お館様より文が届いた翌日。
本部に着くと、思いも寄らぬ人物がいた。
幸いその姿は遠く、あちらはこちらに気付いていない。
慌てて同行した隠に、着てる物を交換して私の代わりにあそこへ行かないかと提案してみた。
嫌だと即答されたが、どうか頼むと喰い下がる。
だってどうしたらいいの!
遠くからでも一目で分かる、色素の薄い白銀髪のその人。
正直なところ、あの人は苦手だ。
最初に登場した顔と行動が衝撃的で、恐すぎる人という印象しかない。
嗚呼…日影の存在で生きていくのは難しい。
波風を立てず、地味にさりげなくというのはやはりできないのか。
嫌だが、会ったらちゃんとこの前のお詫びとお礼をしなくてはならない。
でもどうしているんだろう?
柱だから、一般隊士の私なんかよりここには来ているだろうけども。
もしかして、返信した文に不手際があったのだろうか。
あ、もしかしてこの後柱合会議なのかな。
それにしては早すぎませんか風柱様?
まだ他の人は誰も来ていませんよ。
意外と集合時間のかなり前に来る、時間に厳しい性格なんだろうか。
人は見かけによらないって不死川さんの為にある言葉だよね…いやいやいやそんなことより!
そうぐるぐると深みに嵌まり、下を向き考えていると、ジャリッと音がした。
「「不死川様!」」
脇にいた隠二人の声に頭を上げる。
そこにいたのは、遠くにいたはずのその人だった。
驚愕し固まり動けない。
顔がまともに見られない!
「…っ…し、…かっ、風柱様!」
不死川さんと言いそうになり、慌てて訂正したのでかなりどもり声も上ずる。
「お前が蓬萊斗和…だなァ?」
カッ開かれ血走った両眼に射貫かれ、脇にいた隠に倣い膝を着いて頭を下げる。
「は、はい。蓬萊斗和と申します。その節は…おたす、お、お助けいただきありがとうございます」
先日の任務でのお礼を述べたが、緊張して自分が何を言ってるのか分からなかった。
もう二度と顔を上げられなさそうだ。
「あァ、意識が戻ってよかったなァ。…それより手合わせの件だが、何で文を送り返してくんだァ?お前宛だぞォ」
なんですと?
思わず頭を上げ、不死川さんを凝視する。
大きな傷が顔中にあり、血走った大きな目、長い睫毛、本の中にいた人が現実にいるとこうなのか。
やっぱり恐い!
下から見上げても恐いその傷だらけの顔は、呆れたように私を見下ろしている。
あれ、今意識が戻ってよかったなって言ったような……空耳かな。
「…いつまで跪く気だァ?畏まりすぎるんじゃねェ。俺らは…」
「失礼致します。不死川様、蓬萊様、間もなくお館様のお成りにございます。どうぞあちらへ」
不死川さんが何かを言いかけた時、背後から隠が来て所定の位置に促した。
言われるがまま踵を返す不死川さんの後に続く。
背中の大きな【殺】の字が、恐さを倍増させている。
皆【滅】なのに何で一人だけ【殺】なんだろう?
理由…何かあったかな?
◇
柱合会議の時のように、お館様への挨拶を述べる不死川さん。
その彼と離れて並び、正座して手をつき頭を下げる。
毎度思うが、高級そうないい玉砂利を敷いている。
正座してもあまり痛くないし、やはり気品溢れる神聖な場所に相応しい。
だからこそ、柱でもない私がこう何度も来ていいわけがないのだが。
炭治郎君たちが現れるまでは、主要な人たちとは極力接触は避けなければならないのに。
私が存在し関わることで、よくない方向に変化があっては困る。
お館様とはある程度面識がないと後々困るが、やはりあまり目立たないようにしないとならない。
そう思うのにこの状況だ。
「二人とも顔を上げて。変わらず元気そうで何より。さてまずは…先日斗和が倒した、下弦ノ弐と伍について実弥から話しを聞こうかな」
安定の穏やかな声色が心地よいけれども、お館様?
