葛藤
十六歳になった斗和は、恒例になってきたなと思いながら拳を握る。
甲に浮き出た字は丙だ。
以前は上から六番目の
甲乙丙なので上から三番目、読み方は"へい"だろうかと考える。
(階級・へい…いやおかしいな)
うーんと唸り考えるも分からない。
斗和は、相変わらず階級の読み方を知らないままだった。
最終選別にて耀哉より説明を受けたはずだが、覚えていなかった。
甲乙丙と一番下の
恥ずかしいことこの上ないが、聞くこともできずにいた。
斗和は入隊四年目だ。
土の呼吸も大分磨き上げられていた。
十二歳で岩の呼吸から派生させた後、年月をかけ玖ノ型まで編み出し使用している。
鬼と対峙していると、死が隣り合わせだとつくづく思い知らされていた。
鬼も人間同様に十鬼十色で、その度に血鬼術にかからぬよう注意し戦い方を変え頸を斬る。
あと五年で本格的に物語が始動する。
それまでに強くなれるのか、間に合うのかと、斗和の悩みは尽きない。
時間はいくらあっても足りないのだ。
異次元の強さを誇る柱でさえ、上弦の鬼には簡単に殺される。
そもそも下弦の鬼も相当強いのに、上弦を倒すなど夢に等しい。
だが杏寿郎を救う為には、上弦を倒さなければならない。
退けることさえ高難度だ。
果たして本当にできるのか。
斗和は、全て一人でどうにかできるとは思っていない。
それでも知っている者として、できることをすべきだと決意している。
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早朝の野外鍛錬場、斗和は一人鍬を振るっていた。
普通なら木刀を使うところを、斗和は鍬を使用している。
自らの日輪刀が特殊形状の為に、似ている鍬を鍛錬に使用しているのだった。
共同鍛錬場では常に隊士がいることもあり、さすがに木刀を使用している。
しかし誰もいなければ鍬を使っていた。
昨夜の単独任務はいつになく早く終わった。
民家を何軒か破壊してしまったが、任務自体は成功した。
斗和はこのところ気持ちが急いており、それが任務にも出て無茶苦茶な戦い方をしてしまっていた。
冷静に分析すれば効率いい倒し方はあるのだが、頭で考えずにまずは突進してしまう。
これは昔からの悪い癖だった。
宇髄天元との共同任務で、自分勝手な行動を咎められてからは、一呼吸おいて考え動いていたつもりだった。
しかし、何かあればすぐにがむしゃらな力任せの戦いになる。
入隊し四年も経つのに、新人のような戦い方をしてはいられない。
もし班を率いて任務しろとなればどうするのか。
そもそも強くなるということは、階級も上になるということ。
そうなれば、下の者に指示を出す場合が多々出てくるわけだ。
斗和は、自分が指示を…?と想像しても、全く思い浮かばない。
逆に指示され、間違った判断をし皆を危険に晒すのが関の山だと思った。
斗和は振るっていた鍬を下ろし、深いため息をついた。
それに…と、表情が険しくなる。
精神面の甘さもだが、技が足りない。
玖ノ型まで編み出したが、決定打に欠けるのだ。
鬼が逃れられない絶対的な技がまだ無い。
危機的状況に陥った時や、強力な鬼に対する唯一無二の技を手に入れたいのである。
言うなれば奥義だ。
こうなると、他に土の呼吸を使う者がいないのは心許ない。
斗和は孤独も感じていた。
五大呼吸や派生呼吸は様々あるが、土の呼吸は未だ使用者を見たことがなかったのだ。
斗和は本当は、岩の呼吸を会得したかった。
だが体躯に恵まれ、強靱な肉体でないとできないことが判明し、仕方なく諦めた。
この条件に当て嵌まる女はまずいない。
師である元岩柱・
斗和が土の呼吸を派生させたのは偶然だが、今のところ使用者が自分以外いないので誰かに聞くことができない。
自らで極めるしかないというのは、一筋縄ではいかないのだ。
「煉獄さんはすごい……」
斗和は、思わず独り言が口から出た。
杏寿郎は、やはり尊敬に値する。
三冊の指南書を読み込み、炎の呼吸を奥義まで極めたのだから。
父の槇寿郎が稽古をつけなくなったせいで、杏寿郎はどれだけ大変だったのか。
そういえばと、斗和は思い出す。
槇寿郎に稽古を願う文を書いたが、返事がなかった。
またどこかで会えたら申し込んでみよう、そんなことを思い早二年は経過した。
ともかく、たくさん鍛錬して強くならなくてはと、斗和は鍛錬を再開する。
斗和は、他の隊士が来るまでひとしきり鍛錬をした後、長屋に帰った。
途中、地面が揺れた気がし立ち止まる。
(地震だ!)
斗和の以前の記憶では地震が多かったが、ここではあまりない。
(そういえば関東大震災っていつ?この世界でも起きるのかな?)
ふと揺れる地面を見て、斗和はあることを閃いた。
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「あっ!カブトムシの幼虫だ!わあ大きいな」
斗和は思わず声に出してしまった。
任務に行く途中の山の中、休息をとっていると、土が半分かかった白い物体を見つけた。
田舎にいた時は森でよく見かけた、カブトムシの幼虫である。
弟妹たちと成虫になるまで育てたりしたなあと、懐かしむ。
斗和は虫に耐性があった。
田舎育ちで農作業の毎日、あらゆる虫がいるのですっかり慣れている。
普通の女子は大抵嫌だろうから、斗和は自分はおかしいかもしれないなと思っていた。
昔のように育ててみようかと考えるが、畑と任務と鍛錬で手一杯だ。
無理だなと思い、諦め立ち上がった。
その数刻後。
斗和の発見した幼虫を、同じく見つけた男がいた。
「おーでけェなァ…」
白い髪の男は、腰の手拭いを広げ土ごとそっと幼虫を置いた。
落ちないよう優しく丁寧に包むと、それを持ち颯爽と駆けて行った。