※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

60 / 190
※館坂佳成視点


風柱の稽古

二回目の柱合会議から帰宅した師範に、風柱から稽古をつけてもらえと言われた。

 

風柱と言えば白銀の髪に大きな血走った目、その顔と体にたくさんの傷がある男だ。

鬼を殲滅することに異常な闘志を燃やす、隊内一恐れられている男でもある。

 

俺は噂でしか聞いたことがなく、実際会ったことは一度も無い。

そんな風柱と師範が、手合わせをするような仲だとは初耳だ。

だが仲は悪いときっぱり言うので、よく分からなかった。

仲が悪いなら手合わせなどしないと思う。

 

明日にでも行けと言われたが、気が重かった。

それでも尊敬する師範の指示だ。

考えがあってのことだろうと思った。

 

 

 

 

 

翌日昼過ぎ、夏世の作ったおはぎを持ち鴉の案内で風柱邸に赴く。

 

 

道中考えたのは稽古の内容だ。

師範が言うには、反吐をどれだけまき散らそうが終わらず、失神したら一区切りという壮絶な稽古。

生きて戻れるか不安になる。

 

このおはぎは土産兼稽古をつけて貰う礼なのだろうが、なぜおはぎなのか。

団子でも大福でも羊羹でもなく、おはぎなのはなぜだ?

まさか風柱の好物なのか?

 

夏世は甘味の方が得意なので、恥ずかしくない味だし食べてはくれるだろうけども。

 

それにしても師範は、泣いたり笑ったり忙しい人だ。

泣いた理由は分からないが、上機嫌なのは煉獄杏寿郎が炎柱に就任したからだろう。

想い人のようだし、一緒の柱になったのが嬉しいのだと思う。

 

世話になっている師範には幸せになって欲しい。

自分のように愛する人と。

それがあの頼もしい炎柱であれば、顔の傷など気にせず笑ってくれるだろう。

 

師範は自分を醜いと思っている。

隠すことはしない傷だが、一度たりとも年頃の娘のように着飾ろうとしない。

化粧もせず毎日野良着だ。

背も女にしてはあり、男並に力もある。

十二歳から修行をし、十三歳で鬼殺隊に入り柱にまでなった女性。

隊に入ったきっかけは知らないが、何か大きな目的があるような感じがした。

ただなんとなくだけど。

 

それでも女として幸せになって欲しい。

 

「カァッ!風屋敷ィ!」

 

鴉の声に、弾かれたように顔を上げた。

いつの間にか風柱邸に着いていた。

門を潜り玄関の前で声を張り上げると、庭の方から屋敷の主が登場した。

 

白髪、顔と体に走る何本かの傷、鋭く自分を見る目。

間違いない、風柱だ。

百八十八ある俺だが、この男も百八十近くあるだろう。

 

「誰だァ?」

 

「初めまして。土柱・蓬萊斗和の継子、館坂佳成です。稽古をつけて下さるとのことで来ました。忙しいところすみませんが、よろしくお願いします。これはうちの師範からです、どうぞ」

 

おはぎの包みを風柱に渡す。

風柱は訝しげに受け取ると、庭で待っていろと告げ玄関へ消えた。

 

自らの日輪刀、木刀と持参はしたがどちらを使うのか。

基本的に稽古は木刀が殆どだろうが…。

土の呼吸の技は、おそらく木刀など一般的な刀の形状で撃つのは不向きだ。

師範も俺も威力が大分落ちてしまうので、鍛錬では師範は鍬を、俺は自らの刀を使っている。

打ち合いになればさすがに木刀なので、今日もそうだろうと予想する。

 

 

 

すぐに戻ってきた風柱は、木刀を持っていた。

やはりとそれに倣う。

 

突進してきた風柱の打撃は相当に速く、強烈でやり返すことができなかった。

 

風の呼吸の使い手は何人も見てきたが、その比ではない。

技を出していなくてもこれ程の風圧では、打撃が何倍にも増す。

更に速いので反撃する暇がない。

一瞬でも気を抜くと、死ぬのではと思う。

 

無限打ち込み稽古とも呼べるそれは、文字通り無限に続いた。

 

口の中が切れ、何度目かになる血反吐が出て後方に下がった。

 

「てめェの力はこんなもんかァ?」

 

挑発するように言われ、せめて一撃をと思い構える。

 

 

─土の呼吸 漆ノ型 霜柱・氷結烈糸(しもばしら・ひょうけつれっし)

 

霜柱のように、縦に斬り刻むのと突き刺す力が混ざった技だ。

一般的な刀でも威力が落ちないので、木刀でもそれなりなのだ。

 

風柱の持つ木刀に、縦に大きくひびが入ったと思ったら、なんとそれを手放し眼前に拳が迫る。

 

(今度は素手か!)

