近頃隊服がきつくなってきたなと、斗和は野良着隊服に袖を通しながら思う。
間もなく十七歳になろうかという時のことであった。
隊服は年に一、二度新しく支給されるが、この一年で身体が大分成長した感じがした。
斗和は少し前、初めて着物と化粧品を買いに町へ出た。
その際に採寸したら、身丈が百六十八センチメートルになっていた。
この時代の女にしてはかなり高いので、着物を合わせる時も裾が気になった。
この歳までまともな着物一つ持っていないのを恥じ、意を決して外出用の着物を買うことにしたのだった。
畑管理をする夏世にもついて来て貰い、斗和は浅緑の着物一式と化粧品も購入した。
使う機会があるか分からないが、女なんだからと夏世に言われ渋々買った。
だが買っただけだ。
左頰の斬り裂かれた傷は、白粉で全ては隠せない。
紅を引いたところで、醜いのは変わりないと思っていた。
故に斗和は、買ったそれらを身に着けることはないままである。
(やっぱり毎日着る隊服がきついのはだめだな)
斗和は、縫製係の前田に新しい隊服を頼むべく文を書いた。
すると間もなく、隠の縫製係である前田まさおが斗和の屋敷に来た。
相変わらず年齢不詳だなと、斗和は眼鏡の奥をじっと見つめる。
「蓬萊さん!この日が来るのを首を長くして待っていました。さあ測りますから腕を上げて下さい」
前田はなぜか、かなり嬉しそうに採寸していく。
野良着風の隊服は相当手間が掛かるはずだ。
それを楽しみにしているなど、変わった男である。
(さすが縫製柱。一味違う)
うんうんと納得している斗和に、前田は嬉々として告げる。
「新たな隊服も時間をいただきますが、これまでよりは早く仕上がるでしょう。できましたらすぐにお持ちします。では!」
前田は即座に去って行った。
これまでより早く仕上げられるということは、更に腕が上がったということだ。
素晴らしいな、と斗和は頷いた。
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間もなく一週間が経つという頃、前田が隊服を持って訪れた。
(本当に早い!すごい!)
目の下に酷い隈を作った前田は、満面の笑みで斗和に隊服を渡してきた。
すぐに着て欲しいと言われ、斗和は着替えた。
そして盛大に驚く。
今度の隊服は、胸元が大きく開いて谷間がしっかり見えていたのだ。
(何これ!胸がまるで甘露寺蜜璃さんみたいになってますよ!?こんなの着ていたら風邪を引くじゃないの!前田さんめー!)
斗和は姿見の前で憤慨する。
頼んだ隊服と全然違うのはどういうことなのか。
(こんな醜い女の谷間なんか誰も見たくないでしょ!しかもこれ、このあわせの部分はどうなってるの?技術は素晴らしいけど、だめ!)
斗和はまさかと思い一般隊服も着てみれば、それも同じだった。
しかもこちらは本当に甘露寺蜜璃のあの隊服と同じだ。
足も丸出しである。
斗和は無表情になり、元の野良着隊服を着て出て行く。
「前田さん、これ…」
「ああどうですか!蓬萊さんによく似合うと思って徹夜して作り上げま……!え、あの……」
出された茶を啜りながら斗和を見た前田は、言葉が続かなかった。
恐ろしい程に無表情の斗和は、隊服は以前のままだ。
「……私、前田さんに初めて野良着隊服を作っていただいた時、本当に感動したんです。入隊したばかりの小娘の我儘を聞いて、時間をかけて丁寧に作ってくれて。着る人のことをちゃんと考えてくれてるんだなって……。それがとても嬉しかったんです。出来上がった服は動きやすくて素晴らしくて…」
斗和はそこで一旦切ると、ガバッと勢いよく顔を上げた。
「なのにどうしてこうなったんですか!?前田さんは縫製柱なんですよ!?着る人の、それを見た人の気持ちを考えなくなったらお終いですよ!」
興奮し、斗和はどんどん声が大きくなる。
圧倒された前田が後ずさり口を開く。
「そ、それを見た人の気持ちというのは……あの、縫製柱とは……?」
「いいですか!このような胸が空いた服は、それを見せられる方しか着てはいけないんです。私のように醜い貧相な体の女が着たら、見た人が気分を害するでしょう!?それに間違いなく風邪を引きます。……もしかして、手間のかかる隊服を頼む私を懲らしめようとしているんですか?それについては謝ります。ですが!何度も言いますが前田さんは縫製柱なんですから、着た人が満足する服をどうかお願いします!」
「…………」
斗和の剣幕に前田が何も言えないでいると、畑にいた夏世が何事かと走ってきた。
普段大声を出すことのない斗和に、只らぬ雰囲気を察知する。
「残念です。前田さんは今日で柱も引退ですね……」
俯きぼそりと呟いた斗和は、持ってきた二着の隊服を恭しく前田に返却した。
「わ、分かりました!ちゃんと以前と同じ物を作りますから!」
前田はそう言って、返された隊服を引っ掴んで去って行った。
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それからわずか五日後。
更に目の下の隈を濃くした前田は、新しい隊服を持参し斗和に謝罪した。
隊服に挟まっていた文には丁寧な謝罪と【貴女は充分に美しいです。自信を持って下さい】と書かれてあった。
それに対し【眼鏡の度が合っていないようなので、早く交換したほうがいいですよ】と返事をした斗和だった。
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※縫製柱
隠の縫製係・前田まさおのこと。
以前斗和が、彼に野良着隊服を作って貰い、その技術に感動し勝手にこう呼んでいる。