※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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稽古の心得

本部を出ると、実弥は先立って荷車を引いた。

 

斗和はいたたまれず、自分が引くと行ったのだが、"女に引かせてその横を手ぶらで歩けるか!"と一蹴された。

斗和は全く気にしないのだが、実弥は周囲の目が気になるのだ。

仕方なくそのまま頼むことにした。

 

実弥の分の麻袋だけが乗っている荷車は、行く時とは大分違って淋しそうに見えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

道中何の会話もない二人。

 

隣にいるのが村田ならば楽しいのに、と斗和は口を尖らせる。

同い年でも、実弥だとどうしても萎縮してしまう。

 

やはり最初の出会いがよくなかったからだと思った。

運んでくれた礼も未だにしていない。

今ここにおはぎがあれば渡せるのにと考えるが、生憎無い。

 

斗和はそっと隣を窺うと、実弥はまっすぐ前を見ている。

端正な横顔は何を思うのか。

 

実弥は父親が死んだ時、荷車を引きながら弟の玄弥に"家族は俺たちで守ろう"と言った。

だがそれから、母親が鬼となり子供達を襲った。

その母親を殺したのは実弥だ。

玄弥に"人殺し"と言われた。

 

実弥はどんな気持ちだったのか。

 

斗和には想像もつかなかった。

到底耐えられないと分かる。

それを実弥は乗り越え自力で鬼退治をして、鬼殺隊に入った。

過去があるから今がある。

だがそれらはあまりにもつらく、悲しい。

 

家族は生きており、たまたま以前の記憶を戻した斗和とは、覚悟も想いも何もかも違っている。

斗和は、それが不安と迷いとなっているのも分かっていた。

いつまでたとうと生温いと自嘲するしかなかった。

 

実弥は、斗和のような女をどう思っているのか。

一番嫌いなのではと思った。

 

だからこそ疑問だ。

なぜ稽古をつけようとするのか。

根性を叩き直すとは言っていたが、直ったと思うまでずっと続くのか。

 

(それは嫌だ!)

 

「何睨んでやがる」

 

ふいに実弥が斗和を見た。

 

「睨んでません。あの家の塀を見ていたんです」

 

斗和は、実弥を通り越した先の塀を指差し答える。

苦しい言い訳だ。

実弥は面白くなさそうにまた正面を向いた。

 

 

 

 

───────

──────

風柱邸に到着すると、門の両側を開けて荷車を中に入れる。

野菜の入った麻袋を抱えた実弥は、庭で待っていろと告げ玄関へ向かう。

 

荷車もついに空になり、斗和は満足そうに頷いた。

 

(これ、持ち上げられるかな?)

 

会議が始まる前に、行冥は野菜を詰んだまま車輪を持ち上げた。

空であれば斗和にもできると思った。

 

「っ、と!」

 

荷台に手を掛け踏ん張る。

すると、ぐーっと持ち上がるではないか。

 

(お!いけるいける)

 

最近では甕(かめ)を運んだりする力仕事は、全て継子の佳成がやっていた。

斗和はここしばらく、重い物を運んでいない。

前は何でも一人でやっていたのに、今は大分楽をしていると反省中だ。

とにかく鈍ってたらどうしようかと思うも、持ち上がり安堵した。

 

(次は片手で…)

 

「何してんだァ?早く庭に来い」

 

玄関から出てきた実弥に不審な目を向けられ、慌てて庭へ行く。

 

 

 

 

◇

斗和は渡された木刀を構える。

二度も醜態は晒せない。

本気で立ち向かわなければ、前回と同じになってしまう。

 

(相手は不死川さんじゃない、無惨だ。無惨だと思え!!)

 

 

 

 

────────

───────

数刻後、斗和の木刀が割れたのを機に今日の手合わせは終わりとなった。

 

茶を持ってくるから休んで行けと言われ、斗和は縁側に腰を降ろす。

 

今日はなんとかまともに打ち合いができた。

普段は佳成とばかり稽古をしており、斗和はそれに慣れて単調になっている。

 

実弥は遥かに速く、鋭い打撃と風圧で身のこなしも軽い。

ついていくのが精一杯だった。

柱稽古で炭治郎たちがボコボコになっていたのは、大袈裟ではない。

本当にそうなる。

さすがに失神したら一区切りではないが、休み無く打ち込まれそこかしこが腫れた。

最後は風の呼吸により木刀が割れたが、もし木刀でなく真剣だったらどうなっていたのか。

 

斗和は苦笑いするしかない。

 

(…やっぱりしっくりこないな…)

 

木刀を握っていた手のひらを見つめる。

斗和は木刀が好きではなかった。

軽すぎて手に馴染まず、技を出しても威力が弱い。

やはり適度な重みのある鍬や、特注日輪刀が一番合っている。

 

