「おはようございます!」
よく響く声が門の前でした。
「入ってー!」と、斗和が台所から外に顔を出し呼んだ。
すると、昨日継子志願に来た館坂佳成が荷物を持ち歩いて来る。
昨夜は警備区域を廻るだけで任務はなかった。
普段より早く帰宅できた斗和は、客間の掃除をした。
その後一眠りして起きると、いつもより断然早く目覚めた。
斗和は佳成を継子として受け入れたので、今日から一緒に住むことになったのだ。
蓬萊家は、他の柱の屋敷よりかなり狭い。
不便をかけるだろうが、一つだけある客間を使って貰うつもりでいた。
客間、居間、斗和の寝室、台所、厠、風呂場、井戸、道場、庭兼鍛錬場、畑。
これが蓬萊家の全てである。
斗和は一通り家の中を案内し、裏にある畑を見せ管理している夏世のことを話した。
夏世は畑だけでなく、率先して家の中全体のこともする。
斗和は炊事が苦手なので、大変助かっていた。
「家事は一通りできます。岩柱邸では常駐の隠もいましたが、俺も人並にはやれますから」
「そうなの?それはよかった!」
佳成は家事が一通りできる。
斗和は、夏世と上手くやってくれればいいと思った。
「屋敷内のことはまずこんなところかな。あっ、そうだ!朝餉は食べてきた?」
「いえ、まだです」
首を横に振る佳成に、斗和は朝餉を共にと促す。
夏世が来てからというもの、斗和は任せきりにしていた。
上げ膳据え膳が板に付き始めており、このままではまずいと考えた。
女たるもの、料理ができないなどあってはならない。
斗和はそう思っていた。
何事も始めが肝心なので、まずは自分の料理を食べさせるべく早朝に来るよう告げたのだ。
昨夜は非番だった佳成は、本当に早朝に現れた。
夏世が来る前にと目論んでいたので、ここまではひとまず成功である。
早速、早起きし作っていた卵焼き、叩き牛蒡、大根の味噌汁、糠漬けを共に食すことにした。
卵焼きは、斗和の数少ないまともに作れる料理だ。
村田にも出したので自信があった。
いただきます!と手を合わせ互いに箸を持つ。
すると、一口目に叩き牛蒡を食べた佳成が顔を顰めた。
「ん?どうしたの?」
「いや、これ…ちょっと酢が強い気がするんです。あっ!勿論酢は体にもいいですし、たまにはこういうのも引き締まりますね」
佳成は斗和が気を悪くしないよう、気遣いを見せた。
(あ、そうだ。これを作っている時に呼ばれたから、うっかり味見を忘れたんだ)
体が大きいのでよく食べるだろうと思い、斗和は佳成におかわりをさせる。
食べっぷりがいいと、見ていていい気分になる。
斗和は、ぼんやりと煉獄杏寿郎を思い出す。
杏寿郎も、列車で弁当を大量に食べていた。
これまで煉獄家にはさつまいもしか届けていないが、いつか手料理を食べてくれる日が来るかもしれない…と妄想する。
斗和は、にまにまと不気味に笑っていたせいで、佳成に大丈夫ですか?と心配されたのだった。
食べ終えた佳成から、卵焼きと糠漬けが美味しかったですと言われる。
斗和は至極複雑だった。
他はだめなのか?と問いたいが、気まずくなりそうなのでやめた。
食器洗いと雑巾がけを佳成に頼み、斗和は洗濯をする。
するといつもの時刻に夏世がやって来た。
経緯を説明すると、相当驚く。
「昨日おらがいなかった時に、そんたなこどさなってらとは…たまげたなあ(昨日私がいなかった時に、そんなことになっていたとはね…驚いた)」
家の中で雑巾がけをしていた佳成を呼び紹介すると、茹で蛸みたいに真っ赤になっている。
夏世ももじもじとしており、この二人はどうしたんだろうと斗和は首を傾げた。
これから斗和は、任務までの間は佳成の稽古と己の鍛錬。
この二つを同時にこなさなくてはならない。
果たしてできるのかとそれなりに不安はあるが、やるしかない。
まず斗和は、佳成に土の呼吸を会得させるにはどうしたらいいかを考えた。
始めに、何よりも先に土を知ることだ。
人間や動物が食べる作物を育むのは土である。
土、つまり大地は必要不可欠なものだ。
斗和が派生させた時は、畑を耕していた時だった。
斗和は佳成にそれを伝え、まずはひたすらに畑を耕させた。
同時に壱ノ型
壱ノ型は不貞腐れた斗和が畑を耕していた時に、無意識で出していた技だ。
土の呼吸の基礎である。
これができれば、弐ノ型以降はそこまで苦にならず会得できるのではと考えた。
何にせよ呼吸の会得は一筋縄ではいかない。
ましてや岩の呼吸を使っている上で、新たな呼吸をものにする。
自分との闘いだ。
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──────
それから数日たったが、斗和は何も言わず見守っていた。
佳成が藻掻いているのは分かるが、殻に閉じ籠もっているような感じがするのだ。
斗和には、原因の一つに考えられることがあった。
佳成は体格的に会得できるはずの岩の呼吸を、壱ノ型しかできず藻掻いていた。
斗和は体格的に会得できない岩の呼吸を、会得したくて藻掻いていた。
直感的に似ていると、斗和は思っていた。
やはりどうにもきっかけを掴めないでいる佳成に、斗和は荒療治に移ることにした。
畑にいた夏世に、何があろうとその場にいろと告げ佳成と向き合う。
佳成は
打ち返してこいと言い、斗和は突っ込んで行った。
純粋な力では佳成が勝るが、斗和が右腕しか使っていないにも関わらず応戦できていない。
速さは圧倒的に斗和が勝るものの、何かがおかしいと感じ取る。
遠慮しているのか、斗和が女だからなのか。
はたまたやる気がないのか分からないが、これはあり得ない。
(何のつもりだ?)
