※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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呼び出し

「わあっ!」

 

朝日を浴びた雨上がりの畑に、斗和の驚いた声が響く。

 

任務上がりに緑一面の畑で草を取っていると、蛇がとぐろを巻き居座っていた。

その声に蛇はどこかへ行ってしまったが、虫には慣れている斗和もさすがに驚く。

朝から心臓に悪いなと思いながら、ひたすらに草取りを続ける。

草は抜いても抜いても生えてくるので、追いつかない。

 

斗和はこの数ヶ月、任務が一晩でいくつもありかなり忙しかった。

以前は、一晩のうちに立て続けに入ることはなかった。

まだまだ余裕があったのだ。

近頃は鬼も強いのばかりで血鬼術にかかることもあれば、単純な怪我も多々あり正直かなり体がきつかった。

 

とにかく体調管理だけは怠らないよう、斗和はしっかり食べしっかり眠り鍛錬をこなした。

そうすると、一日はあっという間に終わる。

とてもじゃないが畑にまで手がまわらなかった。

 

「すごいな、これ…」

 

斗和は畑を見回した。

どこが草で、どこがさつまいもなのか分からないくらいだ。

任務をこなしながら畑で作物を育てるという考えは、甘かったのだろうか。

斗和はため息が漏れる。

 

だが、煉獄家にさつまいもを届けたいという思いは変わらない。

どうにかこうにか時間を見つけ、斗和は畑作業をしていたのだった。

 

ふと、短時間で一気に草を抜く方法はないものかと考える。

 

(抜くよりも何か……)

 

そこまで考えて何かを閃いた斗和は、鍬を引っ掴みどこかへ走って行った。

 

 

草取りをしていたはずの斗和だったが、この日新たな土の呼吸の型を編み出したのだった。

 

 

 

 

息つく間もない連続任務の最中、元・下弦ノ肆だという鬼を倒し斗和は長屋に戻った。

 

疲れて、いつもより長く眠ってしまう。

 

 

 

しばらくして目覚めると、鴉の令和が文を携えていた。

その隣には隠が一人いる。

お迎えに上がりましたと頭を下げてくるので、斗和もつられて頭を下げる。

 

(お迎えって…?)

 

疑問に思いつつ文を開けてみると、そこに書かれていた内容に驚愕し、しばらく微動だにできなかった。

 

その文は産屋敷耀哉からで、目覚め次第本部に来るようにと書かれていた。

 

斗和はついにこの日が来たと思った。

 

(単独任務を願い出た罰を受ける日が来た…!もしかしたら、炭治郎君みたいに裁判にかけられるのかも…)

 

手に持った文を握り締める。

なんといっても、斗和は様々やりすぎていた。

 

隊服を特注する。

日輪刀を特注する。

任務について我儘を言う。

 

特に任務の我儘は、自分でもそれはどうかと思っていた。

 

(どうしよう、柱合裁判となったら打首!?いやさすがにそれはないかな…なら島流し?)

 

斗和は島流しなどと、昔の刑罰を想像した。

 

それから心ここにあらずで正規隊服に着替える。

手拭いも頭から取り、髪を団子結びにし日輪刀を背負う。

 

その後は隠に背負われ、本部・産屋敷邸へと向かった。

 

 

 

 

───────

──────

目隠しを外され辿り着いたそこは、広大な敷地の立派な屋敷だった。

 

ここが産屋敷邸か!と、斗和は足が震えながらも一歩ずつ中に進み、隠の後に続く。

 

この辺りで待つようにと言われた場所は、斗和が物語で見た柱合会議が開かれたところだった。

九人の柱が並んで膝をついている姿が、斗和の脳内に蘇る。

 

跪き頭を下げて耀哉を待つ間、緊張で動悸がし吐きそうになる。

 

すると「お館様のお成りにございます」と女の声がした。

斗和はいよいよ動悸も激しくなると、正座に切り替え地面に額を擦りつけた。

玉砂利が額にぴたりとくっついた直後、頭上から穏やかな声が聞こえた。

 

「それだと話し難いから、頭を上げてくれるかな?」

 

冷や汗をだらだらかきながら恐る恐る頭を上げると、そこには三年前に最終選別で見た産屋敷耀哉がいた。

 

あ、とあからさまに自分の表情が曇るのが分かり、斗和は慌てて下を向いた。

数年前よりも額に病が濃く出ているのだ。

 

(そんな……)

 

耀哉は斗和の曇った表情は意に介さず、至極穏やかな声色でゆっくり話し始めた。

 

「突然呼び出してすまなかったね。日々の任務お疲れ様。大分慣れたようだけど、斗和はやっぱり単独任務がいいのかな?」

 

(やっぱりそれですか!)

 

「その節は大変なご無礼を致しまして、申し訳ございません。図々しくも単独任務の要望、隊士としてあるまじき行為でした。お詫びのしようがございません。これまでお館様のご厚意により任務をこなせて参りました。心より感謝申し上げます。ありがとうございます。これからはどのような任務でも、しっかりと務め上げる所存です」

 

斗和は再び手をついて頭を下げる。

 

連れて来られる間、ずっと考えていた謝罪と感謝の言葉だ。

これまで単独任務を希望し、これからもそうしたいのは山々だ。

だが、さすがにこの状況では無理だ。

 

「そうだね。斗和はこれから上に立ち指示をすることも増えるだろうから、そう言ってくれて助かるよ」

 

(上に立って指示…?)

