斗和は急いで家に戻り、まずは水を飲もうと台所に行く。
すると、先に帰っていた佳成が風呂から上がってきた。
「お疲れ様です!風呂どうぞ。…やけに息を切らしてどうしたんですか?」
「お疲れ様!昼から柱合会議なの。それでお館様や皆に野菜をお裾分けしたいから、今から掘り起こさなきゃならなくて。急いで走ってきたんだけど、間に合うかな!?」
「じゃあ早く夏世を呼んで手伝ってもらいましょうよ。俺の鴉を飛ばしますから」
佳成は早速鴉に伝え、自らも着替え畑に入った。
風呂に入ったばかりで、これから仮眠をとるはずが狂わせてしまった。
斗和は申し訳なくて謝る。
「いいですよ。師範こそ、準備できたら風呂入って少しでも休んで下さい」
佳成の気遣いに、斗和は重ねて感激した。
しばらくすると鴉に呼ばれた夏世も到着し、三人がかりで掘り起こし洗い荷車に詰んでいく。
さつまいも、馬鈴薯、人参、牛蒡、大根、小松菜、葱の七種類だ。
斗和はそれらを見て、「えーと」と指を折っていく。
(まずお館様、宇髄さん、冨岡さん、胡蝶さん、悲鳴嶼さん、不死川さん…あとはいるか分からないけど煉獄さんの七人)
そして麻袋を七枚用意した。
するとそこで考え直す。
野菜はこれだけの量があるので、それぞれ好きなくらい持って行って貰う方がいい気がしたのだ。
袋は七枚だけでなく、たくさん持って行くことにする。
柱には会議の後であげることにし、産屋敷家の分は袋に詰めて隠に頼むことした。
そしてもし杏寿郎がいるあの会議ならば、先に帰ってしまう。
この場で詰め、帰りに渡して貰うことにした。
斗和は麻袋を広げ、あれもこれもと入れていく。
(下には重いのを…まずはさつまいもでしょ。さつまいもは煉獄さんが好きだから、たくさん入れなきゃね。そしたら次は……)
気付けば予想以上に大量になってしまった。
「あれ斗和ちゃん!こりゃ運べねェんでねが?袋がらはみ出てるべ(斗和ちゃん!これは運べないんじゃない?袋からはみ出てるよ)」
斗和は夏世に指摘されたので持ってみると、かなり重い。
(これ煉獄さん持って帰れるかな?)
そしてなんとか準備が出来た。
三人がかりだと早く終わり、斗和は素早く風呂に入って仮眠をとった。
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「…ちゃーん!斗和ちゃん、起きて」
「…んー…はぁーい!」
斗和は夏世に起こされ、一般隊服に着替えると髪を結ぶ。
新調した浅緑の羽織に袖を通すと、気分も高揚した。
(化粧は……不要か)
鏡を見て小さなため息が漏れる。
化粧をしても醜い顔は変わらない…斗和はそう思った。
本当に一人で運べるのかと心配する二人を余所に、斗和は勢いよく荷車を引いて本部へ向かう。
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斗和は、何度か迂回をし本部に到着した。
柱は本部の場所を知らされているが、最短で来るのではなく、複雑に迂回をして来るようにと言い渡されている。
野菜が満載された荷車を引いて迂回するのは大変だったが、杏寿郎に会えるかもしれないと思うと苦にならなかった。
さて入ろうとするも、斗和は門の前で立ち往生してしまう。
荷車ごと中に入りたいのだが、段差がある場所は簡単に越えられない。
門から中を覗くも近くに隠はおらず、斗和はどうにか一人でと後方へ回ろうとした。
(ここを持ち上げて押せば…)
するとその時、突然車輪が持ち上がり楽々と門の中に荷車が入った。
背後から巨体が現れる。
巻き付けられた大きな数珠、全盲。
岩柱の悲鳴嶼行冥がそこにいた。
行冥は鬼殺隊最強であり、斗和の継子・佳成の元師範だ。
そしてその強さは斗和の憧れなのだ。
(うわぁ……すごい、あの悲鳴嶼さんが目の前にいる!大きい…)
長年憧れを抱いていた男を前に、斗和は動悸がしてくる。
行冥のように強くなりたいと思い、岩の呼吸を会得したかった。
それは叶わなかったが、土の呼吸を派生させ柱にまで上り詰めた。
つまり今の斗和がいるのは、行冥のおかげと言える。
「岩柱様!お助けいただき、ありがとうございます。これら野菜は後程皆様にお配りしますので、お持ち帰り下さい。ご挨拶が遅れました。初めまして、蓬萊斗和と申します」
斗和は深々と頭を下げる。
すると行冥はしばらく沈黙した後、嗚呼…と口を開いた。
「蓬萊斗和、土の呼吸の使い手……館坂佳成は元気でやっているか?」
「はい!佳成は最初こそ殻から抜け出せずにいましたが、その後は順調に呼吸を会得しています。型はほぼ全て撃てます。階級も上がりました。岩柱様のところで鍛えられたのがよかったのだと思います。本当にありがとうございます!」
佳成のことを聞かれ、斗和は嬉しくて満面の笑みで答える。
「あの、いつか私に稽古をつけて貰えますか?お願いします!」
ついでに稽古まで願い出る。
図々しいと思うも、せっかくの機会を逃してはならないと思った。
「稽古…考えておこう。岩の呼吸は派生も少なく、使い手も限られていた。そのような中で呼吸を派生させ、継子を育てた蓬萊の努力は報われるであろう」
行冥は両眼からツーと涙を流す。
(悲鳴嶼さん、泣いてるんですか!?なんて涙脆い!しかも努力は報われるというありがたい言葉まで…さすがです!)
