未来予想図
十八歳になった斗和は、昨年までやっていた階級を確かめることをしなかった。
階級は
下がる可能性もあるか?と一瞬考え、苦笑いする。
そうなれば、斗和の目的が閉ざされてしまう。
物語自体は、おそらく来年には始まるだろうと目処を立てている。
それまでにしっかり計画を立てる必要があった。
斗和は任務明けの朝日を浴び、目を細めた。
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帰宅すると台所に佳成と夏世がおり、二人でせっせと朝餉を作っていた。
普段夏世が来るのは、藤の家で朝餉を済ませた後だ。
今日はやけに早い。
(早すぎる…だってまだ五時半だよ?なんかおかしいな…)
斗和は二人をじっと見て首を傾げる。
よそよそしくも感じられ、どうにもしっくり来ない。
すると斗和の視線を感じた夏世が、妙に慌てて風呂に入って来いと告げる。
佳成は「お疲れ様です」と挨拶してからは、斗和に顔を向けない。
(なーるーほーどーね!)
勘がいいわけではない、むしろ鈍い斗和だったが、さすがにこれは察した。
斗和は言われた通り、まずは風呂に入ることにした。
湯舟に浸かりながら先程のことを考える。
こそばゆい、嬉しい、胸が躍る、今の心境に当て嵌まる言葉はどれなのか。
風呂から上がり髪を乾かし、普段着の野良着を着て居間に向かう。
朝餉が運ばれるのを、斗和はにやけそうになりながら見ていた。
普段はコの字で並ぶのだが、今日は斗和の向かいに佳成と夏世が並んでいる。
人参の白和え、生姜の佃煮、かぶの餡かけ、大根の味噌汁、糠漬け、梅干し。
ごく普通の朝餉が並んでいるが、膳の端に羊羹がある。
色からして小豆の羊羹ではなく、さつまいもの羊羹だ。
斗和は、なぜ羊羹が?と見つめていると、佳成と夏世が声を合わせる。
「誕生日おめでとうございます!」
満面の笑みを向けられ、斗和は驚きに目をしばたかせた。
「あ、りがとう…。私の誕生日知ってたの?」
誕生日の朝に祝われるなど、初めてのことだった。
斗和は、今まで誕生日を祝ってもらった記憶がない。
貧しい農村では、子供の誕生日を祝う風習などないのである。
斗和も幼少期から農作業ばかりだった。
鬼殺隊に入ってからも一人だったので、誰かに祝われるなど考えもしなかった。
斗和は、じわじわと心が温かくなるのを感じる。
(誕生日を祝って貰えるなんて思わなかった…伊之助君のほわほわする気持ちって、まさにこれなのかな?)
「斗和ちゃん!?」
「師範!?どうしたんですか、泣かないで下さいよ!」
夏世と佳成は驚きあたふたしている。
斗和は滲み出る涙を堪えられなかった。
「嬉しい…二人共、本当にありがとう!」
泣きながら礼をすると、二人は顔を見合わせて笑顔になる。
冷めるから食べようと夏世が言い、三人揃って手を合わせ朝餉を食べる。
斗和は胸がいっぱいになり、いまいち味が分からなかった。
それでも最後に茶と共にに味わった芋羊羹は、甘くて美味であった。
誕生日に幸せな気分で満たされたことを、斗和は心から感謝した。
食べ終わる頃、そういえばと少し冷静になり気付く。
台所で斗和が感じていたのは、誕生日を祝う雰囲気のものではない。
継子の佳成と畑管理の夏世、斗和の前に座る二人が発するよそよそしさの正体。
知る限りでは、夏世がこの家に泊まったのは初めてだ。
二人が恋仲になったのは既に知っているが、昨夜ついに結ばれたのかと思った。
二人は隠す気がないように見えるが、追及もできない。
ただ何か言いたそうにも感じるのだ。
斗和はどうしようかと考える。
「ごちそうさまでした、美味しかったです!二人共ありがとう」
斗和は手を合わせそう言うと、夏世が立ち上がり膳を片付け始める。
佳成は真面目な顔で、話しがあるからそのまま少し待ってくれと告げた。
(やっぱり!私はこれから二人が結ばれた報告を受けるんだ。なんだか朝から刺激的…でも、そういうことってわざわざ話すかな?)
少々腑に落ちない斗和だが、戻ってきた二人を前に正座し直す。
二人はまた正面に並び、真剣な眼差しで斗和を見ている。
「師範、報告があります。…俺、心から夏世が好きです。今はこのままだけど、いずれ夫婦になろうと思っています。どうか認めて下さい、お願いします!」
(えっ夫婦!?)
「私も佳成さんが心から好きです。ずっと傍にいたい、生涯共に生きていきたいんです!」
二人は手を付き、斗和に頭を下げる。
周囲が赤面しそうな愛の告白である。
はっきりと気持ちを伝える十代の若者がいることに、斗和は感動した。
親でもないが、こうして伝えてきたことは嬉しい。
もし娘や息子がいたなら、このような感じなのかと思った。
「おめでとう!応援するよ!必ず一緒になる日が来るから、それまで精一杯愛を育んでね」
斗和は言いながら盛大に照れるが、パッと顔を上げた二人は目を合わせ喜んでいる。
鬼殺隊は三年後に無惨を必ず倒す。
その時、二人が結婚するのを見届けるという夢もできた。
斗和は穏やかに笑う。
微笑ましい空間である。
おそらく斗和の姿は、二人の視界に入っていない。
少しからかってやろうとするのは、斗和の癖だ。
「ところで佳成?」
「はい、何ですか?」
「昨日は任務がなかったんでしょう?夏世ちゃんはうちに泊まるの初めてだね。二人共寝不足に見えるけど…。じゃあ私は仮眠をとります、おやすみ!」
斗和は立ち上がり、襖に手を掛けると振り返る。
これでもかという程に顔を真っ赤にした二人は、唖然と斗和を見ている。
(分かりやすいんだから、本当に)
「必要ないだろうけど、客用の布団は押し入れに一組あるからね」
そう言って笑うと、斗和は私室に向かった。
背後で何やら騒がしいが、幸せの音が心地良い。
斗和は笑いながら布団へと入った。
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それから一ヶ月程経ったある日。
斗和は、胡蝶しのぶが蟲柱になったと小耳に挟む。
しのぶが柱になった。
次は杏寿郎だ。
少しずつあの時が近付いていた。