辿り着いた藤の家に女を任せ、先に帰る。
同行した隠に、女が目覚めたら連絡するよう、ここに待機しろと告げていた。
職権乱用とも言える命令だが、どうにも女が気になる。
それは異性としてどうこうではない。
柱でもない隊士が、下弦を二体同時に倒した。
その強さが気になった。
それが男であれ同じだ。
目の当たりにしたあの技を知りたい。
強さを知りたい、手合わせをしたい。
そう思うのは当然のことだろう。
だが三日経とうが五日経とうが、隠からの文は無かった。
あいつまさか命令を無視していないだろうなと思ったが、あの隠は匡近を看取った時にいた奴だ。
眠そうな目をした、だが案外しっかりした奴だというのは知っている。
しかしこうも連絡がないと、気になって仕方がない。
あの時呼吸はしていたし脈もあった。
失神しているならば、長くても一日程で意識を戻すと思っていた。
まさか死んだのか……!?
どちらにしろ連絡は来るはずだ。
一週間経って何もなければ、こちらから連絡しようと決める。
そして一週間後、やっと文が来た。
女は意識を取り戻し、会話も出来て重湯も口にしているらしい。
安堵した。
文には任務の詳細も記してあり、頼んだことをきっちりやり遂げた隠に小さく感謝する。
女の名前は蓬萊斗和。
階級は甲で歳は不明だが、岩から派生した土の呼吸を使うと書いてあった。
意識が戻ったならば、手合わせもできるだろう。
お館様に報告の文を、蓬萊に手合わせの文をそれぞれ出した。
お館様からはすぐ返信があり、蓬萊も呼び二人の口から直接聞きたいとのことだ。
それに階級が甲で下弦を倒したということは、当然ながら柱に昇格する。
だがお館様の文には、信じられないことが書かれてあった。
蓬萊斗和は、なんと二年も前から柱への昇格を断っていたらしい。
一度目は鬼を五十体倒した時。
二度目は下弦ノ陸を倒した時。
既に二度も辞退していると。
だから今回もきっと断るだろうから、自分にも後押しして欲しいと書いてあった。
柱ではないが警備区域は割り振られ、任務も柱同様のものに行っているとも書いていた。
率直に、何て奴だと怒りを覚える。
自分より先に柱になっていたはずが辞退、しかも二度も。
だが警備をし任務も柱同様、名前が柱でないそれだけの差である。
慢性的に柱が足りないというのに断るか?
訳が分からないおかしな女だ。
それから間もなく、蓬萊より手合わせの返信が来た。
鴉が足に携えた文はなぜか二本ある。
そこには先日の任務の礼、そして文が間違って届いたから返すと、出した文が戻ってきていた。
自分への手合わせの文を、間違って送ったと解釈するとは……
益々おかしな女だと思った。
こういうのは直接会わねば始まらない。
明日、本部で会うのだ。
逃げ隠れできやしないのだから、この目でしっかり見てやる。