斗和は、風柱邸から泣きながら荷車を引いて帰宅した。
夏世は既に帰っており、継子の佳成が任務へ行こうとしていた。
「師範!?何で泣いてるんですか!柱合会議で何かあったんですか?…野菜は渡せたんですよね?遅いなと思ってましたよ…これから任務ですよね、大丈夫ですか?」
「…うっ…っく…」
斗和がぐずぐず泣いて何も言わないので、佳成は一人慌てふためく。
任務が迫っており、斗和はこうしてはいられないと涙を拭った。
「…大丈夫、着替えてくる」
急いで家に入り一般隊服を脱ぎ野良着隊服に着替え、頭に手拭いを巻く。
井戸で顔を洗えば、幾分かすっきりとした。
心配そうな佳成と別れ、斗和は警備区域へと向かった。
(この怒りと悔しさを鬼にぶつけてやる…!)
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鬼にすべての怒りをぶつけたおかげか、任務は非常に早く終わり、斗和はさっさと帰宅し寝た。
翌朝早くに目覚めると、庭で土の呼吸を壱から玖まで全て出す。
バキッ!!
「あ…」
勢い余り、隅に置いていた荷車を破壊してしまった。
斗和はそれを見て更に怒りが込み上げる。
昨日のことを思い出す為、荷車が破壊されても構わなかった。
思い出すと腹は立つし、悔しいし辛いしで斗和は酷く頭が混乱していた。
(自信はない、節操がない、女じゃないと思っている?冨岡さんに顔を赤らめた?何言ってんの…!)
随分な言われように、持っていた日輪刀を強く握り締める。
実弥はなぜあんなにも怒ったのか。
義勇の件は勘違いだと言ってある。
あれは炭治郎と出会ったのかを知る必要があり、最近雪山で任務をしたかの確認をしたのだ。
今は秋だと即答され、羞恥に顔が赤くなっただけである。
斗和は、これまで考えてもみなかった。
節操がない行動だったとは思わない。
それよりも優先すべきことがあるからだ。
継子とは共に暮らさないと稽古にならない。
自分の鍛錬もしなければならず、時間がないからこそ最善の方法だ。
そして、傷のある醜い女が節操を持ってどうなるのかと思った。
そんなものは持つだけ無意味だ。
結果、佳成と暮らしていることに何も問題はなかった。
寝るのは明るい時で、常に恋人である夏世がいるのにどうにかなるわけがない。
だが、しばらくして斗和は項垂れる。
冷静に考えてみれば、結婚もしていない年頃の男女が同じ家にいるのはおかしい。
佳成自身は何とも思っていないと分かる。
しかし、夏世はどう思っているのか気になった。
自分の恋人が、その師の女と一つ屋根の下にいる。
(やっぱり嫌?もしかして…雇い主だから言い出せないだけ?)
夏世は斗和が不在で、佳成が任務の無い時にだけ泊まっている。
そして翌日の斗和の帰宅前には、既に二人共起きている。
もし斗和がいなければ朝はもっとゆっくりできる上、佳成の世話もしてあげられる。
斗和はとたん、サーッと青ざめる。
(私、もしかして…もしかしなくとも盛大な邪魔者?)
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斗和は、いつものように畑にいる夏世に草取りをしながら近付いた。
「夏世ちゃん、おら…この家…出た方がいがえが?(夏世ちゃん、私…この家…出た方がいいかな?)」
斗和は言い難いので、ゆっくり窺うように聞いた。
すると、手を止めた夏世は怪訝な顔を向ける。
「いぎなり何だじゃ?ここは斗和ちゃんの家だべ?出るなら佳成さんの方だねが?(いきなりどうしたの?ここは斗和ちゃんの家でしょう?出て行くなら佳成さんの方じゃない?)」
斗和はハッとした。
(そうだ、私ったら馬鹿だな。何で自分の家を出なきゃならないの…聞き方が悪かった)
「いや、んでねぐてな…佳成がこごさ一緒に住んでるこどで、夏世ちゃんさ嫌な思いさせてんでねえがど思ったんだ(いや、そうじゃなくてね…佳成がここに一緒に住んでいることで、夏世ちゃんに嫌な思いさせてるんじゃないかと思ったんだ)」
何と言われるか怖くて、斗和は俯いた。
「そんたなごど思ってるわけねえべ!(そんなこと思ってるわけないでしょ!)」
「!」
その言葉に、斗和は顔を上げ夏世を見つめる。
「おらは雇われた最初っがら、斗和ちゃんを信頼してんだ。家ん中好きに使えって言われで、ちゃんと給金貰えてる。その他に小遣いまでくれるでねえが。…何より、佳成さんと引き合わせてくれだのは斗和ちゃんだべ!おらにはどちらも大事だ。佳成さんが強さに憧れて継子志願した人を、邪魔なんて微塵も思っでね!斗和ちゃんには感謝しかねんだ!(私は雇われた最初から斗和ちゃんを信頼してるよ。家の中を好きに使えって言われて、ちゃんと給金を貰えている。その他に小遣いまでくれるじゃないの。…何より、佳成さんと引き合わせてくれたのは斗和ちゃんでしょう!私にはどちらも大事だよ。佳成さんが強さに憧れて継子志願した人を、邪魔なんて微塵も思ってない!斗和ちゃんには感謝しかないよ!)」
斗和はポロポロと涙を流す。
少しだけ怒りいつもの笑顔を向ける夏世を見て、斗和は心が温かくなった。
夏世の笑顔がいよいよぼやけて見えなくなると、脳裏にある人物の顔がよぎる。
(そんな顔、しないで…)
それから数日後、斗和は十九歳の誕生日を迎えた。
昨年同様に祝ってくれた佳成と夏世に何度もありがとうと伝え、三人で笑い合う。
鬼殺隊七年目。
斗和は柱として、激動のあの物語に飛び込んでいった。