柱への打診を断り、一軒家の手配をして貰い早一週間。
布団などを積んだ荷車を押す、斗和の姿があった。
前を引いているのは隠で、後ろから押しているのが斗和である。
更ににもう一人、荷物を背負った隠も同行している。
大して量も多くなく荷車で一度運べばすむが、新居が遠いので時間がかかっていた。
まず始めに手伝いに来た隠二人は、荷物を背負い、更に荷車を引こうとする斗和を止めることから始まった。
斗和は柱の打診を受けるだけあり、任務明けの疲れを感じさせていない。
そこまではいい。
だが二人も手伝いが来ているのに、全て己で運ぼうとするのには驚くしかなかった。
「二人とも疲れたら荷車に乗って下さい。私が引きますから!」
更には道中こんなことを言うものだから、冗談なのか本気なのか分からず苦笑いするしかない。
荷物の中には
とても鬼を狩る者の持ち物とは思えなかった。
引っ越し先も畑付きの一軒家なので、鬼狩りというよりまるで農婦である。
本当にこの人は柱の強さを持つ隊士なのか。
農婦にしか見えない…と、二人の隠は思った。
この引っ越しを機に、斗和は
【柱への昇格を断った野良着姿の隊士】
そう隊内で噂されていくこととなる。
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やっとのことで新居に着くと、斗和は感動に目を輝かせる。
簡素な生け垣に囲まれ、中にはこじんまりとした家屋に鍛錬できる庭と道場があった。
そして広い畑がある。
敷地内を跳び上がる勢いで見て廻る斗和を尻目に、隠二人は荷車から荷物を運び込む。
玄関、台所、風呂、厠、居間、客間、寝室のごく普通の間取りの家である。
だが、他の柱の屋敷より遥かに小さい。
それになぜ家より畑の方が広いのだろう、と隠らは不思議に思う。
家が畑のおまけになってしまっている。
耀哉は斗和の希望を叶えた上に、家より畑を広く作ってくれたのだった。
もちろん隠二人はそんなことは知らない。
多くない荷物を運び終えた二人は、いつの間にか茶を用意していた斗和に促され、縁側でしばし休息する。
これもどうぞ、と出されたお茶請けの糠漬けが絶品で箸が止まらない。
しばし歓談したのち、斗和が実は…と神妙な顔つきになる。
畑を管理してくれる人を探しているが、誰かいないかとのことだ。
隠の一人がもしかしたらと思い、藤の家の住人ならば引き受けてくれるかもしれないと答えた。
「あー!なるほど、藤の家ですか。思い付きませんでした」
斗和は、目を輝かせる。
そして隠二人は、帰りに糠漬けと梅干しを土産に貰った。
やはり斗和は農婦なんじゃないか?という疑惑は捨てられなかった。
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斗和は引っ越しの片付けが終わると、任務明けに片っ端から藤の家へ行った。
畑の管理をしてくれる者はいないか、とにかく聞き回った。
それが四年前に、鬼殺隊に入ろうと聞き回っていた頃を思い出させた。
東京に向かう道中で藤の家を探しては訪ねたな、懐かしいと思いを馳せる。
今回は急いでいるわけではないので、その日に行ける範囲内を訪ねていた。
そう易々と見つかるとも思えず、気長にと考えていたが、案外早く見つかった。
斗和の新居からさほど離れていない場所にある、割と大きな藤の家の奉公人である。
事情を説明すると、二つ返事で引き受けた家主に斗和は驚く。
女中ならまだしも、畑仕事をさせるのに即答でいいのだろうかと思う。
すぐに連れて来られた奉公人の娘は手をついて挨拶をすると、人懐こい笑みを浮かべた。
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新居までの道中互いの話しをするうち、二人はすぐに打ち解けた。
その娘・
着物姿で笑顔を絶やさない、可愛らしい娘である。
背丈も斗和より低く、口に紅も塗っていた。
かたや背は高く、筋肉質で化粧もしたことがない自分とはまったく違うなと斗和は思う。
夏世は三年前から藤の家で奉公しており、実家は東北の農家だと言う。
どのあたりかと聞くと、斗和の出身地と隣県だった。
とたん親近感を覚えた二人は、あれよあれよという間に"斗和ちゃん"、"夏世ちゃん"と呼び合うまでになった。
道すがら好奇の目ばかり向けられたが、それもそのはず。
出身地が隣県だと分かってから、二人は会話が全て訛りと方言になっていたからである。
東京では聞き慣れない言葉だ。
ましてや十代の娘が喋るそれは、まるで異国の言語であった。