音柱・宇髄天元から、警備区域の巡回を代わりに頼まれ、その帰りのことだ。
任務が思ったより長引きそうだから二日程頼むと言われ、二つ返事で引き受けた。
困った時は助け合うというのもあるが、黙っている時間を作りたくなかった。
草の根をかき分けてでも、醜い鬼共は殲滅してやる。
それに宇髄の警備区域が、自分の警備区域と隣接しているので、苦にはならない。
いつもより時間は掛かったが、現れた鬼二体の頸を斬ることができた。
一体はなかなかに強かった為、己の稀血を使い倒した。
助けた老夫婦は共に随分と弱っていた。
更には暮らしぶりが悪かったので、薪割り、掃除、家の修繕、買い物などあれこれしてやった。
その為、朝もとうに過ぎた時間に帰路に着いたのだった。
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町中(まちなか)を通れば、蕎麦の屋台から汁のいい香りがした。
空腹に腹が鳴り、食べて行くことにした。
かけそばを大盛りで頼み、左端に腰掛ける。
朝でもない昼でもない時刻、他の客はいない。
店主は自分の顔を見てぎょっとしていたが、"あいよ"と言ってすぐに作り始める。
そうして出てきた熱い蕎麦を前に、手を合わせ食べ始める。
すると三口食べたあたりで、右側から女の声がした。
「一つ下さい!」
自分もだが、こんな時刻に女が屋台で蕎麦とは…と何の気なしに横目で一瞥して驚く。
「!」
「!?」
そこにいたのは蓬萊斗和だった。
あちらも同時に気付き、目を見開いてこちらを見ている。
合った目をぐるりと一週回した蓬萊は、お疲れ様ですと言い真っ直ぐ前を見る。
なぜこんな所で会うのかとは思ったが、気にしないふりをし再び蕎麦をすする。
蓬萊は程なくして出てきた蕎麦を、静かに口に運んでいるようだった。
正直、顔を合わせるのは気まずい。
前回手合わせをした後の会話でカッとなり、いろいろと言ってしまった。
継子がいて共に暮らしていると言われ、冷静でいられなかった。
自分を女だと思っていないのか無頓着なのか、飄々と話す蓬萊の胸倉を掴んだ。
自信もなければ節操もない、冨岡を見て顔を赤らめるなど勢いで口にしてしまった。
そのあと方言で継子には恋人がいる、自分のような醜い女がどうこうなるわけないと叫ばれた。
それでも、むしゃくしゃとした気持ちが収まらなかった。
継子に恋人がいようが、男に変わりないのに。
とにかく危機感が全くない蓬萊に、怒りを覚えた。
その後例の継子が現れ、苛立ちをぶつけてやった。
筋骨隆々で背の高いこの男と暮らしているのかと思うと、腹が立って仕方がなかった。
だが稽古後、継子が話した内容は意外なものだった。
通うという継子を止め、時間を無駄にするなと一喝。
そして共に暮らすことにしたらしい。
早く強くなり、鬼を倒すという継子の決意を一番に考えたのだ。
蓬萊は自分そっちのけで他人を考える人だと、真剣な顔で話す継子を見て何も言えなかった。
怒りに任せて放った言葉を詫びなければと思っていた。
偶然にも会ったのだ。
一言詫びて帰ろうと決め、蓬萊が食べ終わるまで待つことにする。
代金を置いて席を立ち、屋台が見える場所で待つ。
◇
しばらくすると蓬萊は席を立ち、満足顔で颯爽と先を歩いて行く。
歩くのが速い女だと思いつつ左腕を掴む。
「おい待てェ、顔貸せェ」
状況を掴めない蓬萊の腕を掴んだまま、先を歩く。
掴んだ左手首は相変わらず細い。
背負った時体重はそれなりにあったが、それにしては手首が細いので折れないかと思う程だ。
人がまばらになった道端で腕を放すも、いざ詫びるとなると妙に照れくさい。
「…この前は…怒鳴って悪かったなァ」
どうにか口を開けば、信じられないと言わんばかりに驚愕している。
「てめェの継子が気にしてたからよォ…」
「あ、いやえっと…私も馬鹿って言ってすいません」
突然の謝罪に戸惑っているのか、しどろもどろながらあちらも謝ってくる。
「方言丸出しで馬鹿たれっつってたもんなァ」
蓬萊が、訛りと方言を遣うとは思いもしなかった。
聞いた時は驚愕した。
東京にいて方言なぞ耳にすることもない為、異国の言葉に感じた。
「興奮すると出るんですよ。不死川さんは殆ど理解できないでしょう?…おめはんだまんつ怪我こしぇでばりでわがね。すんぺになるべじゃ」
お前は怪我してばかりでだめだ、すんぺ?
…心配になる?
俺を心配しているのか…?
黙っていると、蓬萊はほくそ笑み、意気揚々と身振り手振りで説明しだした。
「いいですか、おめはんだまんつ怪我こしぇでばりでわがねは、あなたはいつも怪我を作ってばかりでいけませんねという意味です。すんぺになるべじゃは…心配、になるじゃない、という…。あっ怪我!不死川さん右腕怪我してますよね!?血が滲んでいますよ!ちゃんと手当てしないと!」
詫びたらすぐに帰るつもりだった。
だが足は勝手に歩き出していた。
後ろをついてくる蓬萊の気配を感じながら屋敷まで来た時、俺は自分がよく分からなくなった。