 

こちらも応戦するが、これまた拳も足蹴りも速い。

だが体術ならば俺は師範にも勝る。

風柱の拳も足蹴りもすべて止め、一瞬できた隙から猛反撃した。

 

脇腹に大きく蹴りが入ったところで、風柱は終わりだと告げる。

 

井戸を使えと言われ、顔を洗い傷を洗う。

茶を用意したから縁側に来いと言われ向かうと、盆に湯気のたつ茶と水とおしぼりがあった。

 

礼をし腰掛けると、茶のいい香りが鼻孔をくすぐる。

いい茶葉を使っていそうだ。

粗暴にしか見えない風貌なのに、細やかな気遣いができる男である。

感心する。

 

自分の太刀筋や動きはどうだったか聞くと、太刀筋は悪くないが、動きに隙が多すぎるからもっと速くなれと。

体術はなかなかだと言われ、岩柱直伝で実は師範にも教えていることを言えば驚いていた。

 

「この前、あいつから方言使われてよォ。聞いたことねェから驚いたが、蓬萊はどこの生まれだァ?」

 

「東北です。夏世…あ、畑管理の娘も東北出身でよく方言で話してますよ。慣れないと聞き取れないですよね?」

 

師範は夏世にしか方言で話さない。

興奮したりすると出てしまうとは言っていたが、風柱に方言で話すとは珍しい。

何かあったのだろうか?

 

「いや…なんとなくは分かる。お前に恋人がいるってことと…そんくらいだァ」

 

何か言い淀んだが、それよりも最初の言葉に慌てた。

 

「何で師範は不死川さんにそんなことを!?」

 

「継子と暮らしてるっつうから…」

 

まさかあの日泣いて帰ってきたのは、この人からそれについて何か言われたからか?

 

「…俺は最初、通うって頑なに断ったんです。でも師範は、一刻でも無駄にしていたら強くなれないって言いました。起きたらすぐ刀を握れって。それでも本当はよくないんだろうけど、早く土の呼吸を会得したかった。師範のように強くなりたかった。…だから同じ家にいるんです。師範は俺のことを考えてくれた、ただそれだけです。あの人は自分そっちのけで他人を考える人ですから」

 

「………」

 

不死川さんは何も言わない。

 

「師範には本当に感謝しているんです。岩の呼吸を半端にしか使えなかった俺に、根気強く土の呼吸を伝授してくれた」

 

俺は最初に壱ノ型を出した時を思い出す。

あれは本当に驚いた。

 

「俺があまりに不甲斐ないから、師範は俺の大切な人を斬ろうとしました。そんな腑抜けなら、大切な人も到底守れないって。それをきっかけにここまでになれた。…これからもたまには稽古つけて下さい。師範と不死川さんの手合わせも見取り稽古したいし、よろしくお願いします!」

 

目を見てしっかり頭を下げれば、不死川さんは笑う。

 

「師弟揃って似たようなことしやがるなァ。俺でよけりゃァいつでも相手してやる、また来い。土産、ありがたく頂戴する。…礼、あいつにも伝えとけェ」

 

少しだけ表情の和らいだ不死川さんに、堅くなっていた緊張も解ける。

 

帰り仕度をしながら最後に聞いた。

 

「そういえば、おはぎ好きなんですか?」

 

「だったら何だァ」

 

和らいだはずの表情が元に戻る。

悪いなんて言ってないのに。

 

「いや…師範が自分の嫌いな物をわざわざ不死川さんにあげるってことは、好物なのかなと思ったんです」

 

そのあと俺は一目散に風柱邸を後にした。

帰り際の不死川さんの顔はまるで鬼、いや鬼以上になっていた。

殺されるんじゃないかと思った。

 

俺、なんかまずいこと言ったかな?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。