鬼は日中活動できず、人目を避けて山に潜んでいる印象が強い。
だがその実、町中に堂々潜んでいたりもする。
そのため任務は町中でというのも多かった。
斗和は山を走り抜けるのが得意なので、足場が悪かろうが遠方であろうが苦にならない。
むしろ、周囲を気にせず戦える環境の方がいいと思っていた。
生憎この日は町中での任務で、出会い茶屋に鬼が頻繁に出るということだった。
出会い茶屋といえば、所謂男女が逢い引きし関係を持つ場所である。
必ず男女がいるはずなのに、被害に遭うのは女ばかりだというから不思議だ。
そんなわけで斗和は一人、蕎麦屋の二階にある出会い茶屋に潜んでいる。
行灯がぼんやりと照らす部屋を、押し入れからこっそり伺う。
潜んでいる斗和以外部屋に誰もいないのに、果たして鬼は来るだろうか。
(それにしてもどうして女だけ狙うのかな?)
女に恨みがあるとすれば、鬼は男の可能性が高い。
それか、同性が妬ましい気持ちが強いならば、鬼は女だ。
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夜もとうに更けた頃、鬼が現れた。
その鬼は女だった。
自分の容姿が醜いのを認めたくなくて、容姿のいい女たちを殺して食っていたのだ。
今まで殺した女たちがどんな容姿かは知らない。
単純に睦み合う男女が妬ましかったのではないかと、斗和は思った。
当の女鬼の容姿は、言うなればおたふくだった。
斗和はその鬼に
左頰から耳まではしる、横一文字の傷を見てのことだろう。
醜女と呼ばれ、斗和は少なからず落ち込むも慣れてはいた。
"私の顔はとても醜い"
斗和は、傷を負ってからそう思っていた。
人前に晒していい顔ではないことも、女としてあり得ない傷だということも全て分かっている。
鬼は自分より醜い女だと判断し、上機嫌になり襲ってきた。
結局、女は必ず殺すのは分かりきっていたので、斗和も応戦した。
まるで平安時代の女のように髪が異様に長い鬼だったが、その長い髪こそが血鬼術だった。
髪全てが毒針で自在に操る為、斗和は喰らわぬよう防戦一方となった。
行灯を倒した際に手のひらに火傷を負い、右足首を強く捻ってしまう。
それでも毒針を一本も喰らわず倒せたので、斗和は安堵した。
◇
自宅に火傷の薬がなかったのを思い出し、斗和は藤の家に寄ろうとした。
だが、鴉の令和が案内したのはかの有名な蝶屋敷だった。
蝶屋敷は蟲柱・胡蝶しのぶの屋敷で、隊士の治療や機能回復訓練をしている場所だ。
物語内での主はしのぶだったが、今は姉のカナエが主だと思われる。
カナエは十七歳か十八歳で亡くなる。
助けられないのに会うのは、斗和にとって心苦しかった。
怪我は大したことはないので寄らずに帰ろうと、斗和は踵を返す。
ところが角を曲がった時、誰かにぶつかった。
「わっ!」
右足首を庇うように、塀伝いに歩いていたのが悪かった。
ぶつかった人物は斗和より遥かに小柄で、髪に大きな蝶の飾りをしていた。
斗和は驚き、言葉が出ない。
「すみません、大丈夫ですか?」
斗和が知っている姿よりかなり幼い、胡蝶しのぶである。
「あ、はい、大丈夫です!こちらこそ前方不注意ですみませんでした」
斗和は顔の前でブンブン手を振り、詫びる。
こんな偶然があるのかと思いながら、すぐに去るつもりだった。
だが足を庇っていたのを見つけられ、手当てをして行くよう進言された。
斗和は丁重に断った。
しかし斗和の手の火傷にも気付いたしのぶは、半ば強引に屋敷に連れて行った。
◇
昔の病院はこのような感じなのかと、斗和はそこかしこを見回す。
しのぶは、診療室と書いた部屋に斗和を案内した。
大正時代では違和感はないが、先の時代を生きてきた斗和にとって、殆ど見なくなった物ばかりだ。
木の机や椅子、全てが珍しく目移りしてしまう。
すると、しのぶはクスッと笑い口を開いた。
「そんなに珍しいですか?」
斗和は素直に頷くと、しのぶは「蝶屋敷は初めてなんですね」と微笑む。
しのぶはまだ十三歳の少女だが、斗和は美しいその顔に見惚れてしまう。
しのぶの手は、野良仕事ばかりの斗和とは正反対で白かった。
斗和は、手当てを受けながらぼんやりと見る。
しのぶはこの先、小さな体に毒を取り入れる。
そうせざるを得ない事件が起きるからだが、そこまでできる精神の強さに斗和は感服していた。
だがやはりしのぶの最期を知る斗和の目には、痛々しく映った。
(こんなに綺麗な姉妹が鬼殺隊にいることが不釣り合いだよ…)
斗和はふと、先程倒した鬼から
元から醜いのもあるのだろうと思った。
この物語に出てく人物は殆どが見目麗しい。
斗和の顔の傷は余計に際立つ。
捻った右足首をきつく縛られ、しばらくは気を付けるように言われた。
火傷用の軟骨も貰い、斗和は蝶屋敷を後にした。
カナエは不在で、彼女は柱に就任しこの時は本部・産屋敷邸に赴いていた。
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出会い茶屋での任務から五日後。
斗和は隣県・埼玉東部での任務の為、列車で移動していた。
埼玉の東根山には元岩柱の師がいる。
斗和は隊に入ってから一度も帰っていないので、元気にしているかなと思いを馳せた。
近くならば帰りに寄ることもできるが、東根山は西部にあるので今回の任務地とはかなり離れている。
斗和は昨年あたりからかなり忙しくなり、ろくに文も書いていなかった。
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しばらくして目的地近くの駅に降り立つと、後ろから声を掛けられる。
そこにいたのは、村田だった。
「わ!村田さん!どうしてここに?」
「聞いてないの?これから俺と蓬萊さんと、あともう一人とで任務だよ。もう一人は別任務から直行するらしい」
村田の言ったことは初耳で、斗和は訝しむ。
共同任務の時は、文に【他二名と】などと明確に記載してくる。
だが今回は何も書いておらず、単独任務だとばかり思っていたのだ。
斗和は、嫌だな…という気持ちを全面に出した。
それを見た村田がぼやく。
「ちょっと、なんで嫌そうな顔するんだよ?俺と任務するの嫌なのかよー!」
慌てて否定するも、村田は恨めしそうに斗和を見ている。
まずいと思い、咄嗟に飯は食べてきたか話しを逸らす。
村田は食べ損ねたらしく、斗和は持参していた握り飯をあげた。
「これ、二個余ってるからよかったら食べて。私はもう食べてきたから」
「いいの!?ありがとう!」
歩きながら一口食べた村田は「おいしい!めちゃくちゃおいしい!」と、嬉しそうに食べる。
斗和は、村田が空腹だからそう感じるのだと思った。
あっという間に二個食べきった村田は、今度斗和の作った飯を食べたいと言ってきた。
私の作ったものを?と斗和がまたもや怪訝な顔をすると、村田は顔を顰める。
「ほらまた!なんでそんなに嫌そうにするの。俺、嫌われてるのかよ?」
うじうじといじけてしまう。
斗和は違う違うと否定し、じゃあ今度食べにきてねと社交辞令を述べ任務に向かった。