斗和は朝に任務から帰宅すると同時に、耀哉より文を貰った。
また呼び出しがと思い身構えるも、新たな任務についてだった。
斗和へ
日々の任務お疲れ様。
早速だけど新たな任務をお願いするよ。
東京郊外のある村での出来事だ。
ひと月足らずで、村人が三十人以上も行方不明になっている。
行方不明とは書いたけど、何軒もの家屋が血だらけになっていたんだ。
死体が全く見つからないから、鬼の仕業と思われる。
私は十二鬼月の可能性が高いと見ている。斗和に班を率いて向かって欲しいんだ。
村は辺鄙な場所にあるから、途中まで列車で向かい、その後は足で移動するしかない。
だから、できるだけ早く出発して欲しい。
よろしくね。
産屋敷耀哉
斗和は、あーと天を仰ぐ。
最も苦手とする共同任務の依頼だ。
ここしばらく無かったので安堵していたが、気を抜いたとたん舞い込んできた。
文の二枚目を読むと、詳しい場所と構成員が書かれている。
構成員は、斗和を入れて全部で五人だ。
風が二人、炎が一人、雷が一人、そして土の斗和だ。
これらを把握し、戦闘では的確な状況判断をしなければならない。
斗和の最も苦手なことだが、やるしかないのだった。
(でもやっぱり不安…十二鬼月の可能性…上弦だったらどうしよう…)
文を読んですぐに不安に陥る斗和だが、傍らでは鴉の令和が早くしろと啄(つつ)く。
あれこれ考える暇もなく、目的地へ向かうことになった。
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集合場所は駅だった。
既に他の四人の隊士は揃っており、斗和は慌てて詫びる。
「遅れてすみません!今回指揮を取ります蓬萊斗和です。よろしくお願いします!」
いえいえこちらこそ、と挨拶をしてくる隊士らの中に、女が一人いた。
斗和は、女隊士と共同任務に就くのは初めてだった。
鬼殺隊は基本的に男が9割以上を占めており、女は稀である。
同性がいると嬉しいのだが、益々不安にもなり斗和は落ち着かない。
(あー単独ならよかったのに。山越えもあるし、この子は大丈夫かな…)
斗和は、斜め前に座る女隊士にちらっと目を向ける。
目的地が遠方の場合、向かうだけで労力がかかる。
特に山越えは平坦な道を走るより、何倍も疲弊するからだ。
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斗和らは朝に列車に乗るも、山越えのあたりになると既に昼もとうに過ぎていた。
目的地まで随分かかる上、山越えで足にきているのが見受けられた。
ちなみに斗和は足腰が人一倍丈夫なので、山を駆けるのは得意である。
しかし皆がそうだとは限らない。
やはり斗和が懸念していた女隊士は、疲労の色が見えていた。
(目的地までまだ着かないのに、これじゃ鬼が現れたら厳しい…)
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それでも、夕刻までにはなんとか集落まで着いた。
一人ずつ東西南北に別れ、民家を中心に見廻る。
異変があれば叫ぶなり鴉を使い呼ぶように言い、斗和は一人集落の外れをぐるりと見廻っていた。
集落を囲むように、うっそうとした木々が生い茂り、やけに静かで不気味だ。
(なんだかすごく嫌な感じがする)
斗和は、以前も同じようなことがあった。
まるで十二歳の時、初めて鬼に襲われた家を見た時だ。
その前の晩に感じた、生ぬるい妙な風に当たった時と同じだった。
その時、鴉が一羽飛んで来た。
「鬼ィ!鬼ィ!」
斗和は弾けるように鴉の後を追う。
「令和!皆を集めてけろ!(令和!皆を集めてちょうだい!)」
鴉の令和に指示し、一目散に走る。
(間に合って……!)
案内された場所には既に事切れた隊士と、額から血を流し刀を構える隊士の姿があった。
斗和は瞬時にゾワッと鳥肌が立ち、身震いした。
鬼から発せられる気は、斗和が過去に感じたことがあるものだ。
(これはあの時の、実家の川向かいの家が襲われた時の……あの生ぬるい風だ…!)
「退避!」
立ち向かおうとする隊士に叫ぶと、斗和は直ぐさま鬼に向かって行く。
振り上げた刀が宙を裂き、間髪入れず斬撃を繰り出すが当たらない。
(躱されている!?いや違う!これは全て弾かれているんだ…!)
斗和は一旦間合いの外まで離れると、四方に散っていた二人の隊士が集まっており、素速く鬼を囲む。
「刀が、攻撃しても全然斬れないんです!」
初めに対峙した隊士が訴える。
鬼を見ると無邪気そのもので、ケラケラと笑っていた。
この鬼の外見は、十歳程度の子供である。
短髪から覗く角は三本、そして両手の全指の間に赤い小さな独楽を挟んでいる。
それが刀を全て弾いていたのだ。
その反応の速さ、指の力は異常と言える。
赤い小さな独楽は、鬼の凝固した血液でできているのでは、と斗和は思った。
つまり、独楽が血鬼術なのだ。
そうでなければ、日輪刀が全て弾かれるなど有り得ない。
そして細い首には、連なった小さな独楽が幾重にも巻き付けてある。
これでは頸を斬るのに邪魔だ。
一筋縄ではいかないだろうと、斗和は眉間に皺を寄せる。
「おめんだが鬼狩りとやらがあ?はんずめで見だあ!そごらの人間ど変わらねえでねが!(お前達が鬼狩りとかいう奴らか?初めて見た!その辺の人間と変わらないじゃないか)」
「!?」
斗和は心底驚く。
自分の出身地と同じ訛りで喋る鬼は初めてだった。
他の隊士達は理解できるだろうか?と、チラッと周囲を伺う。
「おらはずっど遠くの山さばりいで、鬼狩りなんぞ会わねできだじゃ。おかげで食い放題だはんで、上弦ってのさなれるがもしんねえどさ!(俺はずっと遠くの山にばかりいたから、鬼狩りなんて会わないままだった。おかげで食べ放題だから、上弦になれるかもしれないってさ!)」
意気揚々と喋る鬼を見て、斗和は奥歯を噛む。
この鬼は斗和の田舎に現れ、一家八人を襲った奴だと思った。
予想はしていたが、あの時倒されていなかった。
「か、下弦だ!下弦ノ弐だ!」
誰かが叫ぶ。
斗和は先ほど刀を交えた時に気付いたが、鬼は下弦ノ弐だ。
斗和が今まで遭遇した鬼で一番位が高い。
(身軽さと速さはこれまでの鬼で一番だ。そしてあの指の独楽はおそらく……)
「あの独楽を操り、体に穴を開け殺すんですか?」
「そうです!あいつ、子供の鬼だと思って油断して…そしたら独楽が一直線に飛んで来て、体に食い込んで貫通するまで回ってて……!」
くそっ!と顔を顰める隊士。
既に事切れた隊士の顔には、五ヶ所も穴が開いている。
生きたまま独楽が体を貫通する苦痛は計り知れない。
鬼を囲む隊士は四人だ。
斗和は素早く考えを巡らす。
(どうする?どうすれば…鬼殺隊に初めて会った…?ということは…)