立ち寄った藤の花の家では、再び現れた斗和に女が驚いた。
またもや目をぱちくりさせている。
「鬼殺隊に入りたいので、隊士の方を紹介してもらえませんか?」
そう単刀直入に聞くと、女は今度は怪訝な顔をした。
年端も行かない小娘が鬼殺隊に入ろうと志願。
頭には手拭いを巻いて、野良着姿の完全なる農民の出で立ち。
確かに不審がるのは当然だった。
それでも斗和は、隊士をここへ!と迫る。
すると女はこう告げた。
「このあたりは鬼は滅多に現れなくてね、隊士も殆ど来ないのよ。そうねえ…来ても年に二回くらいかしら」
斗和は愕然とした。
やはり地方のため、鬼が滅多に現れないのだ。
ならば一昨日の鬼は、このあたりでは珍しいということになる。
更に聞けば、最近隊士はめっきり来ていないと言う。
つまり一家を襲ったあの鬼は、未だ退治されていないと思われる。
斗和はザワザワと胸が気持ち悪い。
家族は大丈夫だろうかと、ふと頭をよぎる両親と六人いる弟妹の姿。
何にせよこうなれば、斗和は東京を目指して南下する他ないのだった。
列車賃も無いので沿線を歩きつつ、町に立ち寄り藤の花の家を探し隊士に会う。
これを地道にやっていくしかないと決意する。
その後斗和は、はまだ見ぬ鬼に警戒しながらほぼ野宿をして線路沿いを歩いた。
大量に持参したさつまいもを少しずつ囓り、川の水を飲み身体を拭き野良着を洗う。
斗和の暮らしていた時代では考えられなかったことばかりをした。
金があれば少しはまともな旅になったかもしれないが、いかんせん一文無しだ。
小娘一人旅はきついことこの上ない。
疲れた、足が痛い、腹が減ったと常に苦しかった。
それでも斗和は先へ進むしかない。
町を見つければ藤の家紋を探す。
駅では、乗り降りする人に鬼殺隊について聞いたりを繰り返した。
これらをひたすらに繰り返し、どれくらい経っただろう。
斗和はついに埼玉まで辿り着いた。
そこの藤の家にいた、二十代前半と思われる男性隊士から有力な情報を得られたのだ。
鬼殺隊の隊服姿に感慨深くなるも、一言一句漏らさず聞く。
その情報はこうだ。
『ここから西に行くと
斗和は一目散に西へと向かう。
最後にその隊士は引っかかることを告げたが、聞かなかったことにした。
東根山へ行けばついに育手と会える。
修行させてもらえる。
蓄積された疲労に押し潰されようとしていたが、どうにか持ち直せた。
(何としても育手に会うんだ!会って呼吸を会得しなければ!)
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東根山の麓までは、案外早く到着できた。
足取りが軽かったこともあるが、おそらく関東地方の面積が狭いためである。
斗和は今まで東北の村で暮らしていた。
嫌でも分かる、田舎の果てしない広さ。
歩けども歩けども田んぼや畑しかない変わり映えのしない景色と違い、関東は都会だった。
少し歩けば目的地まで着くし、様々な建物がある。
斗和は東根山に入り、道なき道を登って行く。
もうすぐ元岩柱の育手に会えるかと思うと、気分は高揚していた。
ここに来るまでの道程は長かった。
思い出す斗和の表情は、何とも言えないものだ。
実はこれまでに水、雷、風の育手を知っているから紹介すると言われていた。
しかし斗和が会得したい呼吸は岩の為、ありがたい話しながら断るしかなかった。
なぜ岩の呼吸に決めたのか。
それは、一番強いと思われる呼吸だからだ。
斗和の知る限りでは、岩柱の悲鳴嶼行冥しか使っていない。
行冥は、嘴平伊之助や上弦の鬼から柱最強と言われていた。
人によるだろうが、岩の呼吸を使いこなせれば強くなれるのではないかと思ったのだ。
斗和は割と単純である。
まだ呼吸も何もできていないというのに、先に思いを馳せていた。
強くなれば鬼をたくさん退治できる。
誰かを助けることができる。
知っているなら助けたい。
そう思ったからだ。
そういえば…と、斗和はふとした疑問にうーんと首を傾げる。
(悲鳴嶼さんは二十七歳だった。あの時二十七歳なら今は何歳かな?えーっと、炭治郎君の最終選別で大正時代だと判明して、でも大正何年なのかは不明のままだった。手の鬼が鱗滝さんに捕まったのが江戸時代?)
首を左右どちらに傾げても分からない。
(今が明治三十七年で…そもそも明治は何年まで続く?四十年?五十年?)
もし大幅にずれていたら、何もできないまま終わってしまう。
今更だが、隊士に会った時に今の柱は誰ですかと聞けばよかったと気付く。
後の祭りだが、まだ物語は始まっていないのは確かだ。
考え事をしながら足を進めると、いつの間にか辺りが畑だった。
山の中腹に段々畑、緑が生い茂り作物が育っている。
葱、白菜、牛蒡、大根、さつまいもだ。
斗和がその葉を見ただけで何の作物なのかが分かるのは、幼少期から野良仕事ばかりしているからだ。
家を出て行く時、こっそり畑から掘り起こしたさつまいもは残り僅かである。
食糧として役に立っているが、干していないので甘みがあまりない。
やはりさつまいもは日光にあてて干すことが必要だと、斗和はしみじみ思う。
(他には何が植えてあるんだろう?大根の葉の味噌汁を飲みたいな。牛蒡の叩きも食べたいし!)
腹を鳴らし畑に入り物色したのがいけなかった。
「この野菜泥棒が!」
背後からの大声に思わず背筋が伸び振り返る。
そこには、鍬を肩に担いだとても体格のいい中年の男がいた。
頭に手拭いを巻き、無精髭が伸び右目に眼帯をしている。
左目はじっと斗和を見据えている。
斗和は放つ威圧感に思わず腰を抜かし、畑に尻餅をついた。
「小娘、他人の畑を荒らそうなんざいい度胸だな。……お前どうやってここまで来た?」
それが二人の出会いだった。