※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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胡蝶カナエ

斗和は痛む脇腹を押さえ、ゆっくり歩いていた。

かなり痛くて先程から脂汗が止まらない。

先を行く鴉の令和が戻って来るのが見えた。

 

(わざとゆっくり歩いているの、気付いたか…)

 

令和が案内する先にあるのは蝶屋敷だった。

斗和は柱への打診を受けてから、任務の内容が以前より格段に上がっていた。

前よりも血鬼術を受けたり、怪我をすることが増えた。

 

この先更に強い鬼やまた十二鬼月と対峙した場合、しかるべき手当てをせずにいるのはよくない。

それは斗和も分かっている。

 

藤の家でも医者を呼んだり、家の者が手当てはしてくれる。

だが血鬼術が絡んでいる場合は、やはり蝶屋敷へ行き処置して貰うのが一番いい。

 

以前一度だけ行ったことがあるそこは、この時代にすれば立派な病院なのだ。

 

だが斗和は、あれ以来足が遠のいている。

 

いずれ亡くなる胡蝶カナエに会いたくなかったのだ。

カナエを襲う上弦ノ弐・童磨を、今の時点で倒すことは不可能だった。

だからといって、回避できるよう四六時中張り付いているわけにもいかない。

そして張り付いている最中に遭遇しても、結局倒せはしない。

知っているのに助けられないのは、悔しくもどかしく非常につらい。

何も知らないカナエと対面するなど、斗和には耐えられないのだ。

 

(痛い、けど……行きたくない)

 

逃げてばかりではだめだと分かっているが、それでも斗和は嫌だった。

やっぱり…と踵を返し藤の家へ行こうとしたが、令和がそれを遮る。

 

「早ク蝶屋敷へ行ケ!」

 

目の前でバサバサと羽音を立て、まるで威嚇しているようだ。

令和にしては珍しいことだった。

普段は任務の伝令以外は喋らないのだから。

 

本当は歩くのもつらく感じていた斗和は、ため息が出た。

令和は、斗和が蝶屋敷に行くまでここを動かないと見た。

 

(観念するしかないか…)

 

「分かった。蝶屋敷へ行くから」

 

痛みのせいか吐き気までしていた斗和は、蝶屋敷まで辿り着くのもやっとだった。

 

重い体を引き摺り屋敷内に入ると、段差に足を引っかけ盛大に転ぶ。

斗和はまさか転ぶとは思わず、床に突っ伏した格好のまま呆然とした。

受け身も取らずにすっ転ぶ隊士は稀である。

 

ものすごい音がしたせいか、人が来て「大丈夫ですか?」と斗和に手を差し伸べる。

「大丈夫です」と慌てて起き上がると、斗和の目の前に胡蝶カナエがいた。

 

綺麗な顔を彩る美しく長い髪、蝶の髪飾りと花の香り。

この世にこんなに綺麗な人がいるのだと、斗和はしばし見惚れてしまう。

 

「あなた顔色が悪いわ!どこか怪我をしているのでは?」

 

「あ、あの脇腹が…」

 

「歩けますか?処置しますのでこちらへどうぞ」

 

そう言い支えるカナエを見て、斗和は不思議な気持ちになる。

 

(いい香りがするな…私、きっと汗臭いし土臭いよね。転んだところも見られちゃったし、恥ずかしい)

 

促されるまま診療台に仰向けになり、脇腹を見せると、カナエは押すようにし患部を確認する。

斗和は処置している間ぼんやりとしていると、起き上がり水を飲むよう言われた。

脱水症状もあるから別室で休んで行くよう言われ、渋々頷き移動する。

 

斗和は本当はすぐ帰りたかったが、まだ吐き気がするので無理せず横になることにした。

 

四つある寝台は全て空いており、その一つに横になる。

付き添っていたカナエが、布団を掛けながらあの…と口を開く。

 

「勘違いだったらごめんなさい。あなたは初めてお見かけするけど、ここに来たことは?」

 

「はい。以前、一度だけお世話になりました。あなたと同じ、蝶の髪飾りをした方に手当てをしていただきました」

 

斗和は前回、しのぶと自己紹介をしていなかった。

迂闊に名前を出すのはよくないと思ったが、果たしてこれでよかっただろうかと今更ながら気になる。

 

「ああ、それは私の妹のしのぶね。私は胡蝶カナエ。この蝶屋敷の主で、鬼殺隊では花柱をつとめています。よろしくお願いしますね」

 

「すみません!柱の方とはつゆ知らず、ご無礼を致しました。私は蓬萊斗和と申します。こちらこそよろしくお願いします」

 

(そうだ!カナエさんは柱なんだ。今何歳なんだろう?亡くなるのは確か十七歳か十八歳か。そのあたりがよく分からない)

 

斗和は聞くに聞けず黙り込む。

 

「ではゆっくり休んで下さいね」

 

カナエは女神のような微笑みで部屋を出て行った。

 

寝台に横になり様々考える。

斗和は、カナエに関して知っていることは少ない。

姉妹で岩柱の悲鳴嶼行冥に助けられ鬼殺隊に入る。

蝶屋敷の主となり、花柱になり上弦ノ弐・童磨に殺される。 

 

他には何かなかったかと斗和は首を傾げた。

 

(そういえば不死川さんの手当てもしていたよね。そのあと粂野さんと不死川さんは下弦と……)

 

そこまで考えた斗和は、下唇を噛む。

 

匡近が死んだ後、実弥は柱になり耀哉に怒りをぶつける。

その時、カナエはいたし義勇もいた気がする。

 

大分後になり、杏寿郎が槇寿郎の代わりに参加した柱合会議にいたのはしのぶだ。

 

斗和は脳内を整理する。

まずカナエが生存中に義勇が水柱になる。

そのあと実弥が風柱になり、そしてカナエが亡くなる。

 

だがこれがいつのことなのか分からず、見当もつかないのだ。

 

(だめだ、考えれば考えるだけ落ち込む……とりあえず眠ろう)

 

斗和は何度も深呼吸をし、しばし眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まただ……)

 

斗和は何度目になるか、不思議な夢を見た。

独特の薄暗い灯り、人ごみ、皆が手に持つ冊子のようなもの。

 

頭痛がして切り替わる画面。

 

机の上の白い紙。

何が書いてあるのか、ぼやけてよく見えない。

男のため息と、斗和を見る冷たい目。

 

 

 

(嫌だ、あの目は嫌だ……)

 

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