本部を出た直後、蓬萊に着いて来いと言い、自らの屋敷に向かった。
元忍の音柱・宇髄天元程ではないが、柱は全員足が速い。
こいつの足はどの程度なのかと思い、確かめることにした。
最速で駆け抜けると、始めこそ全くだったが、少しすると後ろに気配を感じる。
一瞬振り返れば、蓬萊の姿が目に入る。
見える範囲に来ているが、微妙だな。
この時はそう思ったが、実は蓬萊は平坦な道より山越えなどの難所が得意だった。
後日それを目の当たりにする。
◇
先に着き、間もなく到着した蓬萊はほんの少し息を切らしている。
柱の癖に息切れなんぞするんじゃねェ!と言いたかったがやめた。
すると珍しいのか、門を見たり塀を見たりと忙しなく頭を動かす。
「遅くてすいません。あの、ここは風柱様のお屋敷ですか?」
「あァ…その風柱様ってのやめろォ、同じ柱だろうがァ」
こいつはどうも畏まりすぎる。
同じ柱なのに、様なんて付けていたらおかしいだろうが。
苛立ち、乱暴に門に手を掛け中に入る。
「分かりました、お邪魔します不死川様」
「だからその様付けをやめろっつってるだろォ!ついでに敬語もだァ」
だからどうして様を付けるんだ。
立場も同じ、ついでにどうやら同い年のようだし尚更敬語も不要だ。
苛立ちが抑えきれず睨むが、蓬萊はあからさまにたじろぎ目を逸らす。
「でも私は柱と言っても仮ですし、いろいろと恐れ多くてですね…」
ボソボソと情けないことばかり口にされ、もう我慢ならなかった。
あの時倒れていた女がどんな奴かと思いきや、こんなにも情けないことばかり言うとは。
この女が下弦を二体討ったのを見たはずなのに、まるで幻だったのではないかと思ってしまう。
この女があの技を繰り出したのは間違いないのに。
だが目の前の女はまるで別人だ。
覇気もなく、言うことも後ろ向きなことばかり。
これが柱?
ふざけている。
「蓬萊、てめェはやけに自分を卑下してるようだがそんなんで柱が務まんのかァ?謙遜のつもりか知らんが度が過ぎてうぜェ。実力があろうと、この先もそれじゃあ他の隊士に示しがつかねェ。…今から俺と手合わせしろォ、その根性たたき直してやらァ」
庭に向かう後ろを着いては来るが、おどおどした気配を強く感じ舌打ちする。
◇
蓬萊は軽く投げた木刀を受け取ると、背負っていた日輪刀を離れた場所に置いた。
構えた瞬間に打ち込んだが、受けるだけで全くやり返して来ない。
「てめェ本気でやってんのかァ!?柱がそんな腑抜けでどォすンだァ!!」
辺りに響く怒声に、蓬萊はみるみる顔を歪め今にも泣きそうになっていく。
それと同時に力も弱くなり、受けきれない打撃がその体に入る。
我慢の限界だった。
「いちいち動揺してんじゃねェ!」
こんな茶番は終わらせるつもりで、蓬萊を吹っ飛ばし腕で塀に叩きつけた。
「いい加減にしやがれ!!てめェは偽モンかァ!?下弦を二匹も討った女はどこに消えやがったァ!……こんな奴と手合わせしようとした俺が馬鹿だった…もういい、とっとと失せろォ!!」
言い知れぬ怒りが体を支配していた。
こんなはずじゃなかった。
想像していたのとはまるで違っていた。
あの光景は目に焼きついている。
信じられない力だと身震いした。
あの強さはどこから来るのか気になったから、手合わせを頼んだ。
なのに自分に一太刀も浴びせず、ただ受けるばかりの女。
怒声に肩を竦め、怯えて何もできなくなる女。
心底呆れ果てた。
その時だった。
背後に寒気が走り振り返った瞬間、重い打撃が木刀に響く。
ビリビリと強烈な感じたことのない痺れが手のひらに伝わり、思わず舌打ちが出た。
何度も何度も繰り返し打ち込まれ、木刀を掴んでいられず手放す。
手の感覚がまるで無ェ…!
手の痺れが酷く、思わず顔も歪む。
何だこれは?
土の呼吸なのか?
刀を手放したので、こちらから打ち込むことができない。
するといきなり蓬萊の姿が視界から消えたと思ったら、姿勢を低くし何か新たな技を撃つ。
思わず跳び上がり下を見れば、地面が雨降りの泥濘(ぬかるみ)に変化している。
いやこれは残像…!
そう思った瞬間、脇腹を叩きつけられ地面に転がった。
「!」
この女、先程までとは全く違う動きだ。
怯えきった表情など消え去り、凛としてこちらを見つめている。
まるで人が変わったかのようである。
一体何なんだこの女は。
どれが本当のこいつの姿なんだ?
訳が分からない。
しばらく言葉もなく目を合わせたままだったが、沈黙を破ったのは蓬萊だった。
「今日は見苦しいとこばかり見せてすみませんでした!稽古をつけていただき感謝しています。もっと精進します。だからま…」
なぜだか蓬萊の顔を見ることができず、俯いていた。
「あ、あの…木刀ありがとうございました。…ではこれで」
木刀を押しつけるように返してきたので受け取り、ぼんやりとその姿を目で追った。
それが土柱・蓬萊斗和との出会いだった。