※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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※前ページの実弥視点


おかしな女

蓬萊から文が送り返された翌日。

 

本部に行くと、隠から東屋に茶を用意していると誘導された。

まだ時間より早く、蓬萊の姿も無いので大人しく茶を啜り待つことにする。

 

暇さえあれば鍛錬するが、お館様の屋敷内でそれは憚られる。

辺りは静寂に包まれ、長閑だなと柄にもないことを思っていると背後が少し騒がしい。

 

なんだァ?

 

振り向くと門のすぐ傍で、隠二人に身振り手振りで何かを訴えている女がいた。

 

うなじの上で団子に纏めた髪、一般隊服姿、左頰の傷が見え、それが蓬萊斗和だと気付く。

 

来たな。

 

歩み寄る音に気付いた二人の隠が、自分に向かって膝を着いた。

 

「「不死川様!」」

 

その声に下を向いていた蓬萊は、弾かれたように頭を上げた。

俺を見て驚いたんだろう。

目を見開き、口も半分開いたまま動かない。

 

「…っ…し、…かっ、風柱様!」

 

どもり声は裏返るも、呼ばれた名前に眉を顰める。

し、と言いかけた。

不死川と言おうとしたのか?

 

「お前が蓬萊斗和だなァ?」

 

確認の為に聞くと、即座に膝を着いて頭を下げる。

 

「は、はい。蓬萊斗和と申します。その節は…おたす、お、お助けいただきありがとうございます」

 

またもやどもる。

緊張しているのだろうか。

 

「あァ、意識が戻ってよかったなァ。…それより手合わせの件だが、何で文を送り返してくんだァ?お前宛だぞォ」

 

そう言うと瞬時に頭を上げ、こちらを凝視する蓬萊。

この反応だと、自分宛だとは微塵も思わなかったのか。

 

それにしてもいつまで跪いているのか。

一般隊士でさえ柱に跪くなどしないのに。

 

「…いつまで跪く気だァ?畏まりすぎるんじゃねェ。俺らは…」

 

「失礼致します。不死川様、蓬萊様、間もなくお館様のお成りにございます。どうぞあちらへ」

 

“俺らは同等だ”と言おうとしたら背後から隠が来たので、言われるがまま踵を返す。

背中に視線を感じるのは、気のせいではないだろう。

 

柱合会議同様に、俺はお館様への挨拶を述べる。

 

蓬萊はと言うと、俺との間にゆうに七、八人並べるくらい離れ、正座し頭を下げている。

おい離れすぎだろォ、と思ったが口に出せるわけもない。

お館様を入れて、見事な正三角形になっている。

 

「二人とも顔を上げて。変わらず元気そうで何より。さてまずは…先日斗和が倒した、下弦ノ弐と伍について実弥から話しを聞こうかな」

 

「はい。俺が駆けつけた時、まさに蓬萊により鬼二体が倒される瞬間でした。鴉から巻き添えを喰らわぬよう言われ、木の上で待機したのち殲滅まで確認済みです。先に現れた下弦ノ弐は弱体化していたとのことです。しかし、後に現れた下弦ノ伍と共に二体同時に倒すことは、熟練の柱でさえ困難です」

 

「そうだね、十二鬼月を一人で二体同時には前代未聞だろう。そもそも鬼同士は対抗意識が強いから、同時に現れたのはかなり稀なことだ。その点からしても斗和はとてもよく頑張ったよ。だから…言わんとすることは分かるね?」

 

穏やかに、だがその声色には静かな圧が含まれている。

柱になれと告げているのだ。

 

これで三度目のようだし、十二鬼月を二体も倒してさすがにもう断るなどしないはずだ。

万が一断るなどしたら誰も納得しない。

勿論俺もだ。

 

蓬萊が口を開くのを、今か今かと待ち構える。

 

「大変恐縮でございます。元より共に戦った仲間の力が大きく、私はとどめを刺しただけです。他の隊士は皆亡くなりましたし、私はまだ未熟であり、柱には相応しくないと思っております」

 

こいつまたかァ!

 

思わず左に首を振って蓬萊を凝視した。

 

柱に相応しいから、こうしてわざわざお館様が直々に……!

 

「そう言って何年経つのかな?君は今度こそ柱になるべきだよ。殉職した子たちの為にもね。実弥もそう思うだろう?」

 

先程より圧を増した声色に、即座に返答した。

 

「はい、是非とも」

 

すると左から視線を感じる。

逃れられないと悟ったのか、蓬萊は渋々ながら口を開いた。

 

「…それでは恐れ多いことではございますが、謹んでお受けします」

 

それを聞いて、周囲が安堵の雰囲気に変わる。

 

全く、さっさと二つ返事で受ければいいものを。

 

「ただし!……仮としてです。九人揃い次第退かせていただきます。どうぞよろしくお願いします」

 

いきなり声を張り上げ、額を玉砂利に擦りつけた女。

その声に、離れた場所にいた隠までもが驚愕した。

 

今なんと言った?

仮?

九人揃ったら辞めるだと?

 

「斗和は相変わらず一筋縄じゃいかないね。仮と言っても、柱に変わりないからよろしく頼むよ。皆への就任披露は……必要無いようだね。それでは今より蓬萊斗和を土柱に任ずる。二人とも同い年だから、仲良く切磋琢磨してね」

 

就任披露と言いかけたお館様に、首を思いきり左右に振る蓬萊。

その後お館様は、御息女二人に付き添われ屋敷内に戻って行った。

 

「御意。精進致します」

 

頭を下げたままの蓬萊に近付くと、正座から片膝を着き挨拶される。

 

「仮ではありますが、これからどうぞよろしくお願いします」

 

「仮ってェのはどういうつもりだァ?前々から断って、やっと受けたら九人揃うまでときたかァ…おかしな奴だぜェ」

 

本当におかしな奴だ。

何を考えいるのかさっぱり分からない。

 

柱の何がそんなに嫌なのか。

普通なら、強い柱となり鬼を殲滅したいと思うはずだ。

この女の実力はこの目で見ている、間違いない。

 

実力はあるが、上に立つのを嫌っているのか?

 

「…事情があるんです。では私はこれで失礼します」

 

「待てェ、失礼するんじゃねェ。一緒に来てもらうぞォ」

 

俺は帰ろうとする蓬萊を引き止めた。

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