斗和は、今度は鍬を持参しようかと考えた。

実弥ならば全部避けるだろうし、大丈夫だろうと安易な考えである。

 

汗を手拭いで拭いていると、実弥が茶を持ってきて隣に置いた。

水とおしぼりも一緒にあり、気が利く男だと感心する。

この屋敷に隠は常駐しているのだろうか。

斗和のような小さい家には不要だが、こんなに広いならば管理も大変だ。

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

おしぼりで手を拭くと、斗和はまず水を飲み干し、茶を啜る。

 

(ああ美味しい。体に染み渡る)

 

隣に座る実弥も茶に手を掛けている。

 

「ここには一人で住んでいるんですか?弟子や継子はいないんですか?」

 

「隠が出入りして家の管理はしているが、弟子も継子もいねェ」

 

実弥の返答に、斗和はやっぱりいないのかと思った。

柱の中で継子がいるのは、しのぶと杏寿郎だけである。

行冥は、佳成と師弟関係を解消してからはいないのだと思われる。

義勇も当然おらず、天元は謎だ。

 

実弥に教えを請えば強くなるだろう。

だがいかんせん恐ろしい。

恐怖しかない。

善逸のように逃げ出すに決まっている。

 

斗和は、"ギャアアアアアンヌ"と叫ぶ善逸の姿が脳裏に蘇り、吹き出しそうになる。

 

「お前もいねェだろォ?」

 

尋ねてくる実弥に対し、斗和は顔が引き攣ってしまう。

 

(まあいるように見えないよね。あんなに打ち込まれて情けない女に。でも…)

 

「実は…一年と少し前に志願者が来ました。悲鳴嶼さんの継子だったこともあり、いろいろ考えた結果受け入れました」

 

実弥が驚いた表情になるのも当然である。

斗和本人も相当驚いたのだから。

 

「悲鳴嶼さんの元継子ってことは男だよなァ。どんな稽古つけてんだか見てェが…。どうなんだよ、そいつは?」

 

「最初はかなり苦労してましたけど、きっかけを掴んだらすぐに土の呼吸を会得しましたよ。成長著しいので、よかったら今度稽古をつけてくれませんか?師弟揃ってはちょっと恥ずかしいですけれど」

 

「俺らのは手合わせだろォが!まァつけてやってもいいけどよォ」

 

「ありがとうございます!じゃあ今度連れて来ますね。あ、うちの近くを通ったら寄って貰っても。私も佳成も、任務以外は常に家にいるので」

 

斗和は茶を啜り、よかったと思った。

これで佳成も変化があり刺激になる。

更に斗和への恐ろしい打ち込みも減るだろうと、その期待を含んでいる。

 

(さて茶も飲んだしそろそろ帰ろう。帰って任務の仕度をしなきゃ)

 

斗和は立ち上がり実弥に挨拶しようとした。

すると、もの凄い目で斗和を見ている。

思わず息を呑んだ。

 

(何で睨んでるの!?今まで平和に会話をしていたでしょう!)

 

どうしようと声を掛け、れずにいると、実弥は縁側に立ち斗和を見下ろす。

 

「てめェは男と一つ屋根の下で暮らしてんのかァ!?」

 

「!」

 

実弥はいきり立つ。

どうしてそんなに怒っているのか、斗和は訳が分からない。

 

「そんなの…継子なんだから当たり前じゃないですか!任務の合間に稽古をつけるんですよ。無駄にする時間なんてありません!」

 

負けじと言い返すと、実弥は斗和に近付いて胸倉を掴んだ。

 

「!?」

 

「自分は女じゃないとでも思ってんのかァ?…自信もなけりゃ節操もねェときた。冨岡の野郎見て顔赤らめたり、てめェも忙しい女だなァ!」

 

斗和を射貫く両眼には、ほとばしる程の怒りが籠もっていた。

眼前に迫る実弥の顔に、斗和は胸が締め付けられる。

怖いのに目が放せず、なぜだか酷く苦しい。

 

すると実弥は胸倉を掴んでいた手を放し、斗和を一度も見ることなく廊下の奥に消えて行った。

 

「佳成さは恋人がいるんだじゃ!おらみてえな醜い女が、どうこうなるわけねえでねが!節操なんぞおらさはいらね!不死川さんの馬鹿たれ!(佳成には恋人がいるんです!私みたいな醜い女が、どうこうなるわけないじゃないですか!節操なんて私には不要です!不死川さんの馬鹿!)」

 

斗和は悔しくて叫ぶ。

胸が詰まり苦しくて涙がこぼれた。

 

 

すぐに刀を掴み荷車を引いて風柱邸を出ると、勢いよく涙が溢れてきた。

 

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