「半年ぶりだね、私の可愛い
いよいよ始まった会議に、緊張が高まる。
斗和は義勇の隣の一番端に控えているが、右の視界に杏寿郎が映っている。
緊張に動悸も激しくなるが、平常心を保とうとする。
話しが進み、実弥が杏寿郎を威嚇する。
止めたいと思うも、どうにもならず見ているしかできない。
この後に加入する三人にも、実弥は同じことをしているのではないか?と思った。
さすがに女の蜜璃には殴るなどしないだろうが、威嚇するかもしれない。
その時は全力で止めなければと誓う。
杏寿郎はよく通るいい声をしている。
柱と耀哉を前に、堂々と発言できる度胸には感服するしかない。
自分とは雲泥の差だなと、斗和は内心ため息を吐いた。
やはり槇寿郎は酒浸りであった。
よく十年もやさぐれていられるものかと思う。
ホイホイなれるほど柱は甘くない、そう言った実弥の言葉には重みがあった。
斗和は、実力も無いのに柱になってしまったと思っている。
杏寿郎は自信に溢れており、有言実行である。
さすがだと頷いていると、実弥が杏寿郎を足蹴にした。
(この野郎…後ろから殴ってやりたい)
斗和は怒りが込み上げる。
しかし杏寿郎の受け躱しが素晴らしく、尊敬するしかなかった。
殴りかかる相手に"ありがとうがんばるよ"とは、なかなか言えない。
まだ十代だというのに、実際目の当たりにした杏寿郎は言葉にならなかった。
尊敬、素晴らしいをいくら並べても足りない気がした。
片や…と、斗和は実弥に目を向ける。
柱が一般隊士にいきなり殴りかかるとは、どういうつもりなのか。
耀哉にも注意され、恥ずかしくはないのだろうか。
(お館様は穏やかに注意してるけど、私ならコラーッ!て頭叩いちゃうかも…)
そもそも実弥は、炭治郎がいたあの柱合裁判でも一人騒いでいた。
落ち着きがないのか我慢ができないのかは分からないが、心証が悪い。
考えがありしたことだとしても、斗和には理解できなかった。
「自身が柱足りえるというならば、言葉だけでなく実績で。そうすれば自ずと皆認めてくれる。君の実力を示しておいで、杏寿郎」
「はいっ!」
ついに杏寿郎が下弦ノ弐の討伐に向かう。
そういえば、と斗和は思い出す。
三度目の柱の打診を受ける際、下弦を二体倒した。
鉢駒(はつこま)と言う子供の鬼は、下弦ノ弐だった。
入れ替わりが激しいのは下弦だけで、上弦は百年以上も変わりがない。
簡単に柱を屠(ほふ)る上弦に立ち向かう未来が、そこまで迫っている。
斗和は更に強くならなければと、ここでまた新たに決意する。
杏寿郎は、一度も斗和の方を見なかった。
挨拶をしていないので当たり前だが、僅かに寂しさを感じる。
(野菜、重いですが持ち帰って食べて下さいね)
斗和は、去る杏寿郎の後ろ姿にそっと話し掛けた。
横から、"ありえねえ…なんで…"とぼやく実弥の声がする。
「お館様には、あの青年が十二鬼月を倒す未来が見えるのですか?勘…ですかな」
行冥が耀哉に問う。
「勘というより確信に近いものを感じるんだ。煉獄杏寿郎、あの子は近いうちに鬼殺隊の運命を変えてくれる一人になる」
斗和は頷いた。
杏寿郎は鬼殺隊の、そして炭治郎たちの手本になる素晴らしい柱になる。
(絶対に助けるんだ……!)
