その後斗和は、耀哉に日輪刀を特殊な形状でお願いしたいと言った。
すると耀哉は、ではすぐに刀鍛冶師を寄越す手配をすると返答した。
斗和は我儘をすいませんと、何度も丁重に謝罪をしつつ更に我儘を重ねようとしていた。
それは任務についてだ。
斗和は、土の呼吸を使っていて感じたことがあった。
いくつか編み出した型、その技の範囲がなかなかに広いのだ。
師の岩の呼吸も相当なものだが、土の呼吸はそれ以上かもしれないと思っていた。
要因として、斗和は力加減が苦手だった。
とにかく技を出す時は全力を出す。
よって、周囲をめちゃくちゃにしてしまうことも多々あった。
一対一ならば気兼ねはしない。
だが隣に仲間がいて、もし巻き添えを喰らわせてしまったら?と気になって集中できないのである。
斗和は一年間、育手以外と接することなく過ごしてきた。
そのせいか同じ空間に誰かがいたり、見られながら戦うのは居心地が悪いと感じていた。
なんとも言えない緊張や焦りが生まれる。
最終選別では悲鳴は聞こえど、誰とも会わなかったので気兼ねなく刀を振るえたのだ。
つまるところ一人が楽なので、任務は単独のばかりを回してもらうよう頼むのだ。
新米隊士が鬼殺隊の当主に文を出すなどありえないし、聞き入れられるか分からない。
だが、斗和は出すと決めた。
まずは師に報告しなければと、斗和は七日間滞在した藤襲山を後にした。
疲れているはずたが、東根山へと帰る足取りは軽かった。
斗和はその道中、相棒となった鎹鴉に話しかけてみた。
「おらは蓬萊斗和、十三歳。おめはんは?(私は蓬萊斗和、十三歳。あなたは?)」
「…………」
鎹鴉なは斗和の問いかけに答えない。
名前がないのだろうか。
「んだばよ、名前がねんだば呼びにぐがらおらが付けていがべが?おめはんは、きまりや掟という意味の令に和物の和で令和。どうだえ?(だったら、名前がないと呼びにくいから私が付けてもいいかな?あなたは、きまりや掟という意味の令に和物の和で令和。どうかな?)」
「…………」
またもや返事はなかったが、かなり大人しい鴉なんだろうと思うことにした。
令和とは、斗和が前に生きていた時代の元号である。
鴉が雄か雌か分からないが、大丈夫だろうと、斗和は小さく頷く。
鎹鴉・令和がこの時喋らなかったのは、斗和の方言に驚いて言葉を失ってしまったからだった。
──────
─────
東根山。
その中腹の畑で、師が畑作業をしているのが見えた。
「師匠ー!帰ってきましたー!」
腕をぶんぶん振り、精一杯声を張り上げる。
おそらく足音で気付いていただろう師は、驚いた様子もなく振り返る。
隻眼になろうと元・柱であり、貫禄があるなと斗和は改めて思った。
「師匠!戻りました!私、私、最終選別に合格したんです!師匠がこれまで教えてくれたから頑張れたんです!生き残れたんです!私……!」
斗和は鼻の奥がツンとし、視界がぼやける。
すると次の瞬間、師の腕の中にいた。
「よく頑張ったな、斗和。よく頑張った!お疲れさん」
温かい大きな手に頭を撫でられ、涙腺が一気に緩む。
「うっ、うっえっうわあーん!!」
斗和は、師に抱き着いたまま、子供のように泣いてしまった。
確かに斗和は見た目は十三歳になりたての小娘だ。
だが中身というか以前は二十九歳だったので、些か恥ずかしく思えた。
しかしそんなことも気にならないくらい、安堵の気持ちが大きかった。
しばらく泣いたあと、頭上から声が聞こえた。
「におうから風呂に入れ」
容赦ない言葉に、斗和は師から離れ家に向かった。
「はーい。…自分だって加齢臭がするおっさんなのに」
「おい聞こえてるぞ!」
その声に、斗和は慌てて風呂へ向かった
◇
七日ぶりの風呂に入り、上がってすぐに斗和は気を失うように眠ってしまった。
その時見た夢は、暗がりの先から聞こえるため息と舌打ち。
そして斗和を射貫く冷たい目だった。
(あれは誰…?)