 

斗和は引っ掛かるも、耀哉の言葉は続く。

 

「さて呼び出した件だけど、斗和はこれまで鬼を五十体以上倒している。だから今回、柱への昇格をと思ってね」

 

(え…柱?柱への昇格?何でいきなりそんな話しに?)

 

斗和は疑問符ばかりが浮かぶ。

 

(柱の条件は確か階級が一番上で、鬼を五十体以上倒すか、十二鬼月を倒すことだったはず…)

 

斗和は、いつの間に鬼を五十体以上倒していたのか。

本人は全く分かっていない。

 

(でも、私はまだ上から三番目の階級なのに、おかしいな?)

 

斗和は、甲乙丙の階級の読み方を未だ分かっていない。

なので一番上や三番目といった表現をしている。

 

「あの、ですが私の階級はまだ一番上ではなく、三番目ではないでしょうか?」

 

「じゃあ拳を出してみて」

 

斗和は、はあ…と言われるがまま右拳に力を入れる。

その手の甲を見れば、【甲】の文字が浮かび上がった。

 

「!?」

 

「これでわかったかな?斗和の階級は甲(きのえ)だよ。そういうわけだから条件を満たしているし、柱にも空席があるんだ。引き受けて欲しい」

 

穏やかだが有無を言わさない耀哉の言葉に、斗和はまたもや動悸がし始める。

 

正直逃げ出したいと思った。

いつの間にか甲(きのえ)に上がっていたのも知らず、鬼を五十体倒していたのも気付かなかったのだ。

それをいきなり柱になれというのは、到底無理な話しであった。

 

斗和は心構えも全くできていない。

何より斗和は、自分は柱になるべき人間ではないと以前から思っていた。

 

「大変恐縮ではございますが、私はまだ未熟者です。どうかご容赦願います」

 

斗和は三度(みたび)手をつき、深く頭を下げる。

 

「どうしても引き受ける気はないの?困ったね…」

 

耀哉を困らせていると分かっても、譲れなかった。

斗和はまだ実力不足だと思っている上、今後どうなるか分からない状況で柱にはなれないと思った。

しかし、真っ向から断ったことに罪悪感が湧き上がる。

 

(どうしよう、柱にはならないけど何か…そうだ!柱の仕事を一部引き受けたらどうかな?)

 

「あ、あの…少しでもお役に立てるのであれば、柱の担う警備などを引き受けます。上に立つようなことはまだできませんが、柱の方々の負担を軽減できるのであれば協力します」

 

斗和の提案に、耀哉は少し考えたあと「じゃあ警備区域を宛がうからお願いするよ」と微笑んだ。

 

これで柱は免れたと安堵した矢先だ。

 

「それと、新しい住まいは他の柱同様の道場付きの屋敷でいいかな?」

 

(新しい住まい!?)

 

斗和は思わず耀哉を凝視する。

 

(私なんぞに屋敷を与えるなんて、とんでもない!それじゃ柱と変わりないよ!)

 

「いえ、私は今の住まいで十分です」

 

「斗和は本当に欲がないね。せっかくだから一軒家をあげたいんだけど、何か要望はないの?」

 

優しすぎる…と、斗和は感激するもどうしたらよいのか。

その言葉だけで十分なのだが、せっかくの厚意である。

あまり断るのも気が引けたので、ならばと斗和は口を開いた。

 

「では…敷地内に畑のある、小さめの一軒家をお願いできますか?」

 

「心得たよ。準備が整い次第連絡するから、引っ越してね。そういえば斗和は畑を作っているらしいね。出来はどうなの?」

 

「え、はい。そうですね…あまり手はかけられませんが、まずまずの出来です」

 

「そう。じゃあ今度お裾分けしてね。楽しみにしているよ」

 

耀哉はそう言うと立ち上がり、屋敷内に戻って行った。

 

(あのお館様が私の作ったさつまいもを楽しみにしているなんて…!どこまでも尊敬できる方!)

 

斗和はしばらく感激し、今のやりとりを噛み締めていた。

 

 

 

 

◇

産屋敷邸を後にし長屋に戻った斗和は、炊事場に立て掛けていた鍬が目に入ったとたん青ざめる。

 

(あーそうだ!新しい家を貰うことになって、畑付きをお願いしたんだった!)

 

斗和はすっかり頭から抜けていたことがある。

畑のことだ。

今でも手入れができていないのに、畑を所望して両立できるわけがなかった。

 

しかも、これから柱の担当する警備区域も受け持ち、更に忙しくなるというのにどう考えても無理である。

斗和は頭を抱えた。

 

畑付きを所望し、手付かずなどあってはならない。

今後は畑を管理する人間が必要だ。

 

(誰かに頼まなきゃ。どうしよう…)

 

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