※館坂佳成視点
俺の名は
鬼殺隊・
岩から派生した土の呼吸を使う蓬萊斗和さんに、継子志願するため家を訪ねた。
そこで俺は運命的な出会いをした。
それは色恋沙汰とは無縁で十六年生きてきた俺にとって、悩ましい日々の始まりだった。
師範の家に住むことになって紹介されたその女性・小野寺夏世の笑顔に釘付けになった。
そこからの俺は、まるでふわふわした不思議な気持ちだった。
彼女は俺より二歳上の十八歳で、藤の家の奉公人だ。
師範が家を貰い受けた時に、畑の管理を任されたそうだ。
朝に来て夕刻前に帰宅する夏世と、朝に帰宅し夕刻に任務に出る俺は同じ家にいる。
自ずと一緒にいることが多い。
畑の管理をしながら、家の中のことも一通りこなす働き者の彼女。
そして何よりいつも笑顔を絶やさない。
内面にも惹かれるのはあっという間だった。
土の呼吸を会得するため鍛錬し、昼になれば彼女が作る昼餉を食べる。
任務前は必ず握り飯や水筒を用意してくれて、任務上がりにも軽食を摂れるよう仕度している。
掃除も洗濯もし、気付けば畑にいるそんな働き者の彼女を自然と目で追っていた。
気持ちの正体にはすぐ気付いた。
たが修行を始めて間もない自分には、向き合わねばならない問題がある。
色恋にうつつを抜かしている暇など微塵もなかった。
何のために一大決心をして継子志願をしたのか。
土の呼吸を全て会得し、更に上を目指さなければならない。
岩の呼吸を壱ノ型しか使えない今のままでは、到底強い鬼を倒せないからだ。
だが鍛錬に集中しなければと思う一方で、彼女への想いは日々膨らんでいく。
ふらふらと地に足のつかない状態が何日か続いたある日、俺はついに師範の逆鱗に触れてしまう。
右手に木刀を持つ師範と、両手で鍬を握る俺。
そして畑の隅に蹲り、心配そうにこちらを窺う彼女の姿が視界に入る。
打ち込んで来いと言われるが、俺は鍬だ。
もし師範に当たったら…しかも同じ畑には彼女がいる。
危険なのに、なぜ師範はここに居させるんだ?
強い憤りと不安を感じ迷ってしまう。
当然そんな状態では、師範からの打ち込みに耐えられるはずもない。
あっという間に土の呼吸の技を撃たれ、畑に片膝を着いてしまう。
そして更に違う技を撃たれ、無様にも後方に転がった。
師範は右腕のみで木刀を持ち振るっている。
片腕だけでも威力が相当で、正直かなり驚いた。
任務で二度目にしたが、女性でこれ程に力のある隊士は他にいないだろう。
さすが岩から派生した呼吸だけある。
そこからの師範はまるで別人で、俺はただただ呆気にとられていた。
だが「それでは大切な人も守れない」と恐ろしく冷たい表情で言い放った師範は、信じられない行動に出る。
あろうことか、彼女に向かい木刀を振り下ろそうとしたのだ。
夏世!!
そのあとはよく分からないが、俺の鍬は師範の木刀を真っ二つにした。
俺はこれがきっかけで、土の呼吸の壱ノ型を撃つことができたのである。
その日の夕刻、任務に出かける師範から「佳成は任務ないんでしょ?夏世ちゃんを送ってってね」と言われ、思わず顔がほころぶ。
嬉しかった。
二人きりで往来を歩くのは初めてだ。
歩きながらその時の話しになり、師範の変わり様に驚いたと盛り上がる。
ひとしきり笑ったあと彼女は口を噤み、歩みもゆっくりになった。
すると立ち止まり、俺を見つめる。
彼女の顔はうっすら赤い。
「あの時、どうして助けてくれたの…?」
どうして?決まっている、危険だったから。
君が師範の刃に倒れてしまうと思ったから。
そう言いたかったのに。
なのに俺の口は勝手に違うことを告げていた。
「君が好きだから」
その時の彼女の顔は、きっと生涯忘れない。
自分がまだまだ未熟であることも、鬼を倒すことに恋愛は不要であることも分かっていた。
だけど、俺も彼女も後戻りなんてできやしなかった。
絶対に守り抜いてみせると誓ったその日から、運命の歯車は回りだしたのだった。