※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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鬼さんこちら

斗和は目の前の状況が理解できず、呆然と見つめるしかできない。

 

下弦ノ弐を仲間四人と弱体化させ、とどめを刺そうとした。

 

まさにその時だった。

 

女の隊士が喉仏をかっ斬られ、その血を突然現れた何者かが食らい吸っている。

 

(何!??何が起きたの?こいつは!?)

 

「皆下がって!」

 

斗和は、そう叫ぶのがやっとだった。

 

「嗚呼、やはり女子(おなご)の血は美味い!肉は何倍も美味い、たまらん!」

 

喉仏から顔を離し、ゆっくり斗和を向いたそれは鬼だった。

 

一瞬で場が凍り付いた。

 

「嘘だろ……か、下弦……伍……!」

 

「何でだよ!?何でまた十二鬼月が現れるんだよ!」

 

「どうしたらいいんだよっ!」

 

「くそっ!くそおっ…!」

 

絶望に喚く残された隊士二人は、刀を構えるも後ずさって行く。

 

しわがれた声、剃り上げた頭、やけに大きな鼻。

寺の住職のような袈裟を纏うその鬼は、顔中血塗れにし、いやらしく笑う。

 

「儂は女子(おなご)の血の匂いが何より好きでな。どんなに離れていようが鼻が効く。こうして来てみれば、まさか鉢駒(はつこま)の餓鬼がいようとは思わなんだ!」

 

住職のような鬼は、ニヤリと駒の鬼を見て笑った。

鉢駒(はつこま)こと下弦ノ弐はかなり疲弊しており、肩で息をしている。

今こそとどめを刺す絶好の機会だった。

斗和は焦りに動悸がし始める。

 

(どうするどうするどうするどうするどうする…!?)

 

「鉢駒(はつこま)よ、そのザマは何だ?鬼狩りなんぞにやられるとは不甲斐ない。十二鬼月が聞いて呆れる」

 

下弦ノ伍は、錫杖を肩に担ぎ嘲笑する。

 

「よし!ここで儂がお前を討ち、下弦ノ弐に取り替わるのがいいだろう。無惨様には儂から伝えておこう」

 

「くそ坊主がやがまし!おめなど俺さ敵うわげねがべ!(くそ坊主がうるさい!お前など俺に敵うわけがない!)」

 

斗和は、鬼同士のやりとりが遠くに聞こえていた。

動悸が激しく、冷や汗も止まらない。

十二鬼月が二体も現れるなど、こんなことありえるのかと目の前が暗くなる。

 

(どうすればいいの!?どうしたらいい!?分からない…!)

 

戦う方法はあるのか。

しかし無謀だと斗和は分かっている。

隊士の体力は限界で、無闇に戦えば死ぬだけなのだ。

弱らせた下弦ノ弐も、このままでは回復してしまう。

そしてこの下弦の伍の能力も分からない状態だ。

 

斗和は、ここまで危機を感じる場面は初めてだった。

 

先程からずっと頭が、体が、皮膚が訴えている。

 

このままでは皆、死ぬと。

 

とにかく退避させるしかないと、脳内が警鐘を鳴らす。

下弦を二体同時になど、いくら人数がいても到底無理だ。

 

(私が奴らを引き留めている間に逃がす!)

 

「退避!全速力で逃げて!」

 

斗和の声に、隊士二人は一斉に駆け出す。

同時に斗和は技を撃とうとしたが、下弦ノ弐・鉢駒(はつこま)が立ちはだかる。

 

「おめ喰えば回復すんだ!したらくそ坊主ぶちのめしてやるじゃ!(お前を喰えば回復するんだ!そしたらくそ坊主ぶちのめしてやるんだ!)」

 

再生が追いついていないにも関わらず、下弦ノ弐は強気だ。

すぐに斬りつけ腕を斬り落とすが、その間に下弦ノ伍は素速く指を自らの鼻に入れ、血を出すと舌で舐める。

 

「逃さん!」

 

そして手を併せ経文を唱え始めた。

 

(まずい!!)

 

「あ─────っ!!」

 

斗和は咄嗟に耳を塞ぎ、ありったけ叫ぶ。

 

(間に合って、どうか!みんなが遠くに行くまで!)

 

願った。

 

願ったが、隊士達は耳と鼻から血を吹き出し倒れた。

 

斗和の目に映るのは絶望だけだった。

 

「…っ……!」

 

「よしよし、男は好かんからな。さあ後はお前だけだ。たっぷり味わってやるからな…」

 

またもやいやらしい笑みを浮かべた下弦ノ伍は、一歩ずつ斗和に近付く。

 

それをぼんやりと見ながら、斗和は涙が流れた。

己の無力さを、これだけ呪ったこともなかった。

四人いた隊士は皆もう動かない。

 

(あと少しだったのに……)

 

下弦ノ弐にとどめを刺す前に、まさかまた鬼が現れるなど誰もが思うわけもなかった。

しかも同じ下弦だ。

一体だけでも、四人がかりでやっと弱体化させたというのにだ。

 

斗和は後悔が押し寄せる。

もっと早くとどめを刺していればよかったのか。

そうすればまだどうにかできたのか。

誰も死なずにすんだのか。

そんな保障はどこにもないのだが、斗和はあの時、と悔やむ。

 

斗和を信じ、指示に従った隊士達は皆死んだ。

精一杯戦った。

 

(なのに私は何をしている?今まで何をしていた?)

 

斗和は無力さに打ちひしがれる。

鬼を何体斬ろうが、下弦を倒そうが、仲間の命を救えないなら意味がないと思った。

 

何の為に鬼殺をしているのか。

これから何をする為にここにいるのかと考えると、悔しくつらく堪らなかった。

 

(…許せない。人間を簡単に殺す鬼も、弱くて誰一人救えない自分も!!)

 

 

斗和は溢れ出る涙をそのままに、日輪刀を横向きに構えた。

 

 

 

─土の呼吸 拾ノ型奥義 大地ノ怒(だいちのいかり)!!

 

 

 

激しい地響きと地鳴りが辺り一帯を包む。

 

 

 

 

 

 

 

僅か数十秒後。

 

物言わぬ細切れの肉塊となった下弦ノ弐と下弦ノ伍は、ボロボロと崩れ消えた。

 

 

斗和はそれを確認する前に意識を手放した。

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