斗和は沸々と湧き上がる怒りに支配される。
─土の呼吸 参ノ型
斗和が、
木刀で片腕だけでは、やはり威力が著しく落ちる。
「っ!」
片膝を着いた佳成に、斗和は畳みかけるように技を放つ。
(あれごときで膝をつくなど情けない)
─土の呼吸 弐ノ型 土石流
この技も右腕だけで撃つが、佳成は後方に転がる。
上背もある大の男だというのに、あまりにあっけなかった。
(これで私の継子になろうとは笑わせる)
「さっさと立て!このざまでよく今まで隊士が務まったものだ。まさかとは思うが……鍬では当たると危ないから打ち込めないとでも?」
斗和は木刀を佳成に突き付けた。
「……お前は私より強いのか?鬼殺に女も子供も関係ない。私を鬼だと思ってかかれ!そのような腑抜けならば、鬼が大切な人を殺そうとしても助けられないな…。無力ほど悔しく情けないものはない」
淡々と、斗和は自分でも驚くことを言うと更に畳みかける。
木刀を構え、畑で蹲っていた夏世に向かって行った。
「キャーッ!!」
「やめろー!!」
ズバンという音と共に、夏世に向けて振り下ろそうとしていた木刀が切断される。
風圧で斗和の体は真横に飛んだ。
飛ばされながらも、その目にはっきりと土の粒子が見えた。
素早く受け身を取った斗和は、切断された木刀を手放す。
そして夏世を庇いその前に立つ佳成に、ありったけの拳を打ち込んだ。
斗和は育手の元で修行中に、一通り体術も習っていた。
しかし本格的に使うのはかなり久しぶりである。
斗和の打ち込んだ拳を、佳成は全て腕で防いでしまう。
これならばと、斗和は右足で佳成の脇腹を盛大に蹴り上げる。
しかし同時に肩口に拳が入りよろめく。
「うっ!」
その拳はかなり強く、重い。
斗和は額を拭い、正面で睨む佳成に笑ってみせた。
「今のは壱ノ型。もう一回やってみて」
聞こえたはずだが、唖然とした佳成は状況について行けない。
「……はっ?」
斗和は呆けている佳成の脇を通り、後ろで涙目で蹲る夏世の頭を撫でて詫びる。
「夏世ちゃんごめんなあ!こええ思いさせたじゃ。悪いのは佳成だはんで、今度甘味でも奢ってもらえばええ(夏世ちゃんごめんね。怖い思いさせたね。悪いのは佳成だから、今度甘味でも奢ってもらうといいよ)」
「斗和ちゃんてば!びっくりしたでねえが!(斗和ちゃんてば!びっくりしたじゃないの)」
ぽかぽかと斗和を叩いた夏世は、涙を拭い佳成の傍に寄ると隊服の袖をそっと掴む。
「助けてくれてありがとう、佳成さん」
「あ、いや……夏世さんが無事でよかった…!」
照れているのか顔の赤い佳成と、泣き顔に笑みをたたえる夏世の姿に斗和は察した。
実際、佳成がふっきれない原因の一つは夏世だ。
なんと世話の焼ける二人だと思った。
この状況、斗和はかなりお邪魔虫である。
だが、今は修行中。
夏世を家に入らせると、斗和は再び畑で佳成と向き合う。
これからが本番である。
斗和は先程の壱ノ型を、もう一度鍬を使い佳成に出させた。
次は木刀、最後に佳成自身の碇に似た大きな日輪刀で出させる。
斗和はそれぞれをよく見て、適応と威力を確かめた。
どうやら日輪刀が一番しっくりくるようで、威力もなかなかのものだった。
ならば一人で鍛錬する時は刀を、稽古する時は互いに鍬にしようと決め休憩した。
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斗和は夕方から任務だった。
任務の無い佳成に、夏世を送って行くよう頼むと嬉しそうに頷いた。
「分かりました!責任持って送り届けます」
「うん、じゃあよろしくね」
なんとも分かりやすい男だと思った。