斗和は無意識に手を合わせ、行冥を見つめる。
傍から見ると妙な光景だ。
その時、門の上から人が現れた。
門が開いているのに、わざわざ上から現れたのだ。
「何だこの荷車?お、悲鳴嶼さんよ、久しいな。……ん?お前は芋娘!」
「宇髄か、久方ぶりだ」
「ご無沙汰しております、宇髄さん」
(また芋娘って言ったな、派手柱め!)
斗和は内心舌打ちしながらも、にこやかに丁寧に挨拶する。
顔を上げると既に行冥はおらず、天元は荷車と斗和を交互に見ながら顎に手を遣った。
「この大量の野菜は何だよ?…お前が野良着じゃねえの珍しいけどよ、いつでも地味だな」
「これはうちの畑で穫れたものです。後で皆さんにお配りしますから、持って帰って下さいね」
淡々と答えた斗和は、荷車を引いて奥へ行こうとしたがびくともしない。
振り返れば、天元が手を掛けいるではないか。
「ちょっと放して下さい!」
「いーやそうはいくか!芋娘、お前俺に嘘吐いただろ!?」
天元は斗和をじっと見据える。
無視して行きたいところだが、斗和は観念して荷車から手を放した。
「…嘘?嘘なんて吐いては…」
しらばっくれようと視線をあちこちに向けるも、天元からの圧は弱まらない。
柱になれば、いつかは追及されると思っていた。
斗和は昨年、天元に会った時に嘘を吐いたのだ。
「お前な、この後に及んでまだしらばっくれる気かよ?下弦を倒したのに柱にならなかった隊士ってお前だよな?しかもその前にも鬼を五十体倒してるそうじゃねえか。で、数ヶ月前に下弦を二体倒したのもお前で、やっと柱になったんだろ?」
そうだよな?と、天元は凄む。
荷車から手を放さないその顔は真面目で、斗和は驚く。
怒ったのかもしれない。
確かに嘘を吐いたが、天元に教えると周囲がざわつきそうで言わなかった。
「それによ、お館様の文で知ったが、お前は俺と同期らしいじゃねえか。全然気付かなかったぞ」
「気付かないのは、私が地味だから宇髄さんの眼中に入っていなかったんでしょう?それに、柱の前で実はあなたと同期なんですとはなかなか言えませんよ」
斗和は、なぜ天元がこんなにも詳しく知っているのか気になった。
考えられるのは、斗和が柱を受けた際に、耀哉が他の柱にも報告していた可能性がある。
経緯をかなり詳しく知ってるので、それ以外考えられない。
「柱については引き受けはしましたけれど、いずれ九人揃いますからその時は退かせて貰います」
斗和の言ったことに、天元は眉を顰める。
「…歴代の柱でさえ九人揃うことは滅多になかったらしいが、揃う時が来るとでも?」
(まずい!いずれ九人揃うと口に出してしまった)
だが斗和は、必ず揃う日が来ることに嘘は言えなかった。
「揃いますよ、いつかきっと」
真剣に天元を見据えると、彼は荷車から手を放して消えてしまった。
やはり怒らせてしまったかもしれないが、斗和はまあいいかとふーっと息を吐いた。
この時、天元が何を思ったかは分からない。