※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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もどかしい気持ち

神社で鬼を倒した後、当初の共同任務へと向かった斗和だったが、一抹の不安があった。

祝詞(のりと)を聞くと、攻撃が無効になる血鬼術にかかったままの可能性があるのだ。

 

「令和!待ってけろ!ちょっくら確認すっがら(令和!待ってちょうだい!ちょっと確認するから)」

 

斗和は走るのを止め、日輪刀に手を掛けた。

 

 

─土の呼吸 壱ノ型 土龍爪(どりゅうそう)

 

 

ズバッという音がし、斬撃が木を斬り裂いたので呼吸は問題なく使える。

しかしこれが鬼に対してはどうなのか。

やはり対峙しないと分からない。

 

 

 

 

 

──────

─────

結局、共同任務では問題なく鬼を倒すことができた。

もう一人の隊士も、大きな怪我もなく任務を終えた。

斗和は心底安堵し、お互いに労い帰路に着く。

 

その後怪我をしていた左腕を治療するために、近くの藤の家を訪ねた。

毎度のことだが、左頰の大きな傷を見ると皆ギョッと目を見開く。

斗和は、醜いものを見せて申し訳ないと思っている。

世話になっている間は何でもやるからと、常に手伝いを申し出ていた。

そんなことはさせられないと言う家の者を押し切るのも、毎度のことだ。

 

 

今回も手当てをしてもらい薪割りをしていると、縁側で家の者と隊士の話し声が聞こえてきた。

 

素早く左右を見渡した斗和は、ついつい聞き耳を立ててしまう。

 

「何て言うかこう、静かな剣技で文字通り流れるようにあっという間に斬ってさ」

 

「へえ。それでその新しい水柱様はどんな方なんですか?」

 

「長髪ですごい美男子だけど、口数が少なくてなんか暗い人だよ」

 

そこまで聞いた斗和は、あの…と話しに割って入った。

驚いた隊士に、半ば強引に聞いたその名前は冨岡義勇。

義勇が水柱に就任したということは、次に柱になるのは実弥である。

実弥が柱になる、つまり兄弟子の粂野匡近が死ぬことを意味する。

二人は共同任務に当たり、下弦ノ壱と対峙する。

それがいつなのか、斗和には分からない。

もしこの任務を匡近でなく斗和が行けば、死は回避できる。

 

(お館様に文を出そうかな?)

 

斗和は文を出そうと考えるも、何と書いていいか悩む。

 

 

粂野匡近を共同任務に行かせないで欲しい。

不死川実弥と蓬萊斗和で共同任務を所望する。

 

 

そのどちらかしかないが、どちらもおかしい。

そのような文を出したならば、斗和はいよいよ鬼殺隊を辞めさせられてしまう。

 

どうするのが最善なのか、斗和はひたすら考える。

 

最も良い案は、匡近に直接会い、共同任務が舞い込んできたら代わって貰うしかないと思った。

それには共同任務と共同鍛錬場、この二つから匡近の情報を得る他ない。

あとは隠に聞くかだ。

 

(よし!早速今日から情報収集だ)

 

斗和は薪割りを終わらせ礼を言い、藤の家を出た。

 

この時少しだけ感じた違和感の正体には、終ぞ気付かないままだった。

 

 

 

 

──────

─────

斗和は翌朝から共同鍛錬場に行き、誰かいれば片っ端から話しかけた。

共同任務でも隊士を始め、隠にまで聞いて廻った。

 

ところが、匡近に関しての情報は全くなかったのである。

割と一緒にいることが多いだろうと実弥を引き合いに出しても、彼を知ってはいても匡近は知らないという人ばかりだった。

 

負傷した隊士が集まる蝶屋敷に行けばいいのか?と考えるうちに、二週間経つあたりで思いがけない事態になる。

 

斗和は夜通し任務をこなし、警備区域の巡回をしている。

その後、休まずに各所にある共同鍛錬場に行く。

このようなことを繰り返していれば、どんなに若く頑丈な体でも悲鳴をあげる。

それは火を見るより明らかだった。

 

自分の頑丈さを過信していた斗和は、だるさと熱と眩暈で任務後に気を失ってしまったのだ。

本来なら最大限力を出せる単独任務のはずが、精彩を欠いた動きで至るところに怪我もした。

辛くも鬼を倒したが、そこからの記憶はない。

 

 

 

 

───────

──────

額がひんやりするのに気付きうっすら目を開けると、見慣れない天井が見えた。

 

(ここはどこ…?いつ寝たんだっけ?)

 

斗和がぼんやりしていると、横にいた老婆が顔を覗き込み丸三日眠っていたことを告げる。

 

しまった!と慌てて飛び起きるが、強烈な眩暈がし再び布団に倒れてしまう。

無理をするなと老婆から窘められ、運んで来た人からだと文を渡される。

それは隠からの文で、鴉に呼ばれ事後処理に行くと倒れていたのでここに運んだ…という内容だった。

 

斗和は意識を失う前を思い出す。

鴉の令和が隠を呼んできてくれたことを知る。

 

(あーやってしまった)

 

斗和は額に手をかざす。

任務前から体がだるく、まずいとは思っていた。

鬼と対峙する頃には立っているのもやっとだった。

頸を斬ってそれからの記憶がない。

三日も経過しているならば、畑管理の夏世も心配していると思った。

早く帰らなければならない。

 

ひとまず腹ごしらえをしようと、斗和は隣にいた老婆に粥を頼んだ。

食べなければ力も出ないのて、無理矢理にでも口に入れた。

 

すぐに帰れるかと思ったが、まだ少し熱があるからと言われその日は諦めた。

 

翌日斗和は、世話になった藤の家を後にした。

 

 

 

 

───────

──────

「ただいまー!」

 