なぜ先日の話しを不死川さんに聞くんですか?
「はい。俺が駆けつけた時、まさに蓬萊により鬼二体が倒される瞬間でした。鴉から巻き添えを喰らわぬよう言われ、木の上で待機したのち殲滅まで確認済みです。先に現れた下弦ノ弐は弱体化していたとのことです。しかし、後に現れた下弦ノ伍と共に二体同時に倒すことは、熟練の柱でさえ困難です」
え!?
あれを見ていたの!?
私が失神した後に来たんじゃなかったのか!
「そうだね、十二鬼月を一人で二体同時には前代未聞だろう。そもそも鬼同士は対抗意識が強いから、同時に現れたのはかなり稀なことだ。その点からしても斗和はとてもよく頑張ったよ。だから…言わんとすることはわかるね?」
有無を言わさないお館様からの圧力がつらい。
やはり柱になれとのお達しか。
私は肩書きが柱でないだけで、柱が担当する警備区域も割り振られている。
おそらく任務も、柱が赴くようなものに行っていると思う。
それじゃだめなのだろうか?
柱合会議には出ないが、任務に重点を置いていれば問題ないはずだ。
現に断り続けていたこの二年間、問題らしい問題はなかった。
だけどこの雰囲気……
今まではのらりくらりあれこれ言い訳して辞退してきたけれど、さすがに今回は厳しいのかもしれない。
不死川さんを呼んだのは証人なのか。
だがやはり辞退したい。
「大変恐縮でございます。元より共に戦った仲間の力が大きく、私はとどめを刺しただけです。他の隊士は皆亡くなりましたし、私はまだ未熟であり、柱には相応しくないと思っております」
なんとか避けられないかと、あれこれ述べてみる。
「そう言って何年経つのかな?君は今度こそ柱になるべきだよ。殉職した子たちの為にもね。実弥もそう思うだろう?」
「はい、是非とも」
是非とも!?
思わず横を向き口元が引き攣る。
不死川さん、本当にそう思ってるんですか!?
私なんぞが柱にならなくても、不死川さんがいればみんな心強い限りですよ。
しかし困った、関わりたくないのに接近しているじゃないか。
だけどこの流れはもう断れない。
「…それでは恐れ多いことではございますが、謹んでお受け致します」
その言葉に、お館様も不死川さんも安堵した気配に変わる。
だがその後私が放った一言に、離れた場所にいた隠までもが驚愕した。
「ただし!……仮としてです。九人揃い次第退かせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
額を玉砂利に擦りつけ挨拶した。
顔を上げると、お館様は苦笑いしている。
「斗和は相変わらず一筋縄じゃいかないね。仮とは言うけれど、柱に変わりないからよろしく頼むよ。皆への就任披露は……必要無いようだね。それでは今より蓬萊斗和を土柱に任ずる。二人とも同い年だから、仲良く切磋琢磨してね」
就任披露と言いかけたお館様に、首を思いきり左右に振って不要と告げた。
その後お館様は、御息女二人に付き添われ屋敷内に戻って行った。
「御意。精進致します」
しばらく頭を下げたままでいたが、恐る恐る隣の不死川さんを窺う。
立ち上がりこちらに来るので、正座から片膝を着いた姿で改めて挨拶をする。
「仮ではありますが、これからどうぞよろしくお願いします」
「仮ってェのはどういうつもりだァ?前々から断って、やっと引き受けたら九人揃うまでときたかァ…おかしな奴だぜェ」
前々から断ってるの、何で知ってるんだろう。
お館様から聞いたのかな?
とにかくこの人に追及されては敵わない。
会話するのも恐いんだから、できるだけ関わらないようにしないと。
「…事情があるんです。では私はこれで失礼します」
「待てェ、失礼するんじゃねェ。一緒に来てもらうぞォ」
帰ろうとしたのに引き留められた。
失礼するんじゃねェって台詞、確か冨岡さんにも言っていた気がする。
そんなことを思っているあたり、私も案外呑気なんだろう。