※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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農婦隊士

斗和は布団から起き上がり、隣に座っている隠に体を向けた。

 

「……あの時一瞬見えたのは子供鬼の顔と、あと鼻の鬼の大きな鼻だけです。後は何も見えませんでした。もう本当にがむしゃらで……気付いたらここにいたんです。あ、子供鬼って下弦ノ弐で、鼻の鬼は下弦ノ伍です。説明が下手ですみません」

 

「……いえ」

 

(この人、あの状況をそれで済ますの?)

 

隠の後藤は、斗和の報告に頭巾の下の口を引き攣らせた。

これでは報告できない。

順を追って説明して貰う必要があった。

 

 

 

 

後藤は一週間前、東京外れの集落での事後処理に駆り出された。

蝶屋敷に届け物をした帰りのことで、とにかく急げとのお達しで仲間四人と向かった。

 

列車で終点まで行き、そこからは足を使うしかなくひたすらに走った。

 

川を渡り山を越え、とんでもなく辺鄙な場所にあった集落。

そこで後藤が一番最初に目にしたのは、柱の姿だった。

 

白髪で体と顔に無数の傷がある風柱・不死川実弥だ。

柱がいるということは、相当に強い鬼だったのかと思った。

だが事はそう単純なことではなかった。

 

鎹鴉が呼び寄せる現場に行けば、事切れた隊士が四人いた。

一人を除き、耳と鼻からおびただしい出血の跡があった。

他の三人と埋葬の準備をと思ったが、風柱から一緒に来てくれと言われる。

 

風柱はその背に人を背負っており、これを持ちついて来いと妙な形の刀を渡してきた。

一般的な日本刀とは違う形状のそれは鍬に似ており、重い。

 

これは誰の日輪刀なのか。

風柱が背負ってる人は誰なのか。

 

後藤は聞こうとしたが、風柱は既に走り出していたので慌てて後を追う。

背負われている後ろ姿を見ると、髪は肩より長く明らかに女だった。

どう見ても野良着を着ている為、集落に暮らす農婦だろうと後藤は推測した。

鬼に襲われ気を失ったのだと、その時は思っていた。

 

山を越え町まで来ると、やっと藤の家へ到着する。

随分走ったので、後藤も風柱も汗だくだった。

二回程しか休憩していないのに、風柱はよくあの距離を人を背負って全速力で走れるものだ。

やはり柱だ、刀だけで精一杯の自分とは違う。

後藤は感心する。

 

風柱は背負っていた女を家の者に頼むと、宛がわれた部屋へと入る。

そして風柱は、あの農婦が目覚めるまでここに残ってくれと後藤に告げてきた。

 

後藤は率直に、なぜ?と思った。

なぜ農婦が目覚めるまで、ここで待機しなければならないのか。

 

理由を問う後藤に、風柱は驚くことを告げた。

 

「あの女は農婦じゃねェ。隊士だァ」

 

「隊士だったんですか!」

 

後藤は驚愕した。

農婦だと思っていた女は農婦ではなく、鬼殺隊の隊士だった。

後藤が抱えて走った日輪刀は、その隊士の刀であった。

そうなるとあの中で生き残った一人なのかと思ったが、風柱は更に驚くことを告げる。

 

女は任務で下弦の鬼を二体も倒した。

下弦が二体も同時に現れることは、今までなかったことである。

しかもそれを一人で倒すなど、後藤は到底信じられない。

 

「えっ、はあ!?ええっ!?」

 

言葉にならない反応をすれば、風柱は遠くを見ながら呟く。

 

「まァ信じられねェよなァ。俺もこの目で見てなけりゃ同じ反応する」

 

他人にも自分にも相当厳しい、あの風柱がそう言うのだ。

真実であるのは間違いない。

 

だが後藤には到底信じられなかった。

下弦一体だけでも苦戦を強いられるというのに、二体現れそれを同時に頸を斬るなど前代未聞である。

しかも女、更に柱ではない隊士だ。

 

後藤は脳内であれこれ考えていると、風柱は頼むぞと念押しする。

 

「俺はこれから一眠りしてから帰るが、女が目覚めたら詳細を聞いて文を寄こせェ。いいなァ?」

 

「はい…」

 

腑に落ちないながら後藤は返事をすると、風柱は風呂へと向かって行った。

 

それから後藤は、女が目覚めるまで藤の家で手伝いをした。

また、近くで事後処理があれば行くなどし過ごしていた。

女の世話は藤の家の者に頼んでいたので、何か変化があれば知らせてくれと言ってある。

 

 

 

だが翌日もその翌日も目覚める気配がなく、三日経っても一向に変わらないままだった。

後藤は焦る。

再度医者を呼び診て貰うも、心臓も呼吸も正常だと告げられる。

なぜ目覚めないのかが分からない。

 

後藤は医者に礼をし、横たわる女の顔をまじまじ見ると、左頰に横に走る大きな傷があった。

耳まで走るその傷は、かなり深く斬られたのか少し盛り上がり縫われた痕もある。

女なのに気の毒すぎると、後藤は顔を顰める。

傷を除けば女の寝顔は整っており、目を開ければ美人なのではと思うのだった。

 

 

 

 

 

それから後藤は、一日一日と祈るように待つが変化はない。

風柱は文が来ないのを不審に思っている可能性がある。

決して忘れているわけでも、無視したわけでもないことを分かってほしい。

 

後藤は願う。

 

(頼むから一刻も早く目覚めてくれ!)

 

 

 

後藤の願いは、斗和を運んでちょうど一週間後の朝方ついに叶うのだった。

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