あの凄惨な任務から五日後。
夕方からの任務前のことだ。
鴉が羽音も立てずいきなり現れたので、驚く。
次に鴉が発した言葉にもっと驚いた。
なんとこの鴉、風柱の不死川さんが主だった。
不死川さんの鴉がなぜうちに?
よく見ると足に文らしきものが括られてあり、そっと外す。
不死川さんといえば、この前の任務で助っ人に来たと聞いた。
だけど私は生憎、拾ノ型を撃った直後に失神してしまい会っていない。
彼が来てくれたことは、藤の家で目覚めた後で隠から聞いたのだ。
つまり、以前の記憶を持つ私が一方的に知っているというだけで、直接の面識はない。
それなのに文が来た。
なぜ……?
まさか!
私を背負って山を越えたから、大変だったに違いない。
その責任を取れってこと?
あの距離を身丈百六十八、体重五十五の女を藤の家まで運んだのだから、相当重かっただろう。
確かにお詫びとお礼をしなければと思っていたが、先に文が来てしまうなんて思わなかった。
こんなことなら、目が覚めた時に文を書けばよかった。
あの隠、後藤さんに渡してもらうよう頼めばよかったんだ……!
あー失敗した……
どう責任を取る…?
お金?
いやでもお金ってなんだか嫌だ。
しかも柱がお金に困っているわけがない。
じゃあ……不死川さんの任務を代わりに行くのはどうだろう?
…いや、一般隊士が柱の任務に行けるわけがない。
他には……あっ!おはぎを持参して詫びるのはどうだろう。
一番いい案だ。
いやでも、いきなり会いに行くのは……
悶々と考えていると、不死川さんの鴉に足を突かれた。
そうだ、早く文を見なきゃ。
恐る恐る開けると、その内容に驚愕ししばし固まる。
簡潔に、たった一文。
手合わせをしたいから都合をつけてくれとのことだった。
手合わせ……?
手合わせとは、その相手となり勝負することだ。
なぜ彼は、会ったこともない私と手合わせしたいとなるんだろう?
あちらは私の倒れている姿を見たけれど、意識がないから互いに会話すらしていない。
そもそも手合わせとは、柱同士など同等の立場の人に使う言葉だ。
この場合は、稽古をつけてやるの間違いなのでは?
いや待って。
そもそもこの文は私宛じゃないんだ。
同じ柱の、悲鳴嶼さんか宇髄さんあたりに出すはずのものじゃないかな?
間違いだよね。
うん、不死川さんの鴉が間違ったんだ。
一人納得した私は、文が間違ってここに来たことを返事しようと筆を取った。
拝啓 風柱様
初めまして。
甲 蓬萊斗和と申します。
突然失礼します。
先日は大変ご迷惑をおかけしました。
藤の家まで運んでいただき、ありがとうございます。
この度、風柱様よりの文が手違いにより私の元に届きました。
手合わせをしたいとの内容で、おそらく同じ柱の方への文かと解釈しました。
返送しますので、お手数ですが再度お相手様へお届け下さいませ。
尚、内容を拝見してしまったことをお詫び申し上げます。
蓬萊斗和
「これでよし、と」
筆を置き、読み直す。
些かまわりくどくなったが、相手は最高位である柱だ。
しかもあの恐そうな不死川さんなのだから、このくらいでいいだろう。
それにしても、これは誰が書いたのだろうか。
確か彼は、字は読めるが書けないということだった。
屋敷に来る隠にでも頼んだのかな?
鴉に伝言せず、きちんと文に書くあたりが何とも言えない。
書いた文と間違って来た文を、不死川さんの鴉に括りつける。
これでこの件は終わりだと思い、任務の仕度をしようと台所へ入ろうとした。
すると今度は、お館様より文が来た。
柱の件で話しがあると。
このような文は何度目だろう。
いくら鬼を五十体以上倒そうが下弦を倒そうが、私は柱にはなりませんと断っているのに。
しかし呼び出しには応じなければならない。
またいつものように断ればいいことだ。
この時はそう思っていた。