「蓬萊、お館様が呼んでいる」
隣の義勇から羽織を引っ張られ、我に返る。
「はっ、はい!すみません」
「さっき斗和の畑で作った野菜を見たよ。どれも見事な出来栄えだ。早速夕餉にいただくよ、ありがとう」
耀は斗和に微笑んだ。
斗和は感極まり、泣きそうになる。
「はい!お館様が畑付きの家を下さったおかげです。是非召し上がって下さい!皆さんの分もたくさんありますから、お持ち帰り下さいね」
その後は、一通り任務や警備の報告をして解散となった。
いよいよ荷車を囲み、それぞれ麻袋に詰め始める。
斗和は野菜の保存方法や、保存食の作り方を説明する。
「基本的に、牛蒡、人参、大根は乾燥しないように袋に包んで冷所へ。じゃがいもやさつまいもは風通しのいい場所へ。味噌大根はお握りにも入れられるし、作っておくと便利ですよ」
「お前よく知ってるなあ。これ毎年作ってんのか?忙しいのにどうやったらこんなに作れるんだ?」
天元がじゃがいもを詰めながら言う。
「最初のうちは一から全部一人でやっていました。でも忙しくなって手が掛けられなくて、今は藤の家から人を雇って畑を頼んでいるんです。時間を見つけて私もやりますけど、とにかく草取りが大変ですね」
「さすが芋娘!いつも野良着なのはそのせいだったのか。俺はお前が一般隊服なのを初めて見たぜ」
斗和は普段は野良着隊服だが、本部に来る時だけは一般隊服を着用している。
「お館様の御前では、さすがに野良着は着られませんからね。でも、あれもちゃんとした隊服の生地を使っているんですよ。縫製係の前田さんて人が作ってくれて…」
「あら、宇髄さんと蓬萊さんは前からお知り合いなんですか?」
前田の名前が出たとたん、しのぶが遮るように横から話しに入ってきた。
「まあな。一応同期で、任務も一度一緒だったんだよ」
「あらそうなんですか!同期で同じ柱になるなんてご縁があるんですね。……ちょっと冨岡さん、そんなに大根ばかり詰めないで、他のも入れたらどうです?こんなにあるんだから」
義勇はしのぶの隣で大根ばかり詰めている。
隙間に牛蒡と人参が入っているが、九割が大根だ。
「……たくさんだ。蓬萊、感謝する」
「どういたしまして。今度食べた感想を聞かせて下さいね」
義勇はいち早く去って行った。
今は鮭の季節なので、おそらく鮭大根ばかり作るつもりだろうと斗和は推察する。
思わずふふっと笑みがこぼれた。
それと同時に疑問が湧く。
鮭大根はどうやって作るのか、斗和は知らないのだ。
そして義勇は料理ができるのか。
すると、詰め終わったしのぶと行冥が礼をして帰って行った。
残っていた天元は、二袋目がそろそろ満杯である。
「俺は嫁の分もだから多くなっちまって悪いな。そーいや不死川、お前は?いらねえの?」
天元が、荷車から離れてやりとりを見ていた実弥に声を掛ける。
「この後こいつと手合わせするから、そん時でいい」
斗和は間髪入れず、"いやあなたも今すぐ詰めてお帰り下さい!"と内心で叫んだ。
口に出したいが、出せないもやもやが募る。
「へェいつの間にそんな仲になったんだ?っと、よしこんなもんだな!じゃあこれとこれ貰ってくぜ、ありがとな」
天元は両腕にそれぞれ野菜を詰めた麻袋を抱え、素早く帰って行った。
荷車を見ればまだ残っている。
(よかった、隠の人達にもあげられる。あとは…)
斗和はちらりと横目で実弥を窺う。
「不死川さんはどうしますか?詰めますから言って下さい。残ったのは隠にあげて、荷車は空にしますからね」
「任せるから適当に詰めろォ」
適当って言われるも、斗和は困る。
さっさと自分で詰めて欲しいと思いながら、適当に全て二本ずつ詰めた。
「じゃあ二本ずつ詰めますからね。あっすいませーん!野菜残ったので取りに来て下さい」
遠くにいた隠二人を呼び、残りは全て麻袋に詰めて貰った。
見事にすっからかんになった荷車を見て、斗和は満足感が込み上げる。
思いがけず皆にお裾分けできたのはよかった。
殆ど畑管理の夏世が作ったようなものだが、自らの畑で作ったというのが感慨深い。
(来年もまたあげられるといいな)
「おい、もう行くぞォ」
その声に現実に引き戻される。
忘れていたが、今からまた風柱邸に手合わせに行かねばならなかったのだ。
斗和は気が重い、嫌だと思いながら荷車に手を掛けた。