斗和が柱合会議から帰宅すると、上機嫌なのに気付いた佳成が怪訝な顔を向ける。
「…今度はやけに機嫌がいいですね?二週間前は泣いて帰ってくるから驚きましたよ。柱合会議は、そんなに感情の起伏が激しくなる場所なんですか?」
それは斗和だけだが、前回は実弥との手合わせさえなければ泣くことなどなかった。
今日も会話はしないままだ。
斗和は、気まずいと思いながらも言われたことを考える。
知らずに自分の行いが、夏世に嫌な思いをさせていたかもしれないと気付かされた。
声に出して気持ちを確認できたことは、良かったのだ。
指摘されなければ、分からないままだったからだ。
実弥には感謝しなくてはいけない。
だが、顔を合わせたくない。
最初も二回目も、斗和は手合わせの後に怒られてばかりだった。
(怖いよ…)
実弥の方も、斗和の顔は見たくもないと思っている可能性が高い。
しかし、斗和は未だに藤の家まで運んで貰った礼をしていなかった。
あれだけの距離を運び、言葉だけでは足りない。
何かないかと考える。
やはりおはぎかと思うも、それをどうやって渡すかだ。
(…そうだ!佳成の稽古!つけてくれるって言っていた)
斗和は早速、鍛錬に戻っていた佳成を追いかける。
「佳成!あのね、不死川さんが佳成に稽古をつけてくれるって。私とだけじゃ単調になるから、お願いしてきたの。明日にでも行ってきて!」
手を合わせて頼み込むと、佳成は不思議そうに目を丸くした。
「不死川さんって…え!風柱ですか!?行くのはいいですけど、どういう流れでそんな話しに?仲がいいんですか?」
仲がいいならば、毎回あんなことにはならない。
斗和は即座に否定する。
「よくない、むしろ悪いよ。前にちょっと手合わせをしたの。その時に継子の話しになって、流れでね」
仲が悪いのに、なぜ継子の稽古の話題になるのか。
佳成は益々疑問が湧いた。
「あの人の打ち込み稽古は、血反吐を吐いても何してもやめないからね。失神したら一区切りなんだって。無惨が相手だと思い込めばなんとかできるよ、頑張って!」
「……分かりました、じゃあ明日行きます」
佳成は諦めたように遠い目をして、頷く。
あとはおはぎだと、斗和は次は畑へ向かう。
「夏世ちゃん!」
畑で収穫後の片付けをしていた夏世に声を掛ける。
「おはぎこしぇれるが?明日佳成が風柱んどごさ稽古さ行ぐはんで、持たせでけろ(おはぎ作れる?明日佳成が風柱のところに稽古に行くから、持たせてあげて)」
「分がっだ。斗和ちゃんは行がねの?(分かった。斗和ちゃんは行かないの?)」
「おらは行がね。じゃ頼むな!(私は行かない。じゃあ頼むね!)」
とんとん拍子で話しが進み、斗和は満足する。
これで佳成におはぎを持たせ、稽古をつけてもらえばいい。
おはぎで少しでも機嫌がよくなりますようにと、祈ったのだった。
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翌日。
夏世の作ったおはぎを持った佳成が、実弥の家に向かう。
それを見届け、斗和は自室へ向かった。
早速杏寿郎に、手合わせの文を出すのだ。
横切った台所で夏世から茶とおはぎを渡されたが、嫌いだからごめんと返した。
実は斗和は、おはぎは嫌いである。
大福も団子も羊羹も食べるが、おはぎだけは嫌いだった。
田舎にいた頃は、母親や弟妹たちがよく作っていた。
餅米を潰すことを半殺しにする、皆殺しにするなど物騒なことを言いながら手を動かしていた。
斗和はそれを見ていた。
そう。
作りもしていないし、食べてもいないのだ。
食わず嫌いというものかもしれないが、斗和はあれだけはいくら腹が減ろうと食べる気にはならなかった。
その斗和が嫌いなおはぎが好物というのが、実弥だ。
好物を超えた大好物で、義勇の鮭大根愛と同等だと思っている。
なぜなら、柱稽古で休憩中食べていた香りを炭治郎に気付かれていた。
(あの泣く子が更に泣く、凶悪な風貌言動の風柱が…おはぎが好き。あーこれ皆に言いふらしたい!)
斗和は筆を持ちニヤリとする。
が、次の瞬間固まる。
なぜそれを斗和が知っているのか。
実弥が自ら"俺はおはぎが好きなんだ"などと言うわけがない。
斗和は当然ながら、本人から聞いていない。
(まずい…!)
瞬く間に青ざめていく。
よかれと思いおはぎを持たせたが、数ある甘味でおはぎを選んだ理由を聞かれたら困ってしまう。
しかも甘味なんて食べそうにもない実弥にだ。
こうなると、佳成がうまく言ってくれることを願うしかない。
(頼む!間違っても…師範はおはぎ嫌いなんですけど、不死川さんに持っていけって言うから、なんて言わないでよ!大丈夫かな…)
斗和はガックリと項垂れる。
いい案だと思ったのは間違いであった。
どうしてよく考えないで動いたのかと、後悔する。
それでも杏寿郎からは、さつまいもが好きと聞けた。
これからは堂々と持って行けるのだ。
煉獄家に行くときは、夏世に教えて貰い芋羊羹を作って行こうと決める。