門を潜るとすぐに、斗和は声を張り上げた。

すると、夏世が屋敷の裏手にある畑から転がるように駆けて来る。

 

斗和が何も言わず四日も帰らない為、相当心配したようだ。

 

夏世は奉公先の藤の家から斗和の家に通っていた。

斗和はあらかじめ、家の中も好きに使っていいと伝えてある。

台所など自分以外使用した跡がなければ、斗和が帰宅していないのに気付くわけだ。

 

今回の経緯を夏世にざっと説明した斗和は、すぐに握り飯を持ち共同鍛錬場に行こうとした。

 

ところが門を出た矢先、令和が慌ただしく任務を知らせてきた。

数日休んだせいか、次は長期任務だった。

列車を乗り継ぎ行かねばならぬ場所で、すぐにでも出発しなければならない。

 

「ふーっ…長期任務か…」

 

斗和は深く息を吐いた。

ここにきて長期任務が舞い込むとは、本当にもどかしい。

助けようと思い動くと、空回りしているような気さえしてくる。

杞憂に終わればいいと、不安を抱えながらも願うしかなかった。

 

 

 

 

◇

鬼は東京にばかり集中していると思われがちだ。

ところが、意外に遠方にも出没する。

斗和のここ数年の任務状況をみると、東京以外の場所にもよく出現しているのが分かる。

 

東京からかなり離れた斗和の田舎にも出たくらいなので、鬼は神出鬼没なのである。

 

斗和は、長期任務は苦にならないと感じていた。

単独が多く、近距離の共同任務より気楽なのである。

だが、匡近と実弥が共同任務に向かう時期が分からない時だ。

そんな時に長期任務で街場にいないのは非常に焦る。

少しでも情報をとは思うも、関東の外れでは何の情報もなかった。

 

斗和は胸のざわつきに、嫌な予感がしていた。

 

 

 

 

──────

─────

斗和は三日間かけ、その地方では有名な宿場町の見廻りをした。

報告ではこの宿場を通り目的地へ行くはずの人々が、次々に消えているとのことだった。

どの方面から来てもここで途絶えているならば、鬼は必ずいる。

 

東西に細長い宿場町、漏れなく全て聞いた。

しかし有力な情報が得られなかった。

斗和は不思議でならない。

この道のどこかで足取りが消えているのは確かなのだ。

 

(おかしいな…)

 

考えられるのは、どこかの宿が嘘を吐いて鬼を匿い旅人を提供していることだ。

基本的にはまずあり得ない話しなのだが、蛇柱・伊黒小芭内の一族が似たような状態だった。

可能性は低いが考えられなくはない。

 

 

 

 

───────

──────

明朝。

斗和は宿場町を出て帰路に着いたが、気分は晴れず暗かった。

 

結局のところ、斗和の予想は当たっていた。

旅人が消える話しではなく、宿場の人間がいなくなっているのでは?と聞いたのだ。

 

すると、体の不自由な看板娘がいたが、その姿を全く見なくなったという宿を教えられる。

泊まってみれば、斗和は案の定鬼に襲われた。

 

応戦中に、両親である女将と亭主も現れ包丁で襲いかかってきた。

何とも言葉にならない話しである。

 

結論を言えば、鬼はかなり弱く瞬殺した。

 

生まれつき手も足も全く動かず、歩くこともできなかった娘がいた。

ある晩、一人部屋にいたところを鬼に襲われた。

そこで鬼にされたわけだ。

 

両親は、宿泊していた客を殺して食べていた娘に遭遇する。

普通ならばここで二人も殺される。

だが鬼になったと同時に、娘は手を動かし歩き健常になった。

それを見た両親は、人の道を踏み外した。

それから両親は泊まる客を襲い、娘の食糧にしていたのだ。

娘は血鬼術も使えない弱い鬼だったが、素速かった。

人間である時は歩けもしなかったのに、鬼になったとたん速く動ける。

それは両親にとっては、どれほど嬉しかったであろうか。

 

鬼は太陽光で消滅する。

よって日中は表に出られない。

それまで看板娘として出ていたのを、怪しまれないよう施設に入れたことにしたのだった。

 

止めてくれ殺すなと泣き叫ぶ両親の前で、斗和は娘の頸を斬った。

その時の両親と娘の顔は、斗和の目に焼き付いて離れない。

 

人間の記憶は消えるはずだが、娘には残っていたのだろうか。

人間は食糧でしかない。

飢えているのに、両親を食べなかった理由も分からない。

 

後味の悪い任務だった。

 

斗和はあることが頭をよぎった。

もしかしたら、娘を襲い鬼にしたのは上弦ノ参・猗窩座なのではないかと思った。

娘の顔は、猗窩座の人間だった頃の恋人・恋雪に似ていたのだ。

襲うつもりが、顔を見てためらった可能性がある。

更に手足が動かないのを見て、鬼にすれば動くと思ったのではないか。

 

そこまで考え、斗和は自嘲した。

 

猗窩座は女を襲うことができなかったはずだ。

そして、いくら女を食べないと言っても鬼に変えることをするだろうか。

 

斗和は瞼を伏せる。

 

(私は鬼に何を期待しているの…どんな経緯であろうが、鬼は鬼だ。そこに救いなんて…)

 

左目から一粒流れた雫には気付かないふりをした。

 

 

 

◇

体調管理もできず、四日間無駄に過ごした。

取るに足らない遠方の任務でも、時間をかけてしまった。

 

斗和はその結果、己の無力さを痛感した。

 

 

不死川実弥が風柱に就任した。

それはつまり、粂野匡近が死んだことを意味する。

 

そしてそれから一ヶ月も経たず、花柱・胡蝶カナエが上弦ノ弐・童磨に殺された。

 

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