊にいるんだけど君もだろ?」
(村田、ってあの村田さんだよね!?前髪分けてサラサラだし…すごい、村田さんがいる!)
斗和は感激し凝視していると、注文したみたらし団子と栗羊羹が運ばれてきた。
各々代金を払い、湯気のたつ茶を手に取る。
「あの、私のことを?」
確かに斗和は喫茶店の前にいたが、村田はなぜ声を掛けようとしたのか分からない。
斗和は村田とは初対面だ。
「少し前に音柱と一緒の任務しただろ?その時に俺の同期もいたんだ。そいつから君が鬼を倒したことを聞いて、それで知ってさ。野良着姿で手拭い頭に巻いてる隊士って言ってたから、すぐに分かったよ。家はこの辺なの?」
「自宅はちょっと離れています。今日はたまたまこっちまで来ていて。あ、私は蓬萊斗和と言います。よろしくお願いします」
頭を下げた斗和に対し、村田は不思議そうに見つめる。
斗和は自分の顔の傷のことかと思っていると、村田はどうして敬語なのかと聞いてきた。
そこで年齢を教えると驚き、自分も同じ歳だから敬語は不要だと言われた。
村田も斗和と同い年ということは、冨岡義勇と村田は同期で同い年なのだ。
那田蜘蛛山の任務の時は、まだ二人は同期だと判明してなかった。
そして村田がここにいるということは、錆兎はもういない。
仕方のないことだが、斗和は無力さを痛感する。
義勇は錆兎とそして姉のこともあり、ずっと悔いて、柱になっても一線引いてる。
(冨岡さんはいつ柱になるんだろう?)
「…蓬萊さん、聞いてる?土の呼吸なんでしょ?俺見たことないから興味あるんだけど」
斗和は全く聞いていなかった。
村田は土の呼吸のことを同期に聞いたのだろうか。
「村田さんは水の呼吸ですよね」
「えっ、そうだけど何で知ってるの?」
(しまった!私が知っているはずないのに、どうしよう。ええと、ええと…あ!)
「…髪が…村田さんの髪はとてもサラサラしていて水のようだから、使う呼吸も水かなあと…」
斗和は苦しい言い訳をした。
村田が水の呼吸を使うことは、最後のあたりに判明する。
更に今の時点で面識がなかった斗和が、村田の呼吸の種類を知るはずがないのだ。
村田は意外にも髪のことに食いついてきた。
最近買った椿油がとてもいいので使ってみてと勧められる。
斗和は不審に思われなくてよかったと胸を撫で下ろした。
そのあと二人は他愛もない話しをし、じゃあまたと別れる頃には敬語もなくなっていた。
村田は気さくで話しやすく、斗和が打ち解けるのはあっという間だった。
思わぬところで会ったが、またいつか話しをしたいと思い帰路に着いた。
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村田と会ってから更に一ヶ月以上経った。
暑かった夏も過ぎ、秋も深まった頃に育てていたさつまいもが収穫できるまでになっていた。
今年は任務が毎日のように入り、斗和は殆ど手入れらしいこともできなかった。
だが、気を利かせた畑の貸主が草取りをしてくれたのだ。
おかげで昨年同様なかなかの出来で、斗和はまた煉獄家へ置いてきたのだった。
斗和にとっては三度目の煉獄家だが、やはり緊張した。
千寿郎君が出て来ないか、杏寿郎と遭遇しないかなど思ったがそんなことはなかった。
実際に遭遇したら逃げ出すかもしれないと思うも、いつか会えたらと気持ちが膨らむ。
斗和はさつまいもを食べてくれるように願い、煉獄家を後にした。
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冬になると遠方での任務が増え、斗和は列車に乗り東京近郊の様々な地に赴いていた。
滅多に日帰りできず、長期任務ばかりだった。
全て単独の為時間がかかり、多数の怪我をしたり追い詰められたりと様々あった。
それでもしっかり鬼を倒していき、実力をつけていた。
土の呼吸も玖ノ型まで増え、どの技も定着し戦いも精錬されていった。