進行
「冷たいの持ってきたから休憩してー!私はもう帰るけど、任務気を付けてね」
道場を覗き、笑顔を見せる夏世。
佳成は弾けるように駆けて行く。
それを見た斗和は、暑さが増した気がした。
額の汗を拭うと、斗和は「ハァ…」とため息が出た。
佳成と二人で打ち込み稽古をしていると、どうしても先日の実弥との手合わせを思い出すのだ。
まさか柱になった直後に、実弥と手合わせするとは思わなかった。
斗和は、柱の中では実弥が一番苦手だ。
終始畏怖して縮こまる斗和に対し、相当怒っていた。
斗和は、自分が実弥の最も嫌う部類の女だろうと思っている。
斗和自身、客観的に見て自分が嫌いだった。
何かを決意するも、いざとなると怖じ気づき、判断は遅いし弱い。
「師範!早くこっちで休みましょう。この前から変ですよ?せっかく柱になったのに、どうしたんですか?」
ぼんやりしていた斗和に、戻ってきた佳成は心配そうな表情をする。
斗和は佳成と夏世に柱になった報告をした。
二人は喜んだが、斗和は複雑だった。
斗和は、これまで二度も柱を断っている。
この度三度目の正直とでも言うべきか、ついに柱になった。
輝哉に会うまでは断る気満々だった斗和だが、実弥がいた為に受けることとなった。
(でも不死川さんがいようと、もう断ることはできなかったんだよね)
実際問題、来年には物語が始まる。
無惨が炭治郎の一家を襲う。
そうなれば後戻りはできない。
斗和が成し遂げたいことを実行するには、一般隊士のままではいられないからだ。
柱を担うのは、九人揃うまでと宣言した。
それまでは、精一杯務めるしかないのだった。
「そういえば佳成、夏世ちゃんから聞いたよ。階級上がったんだって?だから最近遠方任務が増えたのかもね」
「はい、
しょんぼりと項垂れる佳成を見て、斗和は苦笑いする。
(あーあー寂しそうな顔しちゃって)
「大好きな恋人だもん。そりゃあ毎日会いたいよねえ?私が遠方任務だと都合がいいのにね!」
斗和がにやりと笑ってみせると、佳成は顔を赤らめた。
恋愛はいいな…と斗和が思っていると、佳成が反撃する。
「そう言う師範はどうなんですか?いないんですか?気になってる人や好きな人!」
(好きな人?気になっている人?)
まさか継子から恋愛話しをされるとは思わず、斗和は言葉が出てこない。
斗和が助けたいのは煉獄杏寿郎なので、すぐに思い浮かんだのは彼だった。
(二年前に会った煉獄さん、格好よかったなー!)
思い出すと自然と口端が持ち上がる。
最初に父の槇寿郎を見た時、斗和は杏寿郎だと思った。
後ろ姿が瓜二つだからだ。
(どこから見ても似てるけど、後ろからは本当に違いが分からない。なんだか懐かしいな…)
二年前、杏寿郎は十五歳だった。
今は十七歳になっているはずだ。
そういえばと、斗和は脳内の時系列を辿る。
杏寿郎が柱になるのはそろそろではないかと思った。
「ちょっと師範!聞いてますか?」
「えっ?あ、好きな人ね…」
佳成の声で斗和は現実に戻される。
(そういえば煉獄さんと佳成って同い年だな。面識はないかな?)
「ねえ、煉獄さんて知ってる?」
「煉獄、って煉獄杏寿郎ですか?一ヶ月前に行ってた富士の樹海での任務、一緒でしたよ」
「そうなの!?煉獄さんと共同任務したんだ…」
斗和は驚く。
まさか佳成が杏寿郎と共同任務に行っていたとは思わなかった。
普段から任務のことを互いに話すことはあまりないので、聞かなければ知らないままだ。
杏寿郎の階級は、甲まで上がっているのだろうか。
甲の時点で継子の甘露寺蜜璃がおり、そして槇寿郎の代わりに柱合会議に出た。
その後、下弦ノ弐を倒して柱になった。
それらは斗和が知っていることだ。
だが、何歳で柱になったかが分からない。
柱は斗和以外増えていない。
今現在いる柱は、岩柱、音柱、水柱、風柱、蟲柱、そして土柱の斗和だ。
柱合会議での顔ぶれを見る限りでは、やはりそろそろではないかと思った。
斗和が押し黙るのを見て、佳成はもしやと勘付く。
「もしかして、煉獄杏寿郎が好きなんですか?」
「え…あ…」
「確かにあの人強いし明るいし、みんなに慕われてますからね。成程、師範はああいう男が好きなんですね」
口端を上げる佳成は、楽し気である。
斗和は普段、夏世との熱愛ぶりをからかっている。
それがいざ自分となると、非常に恥ずかしかった。
誰にも言わないでよと強く訴えると、斗和は夜からの任務へ向かった。
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翌朝帰宅し布団に入った斗和は、しばらく見なかった以前の夢をみた。
映画館、たくさんの人、皆が手に持つ小冊子。
いつもここで切り替わる場面が今回は変わらず、はっきり見えたその姿。
(煉獄さん…?)
斗和は、靄がかかっていた脳内が少しずつ晴れていく。
(あれは、あの時観ようとした映画。あの時…?観ようとした…?私はこれを観たの?……分からない。あの時、あの時って…?)
晴れそうな靄は半端なまま、ズキンと頭痛がし同時に場面が変わる。
またも机の上に白い紙がある。
差し出す手は男の手だ。
斗和はとても嫌な気持ちになり、そこで夢は途切れた。